なんて言うんですか、私って昔から試食が大好きなんですよね。子供の頃にお母さんと買い物に行っても試食コーナーに連れて行っとけば大人しくその場で何時間も飽きもせずに待ってたってよく言ってたし。
目の前でジュージューと音をたてながら焼かれるソーセージ。辺り一帯に立ち込める薫り。そして食欲と私のボルテージを極限まで高めあげた頃、ホットプレートから取り出され軽やかに身を踊らせるこんがりとしたきつね色。小分けにされる際に溢れだす肉汁。ぶすりと豪快に肉の中へと埋められる爪楊枝。期待に膨らんだ私の前にそれが差し出された時の歓び。頬張れば口の中で織りなすハーモニー。まさに至福。
で、その癖は大きくなっても抜けなくて…というより酷くなっちゃってて。友達と遊びに行っても一人でふらふらどこかに行っちゃうからよく怒られたりするんです。デパ地下とかもうパラダイスですよ。普段手の届かない貴重な一品や遠く離れた地の名産が例え一口サイズとはいえ味わえるんですから!しかもそれが延々と続いているっていう無限地獄…!幸せ!!だから友達と出掛ける時はデパ地下には行かないように気をつけてるんです。デパ地下に行くときは一人でって決めてるんです!それで今日はその一人でデパ地下に行く日だったんです!!
「はぁ」と静かに私の話を聞いていたお兄さんはなんとも言えない相づちを打ちながら私をじっと見ている。精一杯の誠意を伝えようと反らさずにいた。が、その視線に先に耐えきれなくなったのは私の方だった。
『だから、すみませんんんんっ!』
深々と、それはもう額を擦りつけて土下座をした。
『まさか人間まで試食しちゃうなんて自分でも予想外でした!今までこんなことなかったのに。だって潤いたっぷりのくだものみたいなつやつやの唇とか、真っ白で大福みたいに柔らかそうなほっぺたとか美味しそうだったんだもの!!』
好物の説明になるとどうしても力が入ってしまう。いやいや男の人が好物とかそんな高尚な趣味はないんだけど。とにかくベットの上で全裸で土下座するという未曾有の(もちろん私にとってだ)事態にどう対処すべきか考える前に体が行動していた。そうか体は正直ってこういうこと。
「そうですねえ。一口食べさせてくれと言われた時は驚きましたが…」
そこで言葉を切って瞳をゆるりと細めながら、とろけるプリンなんかより断然とろけそうな微笑を浮かべている。
「で、どうでした?」
『へ?』
「試食」
試食…試食ってあれか。このお兄さんのことか。お試しするにはちょっと私にはレベルが高すぎる気がするけど。
こてんと首を傾げて(あああ、かっ、可愛いぃ)言葉の続きを待っているお兄さんに「お口に合いませんでしたか?」なんて眉を下げながら言われちゃったらもう頭の中がぱぁんって。ぱぁんって吹っ飛んだんじゃないかってくらいなってなんかよくわかんなくなった。って私ちゃんと頭ついてる?大丈夫?!遠のきそうになる意識の中で必死に何か言わなきゃって思ってたら『お買い上げでお願いします!』なんて私のお口が言っていた。そうかお口が正直ってこういうこと。
「お気に召して頂けて良かったです」
じっとりと汗ばんでいた手に指を絡ませながらちゅっとまるで王子さまがお姫さまにするみたいに口づけられた。