流される骸9

ううーん、と何とも悩ましげな声が下から聞こえてくる。
ちらりと見ると緊張感のない満面の笑みを張りつけたふくよかな女の頭が揺れていた。

『失敗しました』
「…でしょうね」

じっとテーブルの方を見つめながら、ほうとこれまた悩ましげな吐息をもらす。

『これじゃあ食べ物はおろか飲み物にも手を出せないです。それになんか視界が見えずらい…』
「だから止めなさいと言ったでしょう」

策士、策に溺れるですね!とひとりごちて名残惜しそうに料理を見つめる姿がシュール過ぎて会場の場にそぐわないどころか完全に孤立している。遠巻きに興味深げに見つめているのはまだ幼い子ども達くらいだろうか。

そもそも何故こんなパーティーに僕達が参加しているのか。

それは同盟ファミリーのパーティーへの出席を命じられいつものごとく断ろうとしていた時だった。
他の用でボンゴレのところへ来ていたなまえが『骸さんパーティーに行くんですか?』と目を輝かせて尋ねてきた。断る旨を伝えると何故だか残念そうに眉尻を下げて『もったいない』と呟いたのが発端だ。それを見ていたボンゴレが何を思ったのか「じゃあなまえちゃん行ってみない?」と声をかけてたところから話がどんどんおかしな方へと転がっていった。

『いいんですか?!』

再び目を輝かせて『行く、行きます!行きたいです!!』と何にも活用されていない非活用法を用いて意気揚々と参加することを告げたなまえに慌てて僕はストップをかけた。

「ちょ、ちょっと待ってください。マフィア主催のパーティーなんですよ?危険過ぎます」
『大丈夫です。私もマフィアです』

何が大丈夫なものか。普段は滅多に見せないきりりとした表情をこんな時に限ってするのはどうしてなんだろう。
ひとり反対する僕を無視してボンゴレとなまえでどんどん話を進めてしまい気づけばこうして僕がお目付け役という役どころを与えられ二人で参加することになってしまっていた。今思えば、全てボンゴレの思惑通りに物事が進められたような気がして癪に障るが。

ふと会場の灯りが消えた。一瞬の沈黙の後、ざわめく場内に首を傾げてそっと袖をひいてくる。

『骸さん、どうしたんですか?』

よく見えもしないであろうに首を左右に揺らして辺りの様子を懸命に探ろうとしている。
仮面…というよりは最早被り物であるそれをずらすとなまえの唇が現れた。ふう、と息をついて『息が出来ます』と嬉しげに笑みを形作る。

「…黙ってください」
『え…?…ん、』

唇を押しつけると初めは驚いたのか身を固まらせていたが、慣れると徐々に口を開いて中に招き入れる。それに伴い活発化させた手がさわさわと身体を這うのを感じて唇を離した。

「やり過ぎです」
『今日はまだ一回もやってません』
「いえ、そうではなくて…」

律儀に覆面を被り直そうとする動きを制してすっぽりと脱がせ、蒸れてしっとりと汗で張り付いた髪を鋤くと気持ち良さそうに目を閉じた。

「これから二人で抜けませんか?」

耳元でそっと囁くとぱちりと目を開く。

『おぉーリッチなパーティーに付きもののえっちなお誘いですか?』

いやーん、と照れながら頬に手をやり『デザートは僕自身です!みたいな。きゃー、絶対おかわりしちゃう』といつもの調子を取り戻して身体を預けてくるなまえを抱き止めながら、なまえの言う「えっちなお誘い」とやらに相応しい部屋まで連れ出すことにして会場を後にした。







(あっ、今日はパーティーで何も食べれてないです)(…それを今言いますか)




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