いか焼き

お祭りといえば、かき氷にわたがしにりんごあめ、それから焼きそばにいか焼き!とにかく私の大好物が勢揃いする一大イベント!行かない訳がない。

友達と神社の前で待ち合わせをしてそれはもう屋台を片っ端から練り歩いた。首から小銭が沢山詰まったがま口財布をぶら下げてかき氷とチョコバナナを両手にスタンバイ完了。お祭りでの遊戯は断然カタヌキ派な私は、食べながら金魚すくいに熱中している友達の奮闘ぶりを見守っていた。
両手のストックが切れても止むことのない友達と金魚達の白熱した闘いに『いか焼き買ってくる』と言うと無言で頷く友達を残してそっと金魚すくいの屋台から立ち去った。

他の屋台に目を奪われつつも目的のいか焼きとのれんの掛かった屋台へたどり着いた。おじさんからいか焼きを1本受け取って途中で見かけた焼きとうもろこしも美味しそうだったなあなんてにやけながら振り返ると、あらあら。可愛らしいピンクの浴衣をきた女の子を連れた黒曜中の残念な自称イケメンとばっちり目が合った。

「馬子にも衣装…いや、色気より食い気ですか」

こんなごった返している人混みの中をどういうわけかすいすい通り抜けて私の前まで来たかと思えば、出会い頭に失礼極まりない事を言われた。

『うるさい!デート中なんでしょ、早く彼女のところに戻れ!』

六道の横を通り過ぎようとしたその時、ドドーンと盛大な音を立てて一際大きな花火が打ち上がった。音にびっくりしていか焼きを頬張るのも忘れて見上げていると六道がガシッと後頭部を抑えてちゅうしてきた。彼女と来てるのになんでこんなことしてんだ。彼女はというと花火に夢中になっていてこっちに気づいていない。おいコラ!バレたらまた私ビンタされんじゃんか。TPOをわきまえやがれ。そう思いながら六道から離れようとしたらガシリと掴まれてどこかに歩き出す。その拍子にポロリと手にしていたものが落ちた。

『ちょっと!』
「なんですか」
『いか焼き!』
「…後で好きなだけ買ってあげますから我慢なさい」
『………』

何度だって甘い誘惑にはしっかり乗ってしまう。

『どこ行くの?』
「静かな所へ」
『なんで?』
「…本当は、君にはもう会わないつもりでした」
『へ?』
「でも気が変わりました」
『なに言って…、わわっ…!』

神社の境内に入って人気のないところに連れ込まれると押し倒された。

「あんな所にぼけっと立っていられたら仕方ないでしょう?」
『はぁ?!』

突然訳の解らない事を言われたかと思えば口を塞がれた。苦しい。いつもみたいにふわふわする気持ちのいいやつじゃなくて、もっと苦しくて激しくて心臓がばくばくして爆発してしまいそうなやつだ。息もうまく出来ない状態でダラダラ唾液が口から溢れていく。襟をぐっと引かれて浴衣がはだけた。

『あ、ばか!気直し出来ないんだからグシャグシャにしないでよね!』
「後で直してあげます」

ちゅう、と優しく首筋に噛みつきながら合間に答えていく。

『あと、中学生はちゅうまでってこの間言ったでしょ!』
「実は僕、中学生じゃないんですよ」
『なんでそんなバレバレな嘘つくの!』

六道の頭を両手で掴んで離すとびっくりして固まってしまった。

「…少し黙って」
『んぐ…ぅ…』

こんなに切なそうに目を細める六道なんて見たことがなかった。いつだって余裕そうにしているか、人を馬鹿にした顔しか浮かばなくて。
ああもう六道が考えている事なんて全然わかんない。
身体中いっぱいちゅうされて、いっぱい触られているあいだ私はわんわんバカみたいに声をあげて泣いていた。



それからどうやって家に帰ったのかよく覚えていない。目が覚めたら自分のベットの中だった。一瞬夢だったのかと思ったけどすぐにそんな筈はないと身体中がギシギシ悲鳴をあげている。次に六道に会ったらあれは一体何だったのか聞き出そうと思っていたけれど夏休みが終わっても学校に姿を現すことがなかった。電話やメールを何度かしてみたけど全然繋がらなくて返事がなくて途方に暮れた。

結局、買って貰える筈だったいか焼きも手にする事もなく、私は今日もぽっかりひとつだけ空いた席を見つめている。





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