09

僕はどうやら言葉の選択を誤ったらしい。その事に気づいたのはあれから彼女が度々うちを訪ねて来るようになってからだ。

今では奇跡的で運命的だとすら思っている彼女との再開に僕はすっかり浮かれていた。
海外での仕事を終えて日本に暫く滞在する予定だったので、部屋の空気の入れ替えをして細々とした日用品と食材の補充をしようと近くのスーパーへ出かけることにした。

外に出るとどこかの写真で見たような青空を眺めながら道すがら日本語だけで交わされる会話に違和感と懐かしさを感じつつ目的の店へと辿り着いた。
店先にところ狭しと広げられた商品の間を通り抜けて店内へ入ろうとしたその時、たくさんの荷物を抱えた彼女が出てきたのだ。
正直にいえば驚いた。
彼女も同じだったのか目を丸くして一瞬動きが止まっている。
そんな彼女に近づいていき常套句のお久しぶりですねから始まる会話に、その後何を話したのかあまり覚えていないくらいには舞い上がっていたらしい。
それから食事に誘ったところで困った顔をして見上げてくる視線に気づいてようやく僕は彼女の手にしていた荷物を思い出した。でもここで別れるのが惜しい気がして気がつけば家に誘っていた。

*

家について彼女を改めて見ると強張った顔でじっと繋いだままの手に視線を落としていた。警戒させてしまったか。
いきなり部屋へ連れこんだから?しかし外でお茶に誘おうにも彼女はきっと荷物を理由に断るであろうことは目に見えている。僕の選択は間違えていない。多少強引であったかもしれないが。

それでも手料理を振る舞い食べ終えた頃にはすっかり打ち解けていて、再び会う約束をしてその日は彼女を送り出した。

それからはちょくちょく連絡を取り合い友人のような良くいえば良好な、悪くいえばどっちつかずな関係を続けていた。でもそれだけでは僕は満足出来なかったのだ。

だから敢えて少し苦しい口実をつけて仕掛けてみた。全く疑うこともなく彼女は嬉々として請け負い、外で会うことになった。初めて出会ったあのデパートに。
僕の思惑など通じていなかったが、それでも擬似的な恋人気分を味わえたそれなりに収穫のある日だった。


しかしそれっきり連絡が途絶えてしまった。


会えば犬のように人懐っこい顔で近づいてくるくせに、突然猫のようにぱたりと姿を見せなくなる。いつの間にか二人分の食事を用意することに慣れてしまった僕にはそれが少し寂しかったりする。
新しい主人でも見つけてしまったのか。事実を確認しようにも彼女と連絡が取れない状態で、彼女の住まいを聞いておかなかったことを今更ながら後悔していた。

真っ暗な携帯の画面を見つめ今日も僕は彼女からの連絡がないことに落胆するのだ。



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