流される骸16

正ちゃんがいない。

その事に気づいたのは公園でたんこぶをこさえてきた日から数日が経っていた。

あの日、安眠を妨害されて怒りまかせに家を飛び出したのが運のつきだったのかもしれない。
騒ぎの元へとパジャマのままサンダルを引っかけて駆けつけると数人の集団が公園で何やら大声で言い争っていた。
その中には最近やけに正ちゃんの周りに現れる黒曜中の人もいて私は確信した。

間違いない。これは不良達の縄張り争いだ。

ごくりと生唾をのみ込んで震える足を叱咤しながら園内へと足を踏み入れる。
するとその場にいた人達が一斉に私の方を向いた。一瞬その視線にたじろいだけど負けずに睨み返した。
その中で到底不良に見えない男の子が私の名前を呼びながら「危ない」とか「逃げろ」とか言ってきたけど、逃げる訳にはいかない。だって私には正ちゃんを守るという使命があるんだから。
黒曜中の人が男の子に向かって怖い顔をして何か言っていた。それを見てやっぱりと思った。
いつも何を考えているのか分からない顔をして私達に近づいていたがその化けの皮がはがれた瞬間だった。
正ちゃんは知り合いとか言ってたけど、本当は怖い人だってことちゃんと分かってたんだから。
正ちゃんは騙されてる。正ちゃんを守れるのは私しかいない。闘志を奮い起たせ不良達の和の中に飛び込んでいったところで私の記憶が途切れた。


次の日、ズキズキと痛む頭痛と正ちゃんからのお小言が待ち受けていたけど名誉の負傷なのだから甘んじて受け入れた。

「もう一人で夜に出歩かないこと。わかった?」
『うん』

怖い顔をしてそう締めくくられたお説教に神妙に頷くと、表情を緩ませて「とにかく無事で良かった」という言葉に胸が熱くなった。


「しかしなまえを六道骸から引き剥がすの大変だったんだからな」
『気を失ってもピラニアのように敵に食らいついて離れなかったのね、さすが私!』

ぐっと拳を握りしめて自分の武勇伝に打ち震えていると「違う」と呆れ気味に呟いてそれから少し困ったように眉を下げた。

「…そういうんじゃないんだけどね」
『?』

どういうこと?
首を傾げていると、ふふっと意味ありげな笑みを浮かべてぽんっと軽く頭に手を置いた。

「いや、まだなまえには早いかな?」
『何それ』
「秘密」

それからいくら聞いても教えてくれなくて当然私はむくれた。あと、あの時私の名前を知っていた男の子は正ちゃんのお友達だから心配しなくてもいいって言っていた。
また知らない間にお友達が増えている。その事に胸が苦しくなったけどにこにこと楽しそうに笑う正ちゃんに何も言えなくなってしまった。


その正ちゃんが居なくなった。
おばさん達は部活の大会が近いから学校に泊まり込みして作品を仕上げるって言って気にも止めていないみたいだったけど絶対違う。
いくら連絡しても通じなかった。
今までも何度か部活で泊まり込みとかしてた時はあったけどどんなに遅くなっても返事は来てた。

これは何かあったんだ。

待ってて正ちゃん。絶対助けてあげるから。
鞄を握りしめていつもの帰宅路とは違う道を歩き出した。




ALICE+