もずく酢

スーパーで最近のマイブームもずく酢を購入してほくほくと出てきたところで懐かしい顔にばったり出くわした。

『あ、やり逃げ犯!』
「こんなところで何を言い出すんですか」

ぺしっと軽く頭をはたかれたが、そんなことされたってこっちだって負けてられないんだから!

『本当のことでしょう!私、何回も連絡したのに全然返事が返ってこないし、挙げ句の果てはお客様のご都合で繋がらなくなっちゃうし!私ちょう可哀想!』

私の怒濤の抗議に恐れをなしたのか、うるさそうに眉をしかめてこっちに来なさい、と腕を掴まれた。

『いやっ!また人気の無いところに連れ込まれて弄ばれた後、ボロ雑巾みたいにその辺に捨てるつもりね、不潔!』
「しませんよ」
『男はいつだってそう!散々利用して…』
「…黙れ」

あれ?本気で怒ったのかな。思いの外ドスのきいた声が返ってきて驚いて六道を見ると、むっとした顔をしていた。

「大体連絡と言ってもメールにはいか焼きとしか書いてないし、留守電にもいか焼きいか焼きと小声で吹き込んでただけじゃないですか!それを聞いて僕にどうしろと言うんです」
『…だって買ってもらってないもん』

口をとがらせながらそう言うとまるで残念なものでも見るような目で見下ろされた。

「君は本当に色気より食い気なんですねぇ」
『だってあれからいか焼き食べてないもん』
「はぁ」
『何そのやる気のない返事!私、大好きないか焼き10年も食べれなくて超可哀想!悲惨!』
「食べればいいじゃないですか」
『だって買ってもらってないもん』
「その辺にいくらでも売ってあるでしょう」
『…六道に買ってもらってないもん』
「は、」

ポカンとして、それからまじまじと見つめられる。

『変なかお』
「失敬な」

すかさずビシッとチョップが振りおろされる。それからくしゅと頭を撫でられて昔から変だと思っていたクフフフとかいう六道お得意の笑い声が聞こえてきた。

「本当に君は昔から可愛いですねぇ」
『初めて聞いた』
「でしょうね」

しれっとした顔が憎たらしい。でもあの頃は気づいていなかったが、私はこの顔が大好きだった。この顔を見るとちょっと痛いのを我慢すれば肉まんとかちょこまんとかガリガリくんとか買ってもらえそうな気がするからとかではなく。たぶん。

「ところで、」
『なに?』
「キスしていいですか?」
『初めて聞かれた』

でしょうね、とまた笑って六道の口が近づいてくる。懐かしい六道の味がした。




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