流される骸8

自室でいつものように執務をしていると、軽い足取りでパタパタと駆けてくる足音が聞こえてきた。
足音が部屋の前で途絶えたかと思うとノックもそこそこに勢いよくドアが開かれる。

『骸さん!骸さん!はい!』

小さな木の箱を手に嬉しそうにこちらへと駆け寄って来たなまえ。箱の蓋を開けて何やら差し出してくる。怪訝な顔でその差し出されたものを見た。

「何です?鰻?」
『はい、土用丑の日です!鰻のせいろ蒸しです!』

にっこり笑って食べろとばかりに更に押し付ける。
前回の教訓を活かし断ろうとしたが、にこにこと笑うなまえに無下に断る事もできずに結局、箸を握らされた。

「はぁ、では頂きます」

言われるがまま箸を手に取り恐る恐る鰻を口に入れる。
甘いタレが口いっぱいに広がる。時折山椒が効いてアクセントになり甘ったるだけでなく全体にさっぱりとした口当たりだ。



「美味しかったです、ご馳走さまでした」
『お粗末さまでした。精がつきましたか?』
「は?」

食べ終えた容器をささっと机の端に追いやると膝に座り、口付けてこようとするではないか。

「ちょっ、ちょっと…なんですか」

慌てて近づいてくるなまえの口を塞ぐと、ぶふっと空気の抜けた音をたてて掌に衝突する。

『だって骸さん鰻食べたじゃないですか!』
「食べましたね」

ぷぅと頬を膨らませて拗ねたように見上げてくる様は可愛らしいのだが鰻を食べるのとキスを迫るのがどうしてイコールになるのか。

『だから私は鰻を食べた骸さんを頂いて精をつけます』
「馬鹿ですか」
『ヒドイ!』
「酷いのは君の頭です」
『食物連鎖の掟に従って美味しく頂かれてください!』
「ちょ…なに、やって…ん、ぁ…」

上目遣いでにやりと笑いながら滑り込んできた手がやけに汗ばんでいた。




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