寝ていると慌ただしくドアが開閉される音が遠くから聞こえてきた。昨夜から出掛けていた同居人が帰ってきたのだろう。気にすることはない。職業病とでもいうべきか、反射的に覚醒しようとする微睡んでいた意識は再び眠りへと向けてゆっくりと落ちていく。
と思っていたがけたましい音を立てて寝室のドアが開かれた。かと思えばゴチっと額に鈍い痛みが走る。それと共に『むくろぉ、むくろー』と名前を呼ばれ身体を無理矢理揺さぶられた。
「な、なんですか…」
額を押し当てたままぎゅうぎゅうと抱きついてくる なまえを抱き止めると強烈なアルコール臭が鼻につく。
『寂しい…』
「は、」
ぽつりと漏らされた言葉にいまだ眠りから抜け出せずにいた脳に衝撃が走った。
「一体、どうしたんですか?」
『寂しいって言ってんの!』
焦れったそうに繰り返された言葉に頭を捻っているとごりごりとそのままだった態勢で額を擦られる。
『みんな彼氏とか旦那さんなんていつの間にか作っちゃって次はいつ集まれるかなーとか言い出しちゃうから』
「ああ、それは御愁傷様です」
さ、寝よう。僕には微塵も関係ない話だった。
『なにそれ?』
「おやすみなさい」
瞼を閉じて再びどころか三度目の夢の中へ戻ろうとしていると強引にこじ開けられた目。ちょっ、目が…!
『ちょっと!慰めてやろうって気持ちはないの?傷心の私がわざわざ骸のところにきたんだから優しい言葉のひとつでもかけてあげるのがあんたの努めでしょうが!』
「…慰めてもいいんですか?」
『おうともよ!』
「では遠慮なく」
『ん?』
跨がっていた両足にすすすっと両手を伸ばして身体を起こすとぱちくりと目を丸くした。
『え、なに?盛ってんの?』
面白そうに目を輝かせている。本当に危機感がない。
「こんな夜更けに男の部屋に寂しい慰めろなんて言ってくるんですからそういう意味なんでしょう?」
『そう、なるのかな?』
こてんと首を傾げて考える素振りをみせるが絶対何も考えていない。長年の付き合いになればそのくらいお見通しだ。
「男側からすればそう捉えられますよ。」
『ふうん』
「僕だったから良かったものの、他の男の前でそんなことをしたらどうなっていたかわかりませんよ。さ、なまえも部屋へ戻って休んだらいかがですか?」
スカートの中でむにむにと尻を揉んでいた手を止めた。断じて名残惜しいとか思っていません。ええ、本当に。
『んじゃ骸は慰めてくれないの?』
「え?」
言葉とともに妙に艶かしく動かされた足に釘付けになっているとくすりと喉を震わせる声が聞こえる。
「…自分が何を言っているのか分かっているんですか?」
『もっちろーん!』
あははと本当に何も考えていない顔で笑うなまえに頭痛がしてくる。
「後で言っていないと云われても僕の責任じゃありませんからね」
『だいじょうぶ』
「本当に?」
『ほんとう』
「あと、途中で寝ないでくださいよ」
『がんばる!でもなるべく巻きでお願いします』
「では、」
『ん?』
「いただきます」
召し上がれ。なんて冗談めかしていうぷっくりとした唇に噛みついた。
お題:まぞ様