スクアーロの娘とクラスメイトのモブ男

彼女はいつも不機嫌だ。眉間に皺が寄るのもお構いなしに仏頂面を張りつけて周囲の人間が近付いてくるのをまるで拒絶しているように見えた。
とあるマフィアの5人兄弟中3番目という産まれたときから何も期待されず何も望まれないそんな中途半端な立ち位置を宛てがわれた俺としては、あのボンゴレ9代目直属の暗殺部隊の部隊長であるスペルビ・スクアーロの一人娘が同じ学校に通うと聞いた時は正直驚いた。しかも運のいいことに今年は同じクラスになることができた。
ここでチャンスが巡ってきたのかもしれない。ボンゴレといえばうちのファミリーなんかじゃ到底足元にも及ばないくらい大組織だ。傘下に入りたがるファミリーも多い。
その機関に所属できればいつも威張りくさっていた兄貴達の鼻をあかすことだってできる。
話を戻せば、彼女はある意味確固たる将来を約束されている立場だというだけで羨ましいのに何をそんなに不満なことがあるのかいつもイライラしていた。

さて、どう動こうか。

一番手っ取り早いのは恋仲になるという方法だが…。

「初めまして。君がボンゴレ暗殺部隊のS・スクアーロ隊長の娘か、これからよろしく頼むよ!」
『黙れ、童貞』

ありったけの爽やかスマイルを張りつけて差し出した右手は虚しく中に浮いたまま。そして騒々しかった周囲の音が一瞬途切れた。
目をあわせることもなくばっさりと切り捨てられた俺に同情と嘲りと好奇心の視線が集中した。みんなの視線は俺のもの。これはどうやら恋人どころかただのクラスメイトになることすら難しそうだ。そして俺の学校生活も終わった。グッバイ俺の輝かしい筈だった青春!
頑なに黒板から視線を動かそうとしない彼女を前にしてふっ、と自嘲的な笑みがこぼれる。
こうなってしまえば形振りなんて構ってられない。

「よし、わかったこうしよう。今の辱しめを受けた責任をとってもらうということで俺と結婚しよう!」
『は?』

見上げてきたはいつものしかめっ面なんかじゃなくて、年相応のあどけなさが残る顔に不意打ちをくらったようにぽかんと口を開けていた。
それに畳み掛けるように言葉を繋ぐ。

「幸せにするよ!」
『馬鹿じゃないの』
「今度の休みにデートしよう!!」
『…ばか』

うっすらと頬を染めて机に顔を伏せた彼女を見てもしかしたらもしかするかもしれないなあ、なんて呑気なことを考えていた俺はこの時知るよしもなかった。

教室の外からこのやり取りをたまたま非番だったキラリと光る金髪にティアラをのせた青年とその青年から受けたこれまたキラリと光るナイフが刺さった蛙の被り物を被った少年に見られていたことを。
そして金髪ティアラが愉快そうに独特の笑い声をあげながらどこかへ連絡をしていたことを。
更には受話器を粉砕し青筋をたてた暗殺部隊長を筆頭としたヴァリアー精鋭の幹部達による極秘任務の発令がなされたことを、俺はまだ知るよしもなかったのだ…!



(ししし、チョーうけんですけど。あいつ結婚申し込まれてるし)(あ゛?)(あ、顔真っ赤にして満更でもなさそうですー)(あ゛ぁ゛?!)

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