寝ていると髪を撫でられるくすぐったい感触がした。もう眠いんだからやめてよね。きっと弟だ。最近ずっと家にいるせいか遊んでとせがまれるから。いつまで経ってもお姉ちゃん離れできないんだから、かわいいなぁ。学校も卒業したし、お休みはいっぱいあるから今日はたっぷりかまってあげようかなあ…なんて思いながら瞼を開いたら、そこ居たのはうちの可愛い弟なんかじゃなくて六道先生がにっこり笑っていた。
『あ、あれ…?』
「おはようございます」
『え、なんで…?』
「昨日お鍋を食べにきたでしょう」
あー…お鍋。昨日は六道先生に誘われてお鍋を食べにきてたんだっけ。
みんなでって言ってたから久しぶりに塾のみんなと一緒に騒げるって思ってたのに集まってたのは私と先生だけでみんながいなくて、むしろふたりしかいなくて、仕方ないからふたりでお肉たっぷりのお鍋を食べ、食べ…
『ぎゃああああああーーーっ!』
突然叫んだ私に先生は驚いた風でもなく「どうしました?」と塾にいる時みたいに優しく尋ねてきた。
その顔を見るとどうしてもテストが返ってきた後を思い出してしまう。怒られることはなかったけどそれでもみっちり補習を受けるはめになったのはまだ記憶に新しい…ってそうじゃない!どうしたもこうしたもないよ!!
『おっ、お母さんに連絡してないー!』
どうしよう。泊まるなんて言って来なかったからきっと携帯にはたくさん電話がかかってきてるはず。絶対カンカンだよ、怒られるかな…。
ずーんと沈んでいく気持ちにぎゅうっと布団を掴んで項垂れているとぽんっと優しく頭を撫でられた。
「大丈夫です」
『え、』
「携帯が何度か鳴っていたので、失礼だとは思いましたが急ぎの用でしたら大変だと思いまして見させてもらいました。見るとお家からでしたのでちゃんと泊まると伝えました」
あ、それなら安心かな?
ひとまずほっと胸を撫で下ろして、それから先生にお礼を言おうと起き上がろうとしたときに異変は起きた。
『 …いったぁああ』
なにこれなにこれなんかの病気ですかこれ、こ、股間が激しく痛い。あと腰とか背中とか、とにかく身体中が痛い。ぐおぉお…と悶えているとそっと背中を擦ってくれる大きな手。
「ああ、だめですよ無理をしては」
『せんせい』
助けを求めるように先生の方を見たら、くすりと笑われた。
「昨日あれだけ頑張ったんですから」
『きのう…』
きのう。
昨日、
昨日はお鍋を食べて、それから眠くなって寝てたら先生に………
バッと先生から身体を離して後退る。
『ひ、ひどいです!』
「まだ酷くはしていません」
しれっとした顔で言うもんだからカッと頭に血がのぼった。
『私いっぱい止めてって言いました!』
「可愛らしかったのでつい…」
ついであんな痛くて恥ずかしいことになるのか。
クフッとよっぽど先生の方が可愛らしく笑っている。
『…いんこう教師』
ぽつりと呟いた言葉に ん?と首を傾げる。
「僕はずっと君のことをそういう目で見ていましたよ」
『へ、』
ずっと?ずっと、っていつ?全然そんな感じじゃなかった。
だって先生は塾の子みんなに優しくて、でもテストの返ってきた日はちょっぴり怖くて。
それに六道先生より仲のよかった先生は沢山いた。その先生達と比べても特別仲が良かった訳ではない。
「でもまだ君は学生でしたし、生徒に手を出すのも色々問題がありましたしねえ」
なんだか疲れた顔をして大袈裟にため息を吐いた。
「でも、もう君も卒業しましたしいい頃合いかと思いまして」
『私の気持ちは?』
だってこういうのって、好きとか嫌いとかあってお互いの気持ちが通じた時にお付き合いとかが始まるんじゃないの?
私は先生のことまだ好きとかよく分からないし先生だって私のこと本当に好きかも疑わしい。
黙って先生を見つめるとにこりと笑った。
「だって君の進路希望はお嫁さんだったでしょう?」
『それ、雲雀先生に破り捨てられたやつ…なんで六道先生が知ってるの?』
しかも山本先生のお嫁さんって書いた気がする。
もちろん雲雀先生は「ふざけてるの?却下だよ」って言って破り捨てた後、ゴミ箱の中に捨てられた。
「雲雀先生に聞いたんです。君は進学するより家庭に入りたいと言っていたのを。」
なんかかなり誤解されてる気がする。
『私、山本先生のお嫁さんになって毎日美味しいお寿司を食べたいって書いたんです』
「………」
『………』
微妙な顔をして固まってしまった。
それから咳払いをひとつしてこつんとおでことおでこをくっつけた。
「…まあ、こちらに振り向かせる自信はありますよ。」
今まで焦らされた分、覚悟しておいてくださいね。なんて言われても焦らした記憶も覚悟もございません。
ふに、と唇に柔らかい感触がして六道先生を見ると今まで見たことも無いような色っぽい顔をしていてちょっとドキドキした。