If-帝光編(一年)


キセキ達との邂逅


結局、私はもう一日泊まる事になり、母に連絡を入れた。

時間に余裕が出来たので、調理担当に頼まれた、明日のデザートの蜂蜜レモンのゼリーを作る。

「あー…甘い匂い〜」
紫頭の背の高い少年が現れる。
彼は私をしげしげと見た。そして思い出した様に「あ〜」と間延びした声を出した。

「君…どこかで見た事ある〜…文化祭でミドチンと演奏した子でしょ〜?」
『…はい』
私が頷くと、彼は「やっぱりね〜」と言いながら冷蔵庫を開けた。

そして彼はナチュラルに冷やしている途中のゼリーを取り出した。

『ちょっ…それ、まだ食べちゃダメ! 固まってないし! 明日の昼まで待って!!』
私の制止に、彼は不満気に頬を膨らませた。

「えー…お腹すいたし」
『自分のお菓子は!?』
「全部食べちった」
『じゃあ買って来れば?』
「やだ。面倒臭いー」

私は溜息を吐いた。このままだと、彼はまだ固まってないゼリーを幾つも食べてしまいそうだ。

『…分かった。じゃあ、ホットケーキ焼いてあげるから少し待って』
「やったー!」

彼の子供っぽい反応に苦笑しつつ、私は生地を溶き始めた。
私はホットケーキを焼き上げて、蜂蜜をかけて紫原君に出した。

「……」
彼は無言になり、パクパク食べている。
私が厨房に戻りかけた時、彼は「あー、そうだ」と言い顔を上げた。

「アンタ、名前は〜?」
『…苗字名前』
「ふーん…俺は紫原敦。綽名ちんは料理上手いねー」
『……それはどうも』
「お代わりー」
『ちょっ…』
「ゼリー、食べちゃおうかな〜」
『アンタねー!? …はぁ。分かった、作るよ』
「やったー」


私がホットケーキを再び焼き上げた時、「すみません」と緑間君がやって来た。
彼は、ホットケーキに蜂蜜をかけている私と紫原君を交互に見た後、不機嫌に眉を顰めた。

「苗字!? 来ていたなら、何故俺に知らせないのだよ!!?
それに紫原っ!! 夕飯を食べたのに、更に甘い物を食べるのは身体に良くないのだよ!!」
「ミドチン、煩〜い!」
「なっ!?」
『…まぁ、これには訳がありまして』
「 苗字も紫原を甘やかすな!!」

うぁ。とばっちり来たー!?
私は頬を膨らました。
『…そんな事言ったって。しなかったら明日のデザート用に作ったゼリー、食べられちゃうもん』

緑間君は口をへの字に曲げると、私が出そうとしたホットケーキを横から奪い取った。

「あー!? ミドチン、それ俺のだから〜!!!」
紫原君の抗議を無視した緑間君は、ホットケーキを一口頬張った。

「……紫原はもう食べたのだろう? これは俺が貰っておくのだよ」
「ミドチン、ずるい〜!!」

彼等はホットケーキを奪い合い、ほぼ半分ずつを取り合って完食してしまった。
私は彼等の勢いに恐れをなしていたが、恐る恐る尋ねてみる。

『…もっと焼いた方が良いかな?』
「食べ過ぎは身体に良くないのだよ。紫原も、これ以上苗字に面倒をかけるな」
「ちぇ。綽名ちん、また作ってねー♪」

紫原君は一応満足したらしく、戻って行った。
緑間君は改めて私に向き直った。

「苗字、明日の蟹座のラッキーアイテムは、ウサギの形の人参なのだよ」
そう言いながら、わたしに人参を渡した。
『…え』
「頼んだぞ」
『ちょ、』

私の抗議の意を含んだ突っ込みに対して、彼は尊大に眼鏡のブリッジを上げた。
「俺は指を傷付ける訳にはいかん。苗字も後で自分の分を作ると良いのだよ。人事を尽くさねばならんからな」
『…………』

私は溜息を一つ吐くと、諦めて厨房で人参の皮を剥き出した。
緑間君は食堂の椅子に腰をかけ、窓越しに話しかけて来た。

「…それにしても、苗字が来ているとは思わなかったのだよ。何故知らせなかった?」
『日帰りで厨房だけの作業だったし、選手達と顔合わせないって聞いたから、知らせる必要ないって思ったの。
…事故あって、今日は、もう帰れなくなってしまったけど』
「そうか。道理で今日はマネージャーが全員いたのだな。お陰で練習が捗ったのだよ」
『役に立てたなら、良かった』
「…お前は」
『……ん? 出来たよ』

私は皮を剥いて彫り上げたウサギを渡した。
彼はそれを矯めつ眇めつ見て、満足そうに眼鏡をかちゃりと上げた。

「…確かにウサギの形に見える。礼を言うのだよ」
彼は立ち上がり、私にもう一本の人参を手渡す。
「これで自分のラッキーアイテムを彫るといい」
『…どうも』

私は彼の去る姿を眺めながら、再び人参の皮を剥き始めた。

※※※

用事が粗方片付いたので、入浴しに行った。
女風呂で一緒になった桃井さんの胸のデカさに、思わず目が釘付けになる。
自分の胸の大きさに特にコンプレックスを抱いたりはしないが、あれを見た後では、流石に少々寂しく感じてしまうのは仕方がない。

私は桃井さんより先に出て、ロビーで寛いでいる青峰君を発見する。
私は自販機で飲み物を買った。
彼はミルクティーを飲んでいる私を見やり、にやりと口元を歪めた。

「よっ、猫耳ーズ!!www」

不本意な呼ばれ様に、私は思わずむせてしまった。

『ゲホッゴホッ! …不可抗力だから! あれは私の趣味じゃないからね!?』
「おめー見かけに寄らねーな。結構上手いじゃねーか、ピアノ!」

でもあれはねーだろーwwwと、青峰君が可笑しそうにくっくっと笑い出す。

『思い出すなっ!!』

「よ、青峰」
その時、黒髪のやんちゃそうな先輩が軽く手を挙げて現れた。

「虹村先輩!」
「あれ、一緒にいるのは桃井じゃねーのか?」
『…こんばんは』

私は彼にぺこりと頭を下げた。
虹村先輩は軽く首を傾げ、それから思い出した様に手をポンと打った。

「おめー、あの苗字か!? 手伝い、ありがとな!」
『…あ、はい』
「今日は災難だったな。でもこっちは助かったぜ。また何かあったら頼むな!」

彼は私の肩を叩き、去って行った。
私は彼の後姿を見送りながらポツリと呟く。

『虹村先輩、私の事知ってたのね』
「そりゃおめー…たりめーだろ?」
『…は!?』

聞き捨てならない一言に何でと問えば、彼は事も無げに言い放った。
「あの緑間と一緒に帝光祭のステージに出演した女って、おめーは一軍でも有名人だぜ」
『…ちょっと待て』
「緑間が出るからって、一軍の連中はこぞって聴きに行ったからな!
しかし、あの凄げーコスプレでクラシックとか変態だろw 流石の俺も吃驚して寝ずに聴いちまったわwww」

予期せぬ事態に私は頭を抱えた。


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