日を跨いで幾分か過ぎた頃、並盛の公園で待ち構えていると敵味方共に続々と集まってきた。予想はしていたがやはり今回もボンゴレチームとの勝負のようだ。いざ、というところでこの場にそぐわない声が僕達を遮った。
『ちょっとあんた達、今何時だと思ってるのよ!!』
声の聞こえてきた方へ視線を向ければ、そこには寝癖のついた髪によれたパジャマ姿のなまえが公園の入り口に仁王立ちで立っていた。彼女のそんな慎ましやかな姿は記憶になくて、僕の思い描いていたなまえとのギャップに強く胸を打たれた。いやいや僕の衝動なんてどうでも良い。
問題なのは数時間前の戦いで入江正一がボンゴレチームへとついたことが確認できた今、敵対している状態であまり彼女の元に姿を見せたくなかった。それにゲームとはいえこんな諍いに巻き込みたくないのが本音だ。
「なんで、君が…ボンゴレ…!」
僕を牽制するために彼女をこの場に呼び出したのかと思いボンゴレを睨んだが慌てたように首を振る。
「えっ…違うっ!!俺じゃないって」
「だったらどうして彼女がここにいるんですか?!」
「知らないよぉ…」
情けない声を出して眉を下げていたが、ハッと表情を険しくさせてなまえへ叫んだ。
「えっと、なまえちゃん、だよね?危ないからここから早く逃げて!」
「馴れ馴れしく名前を呼ぶな」
「だったらどうしろって言うんだよ…」
立ち去る気配のない僕達に痺れをきらせたのか、ずんずんと大股にこちらへ近づいてくる。しかしなまえの頭上でゆらりと一瞬だけ空間が歪んだ。
『ごちゃごちゃ言ってないでみんなさっさと帰りなさ…あべしっ!』
空間の歪みは広がりあの不気味な黒ずくめの復讐者達が姿を現す。現れた際、鎖の一部がなまえの頭に直撃しその場に崩れ落ちるように倒れ込んだ。そしてその炎圧に捲き込まれなまえの身体がふわりと浮き吹き飛ばされていった。
僕達はただその一連の流れに助け出すことすら忘れ、ゆっくりと空を舞うなまえの姿を見ていることしか出来なかった。
なまえの身体が地面に叩きつけられる寸でのところで駆け寄りキャッチした。
「大丈夫ですか?」
『ん、』
抱き起こしながら軽く頬を叩けばゆっくりと目を開いてぼんやりと見上げてくる。
「ここは危険です。早くどこかへ避難した方がいい」
虚ろなまま何度か目を瞬かせているなまえにそう言うと、ぱちっと目を開き勢いよく抱きついてきた。その頼りない肩は細かく震えている。怖かったのだろうか。それはそうだ彼女の人生の中でこれほど理不尽な扱いを受けた事がないのだろう。可哀想に。安心させるように腕の力を強めると更にきつく抱きついてくる。
不意に背中をするりと撫でられるような気配がした。
なまえの登場により中断してしまってはいたが、今はまだ戦闘時間内だ。ピリピリとした張りつめた空気が再び戻ろうとしているのか。
しかし気に掛かることがひとつ。
…この感じはすごくよく知っている気がする。
『骸さんっ!』
ん?
ようやく顔をあげたなまえは恐怖により震えていた。
と思っていたがその表情は泣いてなんかいなくて、それどころか満面に笑みを浮かべて頬を擦りよせてくる。擦られ過ぎて接地面から煙が出そうなくらいに激しく。
『どうしたんですか、学ランなんて着て!もう似合うんだからぁ!!』
なまえのこんな熱烈な抱擁なんて今だかつて受けた事がない。いつも顔を合わせれば挑むように睨んでくるばかりで振り向かせるどころか一向に靡く様子がなかった。だから、なんというか…その、嬉しい。だが今は状況が悪い。
「今はこんなことをしている場合じゃないんです。早くしないと君もどうなるか…」
『そうですね、早くしないと骸さんにどうにかなりそうです』
「そうではなくて、」
『ああん!ほっそりした身体。こんなところも再現するなんてさすがはボンゴレが誇る霧の守護者ですね』
「………今、なんと?」
『ええ。いつもの洗練されたパーフェクトボディも素敵なんですけど、この少年特有の幼さの残る身体もなかなか……(じゅるり)』
うふふふ、とどこか狂気的ですらある笑みに懐かしささえ感じるのはどうしたことか。それでようやくひとつの仮説に辿り着いた。
「もしや記憶が…」
『え?』
ポカンとした顔で少し考えるような素振りをしたが、途中『うっ…』と小さく呻いて苦しそうに頭を押さえつけた。