If-帝光編(一年)


ミューズに祝福されし猫耳ーズ-1-


それから私は、部活と文化祭の準備とピアノの練習に明け暮れる毎日になった。
昨日は部活後、ピアノの練習をして喫茶店のメニューを考案して宿題したら、寝るのが遅くなってしまった。

最近の昼休みは、連日音楽室で練習している。
時間が惜しいと緑間君が言うので、食事も緑間君と一緒に音楽室で摂っていた。
彼と食べるのは構わないけど、友人達から冷やかされるのは勘弁して欲しい。

彼は完璧主義でスパルタなので、友人達が冷やかす様な甘い雰囲気になる訳がない。


「苗字さん、聞きましたよ」

黒子君は部活の休憩時間に、私に話しかけて来た。

「帝光祭で、緑間君とステージに出るのですよね?」
『…あ…うん』
「随分と急展開ですよね? まさか、そこまで仲良くなるとは思いませんでした」
『私も吃驚だよ。しかも人前で一緒に演奏するとか…』
「緑間君も、随分と思い切った事をするものですね」
『彼、意外と強硬なんだよねー。昔の借りなんて、もう時効なんだから放っておけば良いのに』

黒子君はクスリと笑った。
「…それって彼なりの荒療治なんですかね?」
『人前で弾くとか…ハードル高過ぎ!』
私は剥れた。

※※※

そんな忙しい日々を消化しているうちに、帝光祭当日になった。

「苗字さん、ハムチーズホットサンド一つと、フレンチトースト二つ!」
「クレープ一つとチーズケーキ一つ入りましたー!」

『了解! 田中さん、チーズケーキ切って! あと卵溶いて…!」
「名前ちゃん、紅茶のストックは!?」
『その棚の箱の中!』

私は忙しなく手を動かしながら、周りに指示を出す。

「開店前からお客さん並んでたよ」
「ほとんど女性だもんね。黄瀬君効果凄いね!」

そう。吸血鬼姿でマントを翻しながら給仕をする黄瀬君を見たいお客さんが、朝から殺到する事態となっていた。
その数は昼になっても増えこそすれ、減る気配は無かった。

「でも苗字さんの恰好、力作なのに裏方なんて勿体無いよねー」
「正直、裏で主戦力だから、外れるのは…無理だよね」
「料理も結構評判良いみたいよ」

先日の試着の時は普通のメイド服だったが、服に血糊を塗りたくられ首にナイフが貫通した合成皮革のチョーカーを着けられたら、
確かにコンセプト通りのホラースプラッタメイドになっていた。
黄瀬君は引きまくっていたが知るか。

大体、こんなに多忙を極めているのも黄瀬君のせいだ。
…でも、そろそろ緑間君と約束した時間になる。着替えて準備しないと。

『あの、私…シフトの時間過ぎているから…』
「血塗れドック、入ったよー!」
「生贄の血のジュースと悪魔風ケーキ入りましたー!」
「地獄の業火で焼かれたパン入ったー」

『ただのホットドッグとトマトジュースとチョコレートケーキとトーストじゃん…』
「ホラー喫茶だからね! ほら、ホットドッグお願い!」
『だから! 私抜けるから…!! って聞いてねぇ!?』

「これからもっと忙しくなるよー! お客さん増えているからね!」

マジかよ。黄瀬君も何時抜ける事が出来るんだろ?

正直、どんなに練習して弾ける様になっても、人前で弾く事の心理的障壁は消えない。
いっそ忙しさにかまけて、ここで裏方を続けてしまおうか…?
緑間君一人で弾いた方が観客のウケも良いに違いない、等と後ろ向きの考えに囚われる。

不意にフロアの方が騒がしくなった。
今までも黄色い声で賑やかだったが、それとは明らかに質が違った。

「苗字!!」

調理ブースに緑間君が飛び込んで来た。

緑間君はタキシード姿だった。彼に似合ってるし恰好良い。
気合いの入りようパねぇ…
……頭に猫耳付いているのだけが果てしなく残念だがw

彼は私の姿に一瞬怯んだが、気を取り直して文句を言う。

「苗字! もうそろそろ出番になる。いい加減に切り上げるのだよ!」

彼直々に迎えに来られては仕方がない。
私は溜息を吐いてそのまま出ようとしたが、クラスメイト達が引き留める。

「ちょっと緑君、困るよ!」
「緑ではない、緑間だ。彼女のシフトはもう終わった筈だ」
「調理担当の手が足りないのよ!」
「…それはお前等でなんとかしろ。俺達にはもう関係ない」

緑間君は言うなり、私の手をグイグイ問答無用で引いて行く。
『ちょっと待って! 私、このままの格好で出るの!?』
「待てるか!! 着替えをしてたら間に合わん!!」

この血塗れメイド服姿で出ろとな!?
しかも調理途中で引かれて出たので、私の片手にはケチャップが付着した包丁が握られている。
…どーすんの、これ…?

私が出て行くと、客席から悲鳴が上がった。
…どー見ても演出過剰にしか見えない。
『…悪い子はいねがー!?』

「ノリノリっスね、なまはげメイドっち! でも包丁持ったまま出歩くのは人としてどうかと思うっス!」
私達の前に、イケメン吸血鬼が引き攣りながらも立ち塞がった。

なまはげ呼ばわりしたクセに、人としてどうかと言われましても。

『なら、はい!』
私はケチャップ塗れの包丁を黄瀬君に手渡す。

黄瀬君が持つと何か……

『うっわ!w 殺人鬼出たー!!』
「ゾンビメイドが持ってる方が余程怖いっス!!」

美形な吸血鬼が、そのまま美形な殺人鬼へと変貌する。
なまじっか顔が良いだけに、尋常ならざる程の迫力になった。
周りにいるお客さん達(主に女性)からも盛大に歓声が上がる。

「苗字、早く行くのだよ!」

私と黄瀬君はホラー風味で一致しているが、そこにタキシードと猫耳カチューシャの緑間君が加わるとカオス極まりない。
周りは騒つき、黄瀬君はもう苦笑いしている。

彼に見送られて、私は緑間君にドナドナよろしく引かれて行った。


私が緑間君に引かれて歩いてる最中、周りの注目を浴びまくってしまった。

『…緑間君、その…猫耳は…?』
「今日の蟹座のラッキーアイテムは猫耳カチューシャなのだよ。お前こそ何故してないのだ?」

何か…凄く謂れの無い事で非難されている様な気がするのは…気のせい、だろうか?

『…何でしているのが当たり前の様な言われようなのよ…?』
「ラッキーアイテムを装備してないなら、どんなに練習しても人事を尽くし切った、とは言えないからなのだよ」

彼の信条は理解しているつもりだけど…
よりによって猫耳カチューシャかよ。私を巻き込まないでくれ…


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