中学生活始まる
遂に入学式の日がやって来た。
私は…かなり成績が良かったらしいが、流石に赤司君には及んでなかった。
入学式の挨拶をしているのは赤司君だった。
『……?』
檀上の彼と時々視線が合う様な気がするけど…多分気のせいだろう。
それよりも、さっきから気になるのは…近くに居るやたらと美少年な黄色。
これ…やっぱり同じクラス…なんだよ…ね?
そうだとしても、単なるクラスメイトだ。
彼がバスケ部に所属するのは確か…二年になってから…と記憶している。
私は三軍から…順当に上がったとしても、せいぜい二軍だろうから、あまり関わる事も無いかな。
そう思っていたんだけど…
私は自分の席表を見てから、教室の扉を開けて固まった。
『……げっ!?』
私の席近くを中心にして、女生徒達が人だかりをしていた。
あれって…もしかして。…いや、もしかしなくても……
「黄瀬君…!メアド教えて…!!」
「今度遊びに行かない?」
「クラブ何に入るの?」
「ちょっと! 割り込まないでよ!!」
「あんたこそ、いつまでもそこ陣取っているんじゃないわよ!!」
「あー…喧嘩なんかしないで…ねっ? 仲良くしよーよ!」
諍いを始めた少女達を懸命に宥める金髪の美少年。
あれは…多分…黄瀬涼太。
私の席……どー見ても彼の隣…じゃん。うっわー…ついてねー……
座ろうにも私の席なんかは、既に黄瀬君と話す女子に取られてしまっていた。
『…………』
仕方なく私は教室の後ろで、その騒ぎを眺める破目になった。
時間になり、席に屯っていた女子達は、渋々と言った態で散り散りになった。
私は息を吐き、漸く空いた席に着く。
「君も、もう時間だから戻った方が良いっスよ?」
黄瀬君が私に声をかけた。
私は今まで待たされて少々苛々していたせいもあり、声の中に棘があるのを抑えきれなかった。
『…っ、ここは私の席だけど?』
「あっ…そうっスか? 隣の席なんスね! よろしく! 俺は黄瀬涼太」
『……苗字名前です。…よろしく』
私は事態に戸惑い、若干テンション低めな声を出してしまった。
初っ端からキセキと出会うなんて…なんの因果なんだ。
……これで…関係者は5人目。
黄瀬君の隣と言うだけで、周り中の女子達の視線が痛い。
でも知らんがな。
今、私は母との約束を、どう躱そうかとしか考えていなかったのだから。
※※※
HRが始まり、其々が自己紹介する事になった。
黄瀬君の番になった。
彼はキラキラしたオーラを放ちながら席を立った。
「黄瀬涼太っス! 趣味カラオケ、特技利きミネラルウォーター、運動も得意、
6月18日生まれの双子座A型、好きなタイプは束縛しない子っス! ヨロシクっ!!」
彼が自己紹介終えたら、女子達の黄色い歓声が上がった。
……うっわ。チャラっ!!
思わず顔を顰めてしまったが、今度は私の番だ。私は表情を改めて席を立ち、無難に自己紹介をした。
『…苗字名前です。読書と絵を描くのが好きです。よろしくお願いします」
HRが一通り終わり、自由時間になった。
初めて来て校内に入るまで、部活の勧誘が凄かった。
これから体育館で、新入生へのクラブ勧誘イベントが行われる。
私の入る部は決まっている。私は席を立った。
「苗字さんは入る部活決めているんスか?」
黄瀬君が声をかけて来た。
彼が気さくに声をかけて来たので、私は少し驚いた。
『うん。…男子バスケ部。マネージャーやる』
「…は? 運動部なんて、さっきの自己紹介と全然違うんじゃないスか?
俺はてっきり美術部にでも入るのかと…」
…美術部…入れるなら入りたいよ。
私は顔を顰めた。
「バスケに興味があるんスか?」
『…まぁね』
まさか親に婚活させられてる、なんて言える訳が無い。
「ふーん…バスケは体育以外ではした事ないなぁ…あ、でも、俺ならすぐに何でも出来てしまうからなー…」
彼が部に入るのは、二年になってから。確か青峰君のプレイに惹かれて…だったか。
私は余計な事を言わない様に気を付けなければ。
『…黄瀬君は、どこか部には入るの?』
「…運動は得意なんスけど…今の所は、どこにも入るつもりはないっスねー」
『そうなんだー? 何か他にやりたい事でも?』
「実は、姉が勝手に俺のモデルの応募をしたっスよ。
そしてそれが決まりそうなんス。…別に特にやりたい訳ではないんスけどね」
『へぇーモデル!? 黄瀬君恰好良いから、きっと人気出るね。応援するよ!』
「……まだ、どーしよーか考えているんスけどね。…でも、苗字さんがそー言うなら、やってみよーかな?」
我ながら適当に調子の良い事言ってるな。なーんて。
じゃあ頑張って、と彼の声に軽く手を振って、私は体育館へ向かった。
※※※
体育館には沢山の生徒達が集まっていた。
が、私は入口で立ち止まった。
入口には「男子バスケ部はこちら→」と隣の体育館へ誘導する紙が貼られていた。
最初から別枠なのか。…やっぱり特別なんだ。
隣の体育館に移動したら、一クラス分以上ではないかと思われる位の沢山の男子生徒達がいた。
分かってはいたけど…入り辛い…っ!!
暫し入口で躊躇っていると、後ろから可愛らしい声をかけられた。
「あなた、マネージャー志望?」
『…っ、はい』
振り向くと、桃色髪の美少女と青髪色黒少年が立っていた。
私は暫し硬直し、思わず口を滑らせそうになった。
『…あ、あお…っ!?』
「ん…? 何だ?」
怪訝そうな二人。
私は危うく名前を口に出しそうになったが、慌てて言い換える。
『…いや、二人も男子バスケ部に?』
「うん、そうだよ。私は桃井さつき。貴女は?」
『…私は』
言いながら、体育館に入ろうと横を通った緑の髪を見付け、慌てて青峰君の陰に隠れる。
桃井さんは可愛らしく首を傾げた。
「どうしたの?」
『……い、いや。ごめん! 足が滑って!』
「お前…大丈夫かよ?」
「どこか痛めたの?」
『ううん。平気!』
……ああ。びっくりした。
良く見ると、体育館の中には、一際背の高い紫の髪も見える。
赤は…埋もれているのかな?
「じゃあ俺はこっちな」
「うん、またね! 大ちゃん!!」
桃井さんは青峰君に軽く手を振ると、私を促して歩き出した。
『仲良いね。彼氏?』
「まっさかー! 大ちゃん―あ、アイツは青峰大輝って言うんだけどね、私とは幼馴染なの。
近所に住んでて、子供の頃から一緒にいるだけだよ」
道すがら話しながら、私は自己紹介をした。
マネージャーと選手は分かれて振り分けテストは行われる。
マネージャー志望は体育館を出て、近接した小さな教室に集められ、ペーパーテストを受けた。
相田ジムで覚えた私には易しい内容だったが、私は三軍を目指すつもりだ。
0解答では心証が悪いので、私は敢えて間違えた答えを書いた。
そして再び体育館に戻る。
「名前ちゃん、出来た?」
『私は全然ダメー。バスケ、詳しいの分からなくって。さつきちゃんは?』
「私は…少しは書けた…かな?」
『すごいね』
「凄くなんかないよ。大ちゃんがミニバスやっているのをよく見てたから、知っている事を書いただけだもん」
採点後、マネージャー志望も選手と同じく発表される。
選手の方は既に分けられて、其々手続きを始めていた。
「三軍マネージャーから発表する」
何人かの名前が呼ばれた後に、私の名前が入っていた。
その時私は気付かなかったが、一軍の中にいた緑間君は、私の後ろ姿を凝視していた。
「一軍マネージャー。新井美希、菊地敦子、桃井さつき」
呼ばれた後、桃井さんは残念そうに眉を下げた。
「…名前ちゃんとは別れちゃったね」
『でも同じバスケ部だから、また会えるよ。一軍なんて凄いじゃん? 頑張ってね!』
「ありがと。名前ちゃんもね!」
手続きを終えて戻る時、私は誰かとぶつかってしまった。
「……あ。すみません」
『うわっ!?』
いきなり人が現れた様な錯覚を覚えて、私は驚いた声をあげてしまう。
そこにいた水色の髪の彼。
……!!!? く、黒子テツヤ…!??
凄ーい!! 本物だーーーー!!!!
知ってはいたが儚げと形容しても良い位の、あまりの薄さに私は呆然とした。
…ぐにぐに触ったり、引っ張ってみたりしちゃ…ダメだよな、やっぱり。
『…うs…あ。ご、ごめんなさい!!』
「いえ、こちらこそ」
じゃ、と彼は軽く会釈して去って行った。
主人公来たーーー!!!!
……と小躍りしている場合ではない。
ここにいる緑間君に見付かる前に、私は急いで体育館を出た。