本当はずっと淋しくて泣きそうなんだよ

ゴウンゴウンと音を立てて中のものが回されていく。イヤホンからは馬鹿みたいに陽気な男の歌声が流れている。ぼーっと回るその乾燥機の中をなんとはなしに眺めていた。時間を確認するとあと10分で終わるらしい。
こうも毎日雨続きだと洗濯も碌に出来ない。溜まっていく洗濯物と一緒に気分もどんより沈んでしまいそうだ。そろそろお日様の香りが恋しくなってきた。梅雨明けはいつになるのだろう。今朝の天気予報では連日の雨を報じていたような気がする。

前はこんな雨続きの天気でもここまでうっとおしくなかった。むしろそれすら楽しんでいたような気がする。それは彼が居たから。ふたり分の洗濯をしてコインランドリーへ行ってそれからついでにちょっと寄り道をして帰ったり。帰ったら各々で洗濯物を仕舞う係と飲み物を用意する係と分かれて手際よく片付けていった。私は飲み物を用意することが多かったような気がする。それから揃ってレンタルしてきた映画を見ながら、ゆっくり流れる雨の時間を過ごした。
映画を見終わった後はご飯を食べてお風呂に入った。もちろんふたりで。彼はとても綺麗な身体をしていた。生きているのが不思議なくらい。とても。喉仏から鎖骨の窪みにかけてのラインが特に私のお気に入りで、よくじゃれあいながら啄むと擽ったそうに目を細めて笑う彼が本当に好きだった。


どうやら時間がきたらしい。電子音の後にゆっくりとした動きになった機械を前にのろのろと堅いイスから立ち上がる。
開くともわっとした熱気に少し顔をしかめて中のものをカゴへ移していく。全てを取り出したら憂鬱な洗濯たたみが待っている。ふたりならすぐ終わったのにひとりだととても時間がかかる。ひとりになって私は洗濯物をたたむのが好きじゃなくなった。軽く溜め息をついて立ち上がろうとした。

しかし私は動けずにいた。

私の後ろに誰かが立っていたのだ。いつの間に…。無人だったこの室内に人が入ってきたことに全く気づかなかった。大音量で聞いていた音楽のせいだろうか。何となく嫌な予感がして踞ったまま身体を縮ませていると、すっと後ろの人が屈んでくる。それに乾燥機の鏡面に映し出された私の顔が強張っていく。

こわい。

大音量で聞いていた筈の音楽が耳をすり抜けていく。ほんの数秒の事なのに何十分にも感じられて、後ろの人の顔が鏡面へ差し掛かる前に逃げるように目を閉じた。

「なまえ」

ぽつりと呟かれた言葉に反射的に目を開いてしまった。だってその声は…

「やはりなまえでしたか」

懐かしむように目を細めて見つめる彼の姿はあの頃と寸分違わず綺麗なままだ。

「ずっと探していました」

背後から閉じ込められて彼の匂いでいっぱいになる。時計が急激に逆回りしたように感じられくらくらと頭の中が揺れる。それから鼻の奥がツンとして目の前がぼやけてくる。

「帰りましょう。僕達の家に」

困ったように眉を下げて笑う彼にしがみついて私はただただ情けなく頷くことしか出来なかった。



お題:まぞ様

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