If-帝光編(二年)


complete!


先日、黒子君が正式にレギュラーになった。
それと同時に、スタメンは二年中心で組む事をコーチが発表した。

私は赤司君に頼まれて第二体育館にやって来た。
見学している女子達がやけに多い。

『すみません。黄瀬涼太君いますか?』

私の声を聞き付けたギャラリーの女子達は一斉に私を睨み付けた。
「誰っ!? 黄瀬君に馴れ馴れしいわね!」
「しっ! あの子、マネージャーだよ」

はぁ…面倒くせ。

「はいっ!! あ、綽名っち!? 本当にバスケ部なんだ?」
『今日から黄瀬君は一軍に昇格です。体育館に案内します』
「はいっス!」

私は背中に刺す様な視線を感じながら足を速めた。

「綽名っちと、こうして話すのは久し振りっスね!」
『そうね。一年の時は席替えしても、何故かずっと席が隣同士だったけど』

お陰で休み時間が心休めなかった…

黄瀬君は、にっと悪戯っぽく笑った。

「あれ実は、俺が綽名っちの隣に頼んで変えて貰っていたっス!」
『…っ!? 何で!??』
「だって他の女子だと、何だか居心地が微妙なんスよ。意識されたりするのは嬉しいんスけどね。
でも毎日隣でずっとお喋りされて、俺も疲れていい加減な態度で対応したら、泣かれたりしょげられたりと面倒で。
綽名っちならフラットな態度だから気にしなくて良いと言うか、楽なんスよ」

『…他にもフラットな人はいるでしょ…』
「いるかもしれないスけど、それが分かるまで時間がかかるし。それよりも綽名っちなら確実じゃないスか?」

私は安全牌か。…乙女としては甚だ問題なんじゃ…?

「それはそうと、青峰っちと…あの緑の男と同じクラスになったんスね?」
『何でそれ、黄瀬君が知っているの?』

黄瀬君はやれやれと言う風に肩を竦めた。

「だって…あれだけ始業式の日に大騒ぎしていれば、イヤでも耳に入るっスよ。
あの背の高い…紫原君…だっけ?に肩車されてたじゃないスか」
『……確かに』

黄瀬君は楽しそうに私の顔を覗き込んだ。

「で、どっちなんスか?」
『…は!?』
「綽名っちが好きな男…青峰っちか、それとも」
『別に私が誰を好きでも黄瀬君には関係ないでしょ?』
「関係あるっス! だって俺は」

黄瀬君は不意に私の腕を引き、近くの木に押し付けた。

彼は私の頭上で手を付き、私を至近距離から見下ろした。彼の綺麗な琥珀色の瞳が私を捉える。

『相手、間違ってない!?』

何故、安全牌女にこれをやる!?

彼は私にゆっくりと顔を近付け― 耳元に口を寄せた。
私は思わず身体を強張らせてしまう。

「なーんてね? 吃驚したっスか? 顔赤いっス」
『……っ!?』

私は無言で俯いた。

「綽名っち? 怒っちゃったっスか?」

黄瀬君は私を覗き込む。私は掠れた声を絞り出した。

『……黄瀬君…』
「ん?」

私はゆっくり顔を上げると、両手を伸ばして彼の耳を掴み、思いっきり左右に引っ張った。

「いででっ!? 痛いっス〜!!!」
『いくら安全牌女だからって、からかってんじゃないわよっ!!!』

流石に商売道具の顔を引っ張るのは悪いので、これでも遠慮はしているつもりだ。

※※※

-黄瀬side-

「チェンジ! 教育係、違う人にして欲しいっス!」

一軍に入った時、始めに俺の教育係に着いたのは、黒子テツヤと言う人だった。
でも、俺は納得出来ないっス!!

こんな一軍とはとても思えない程、影が薄い人に教わるとか冗談が過ぎるっスよ。
でも一軍だし凄いのかと練習見てたら、フリーでレイアップ外してるし!?

そんなショボいヤツに、青峰っちも他の一軍の人達も、綽名っちまで仲良さげに話している。
何だかそれもムカつくっス!

「綽名っち。あの黒子君、何で一軍レギュラーなんスか!? 青峰っちはショボくないって言ってるんスけど!?」
『うん。ショボくないし、黒子は立派なレギュラーだよ』

「どこがっスか!? あんなにショボいの二軍にすらいなかったっスよ!!」
『黒子は特殊なんだよ。あれは…百聞は一見にしかず、だね。彼の出る試合観れば分かるよ』
「特殊…?」

何なんスかね? 練習ではショボいのに、試合観れば分かるって?

『ちょっと説明し難いんだよ。黒子が出てる試合は面白いよ』

面白い…??

顔中疑問符だらけにした俺を見て、彼女はクスリと笑い、俺の腕を軽く叩いた。

『近い内に黄瀬君にも分かると思うよ』
「…とても分かるとは思えないっス。でも他にも突っ込みたい事あるんスけど」
『何?』

綽名っちは可愛らしく小首を傾げた。
彼女は、ずっとここにいるのに変だと思わないんスかね?

俺は未だシュート練習を続けている緑何とかって人を指した。
ベンチには彼の私物が置いてある。

「あの人が凄いのは分かったっス。けど、あれは一体何なんスか!?」

俺が指した物を見て、綽名っちが一瞬、顔を引き攣らせた。

『あれはね…』
「いや、黄瀬の気持ちはすっげー分かるぞ!」

乱入して来た青峰っちは俺の肩を叩き、綽名っちに向かって不満気に唇を尖らせた。

「何で俺が持っていると怒られるのに、緑間なら良いんだよ!? ずりーぞ!!」

青峰っちが指したのは、水着姿の女の子が表紙のグラビア写真集。でも俺も同感っス。

「何なんスか、あれは!? 真面目な顔してムッツリっスか!?」
『黄瀬君…w』
「そうだ黄瀬! もっと言ってやれ!! どーせ持って来るなら巨乳にしろって!」

いや俺は、手に収まるお椀位の方が好みなんスけど。

「誰がムッツリだ!? 失礼なのだよ黄瀬!」

流石に堪りかねたのか、緑何とか君が練習を止めて口を挿んで来た。

「それは今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ! 触るな青峰!!」
「緑間ならラッキーアイテムで全て許されるとか、依怙贔屓じゃねーか!? なら俺もマイちゃんの写真集を御守りにするわ!」

青峰っちの抗議に、緑君は真面目くさって反論する。

「依怙贔屓ではない。今日の乙女座のラッキーアイテムは英語の参考書だ。ちゃんと勉強するのだよ青峰!」
「峰ちんヤブヘビーww」
「日頃の行いがモノを言いますね、青峰君」
「くぉらテツ! 俺よりも緑間の肩を持つ気か!? 裏切り者っ!!」
「僕は個人的には青峰君の方が好きですけど、事実は事実です」

そう言えば、以前もこの人、ラッキーアイテムとか言ってたっスね。
綽名っちの説明で疑問は氷解したけど、一軍は思っていた以上に変人の集まりっス。

※※※

一軍に入って二日目。それでも何とか慣れて来たみたいっス。

「では10分間の休憩!」

三年の副主将の号令に、俺達はめいめいに腰を下ろす。
やっぱり二軍に比べて、一軍の練習はキツイっス。

俺も近くのベンチに腰掛けようとした途端、先に置いた手の平に刺す様な痛みが走った。

「痛っ!?」
見ると、手を置いた箇所には、サボテンの鉢植えがあった。
…こんな変な物を置いたのは…もしかして。

「黄瀬、触るな! それは今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ!!」
「うあ、やっぱりっスか…」

緑君に怒られたけど、誰がこんなの好き好んで触るもんスか!?

「まさか、こんな所にサボテンがあるとか思う訳無いじゃないっスか!!
アンタこそ、サボテンをベンチに置くとか止めて欲しいっス!! お陰で棘が手に刺さってしまったっスよ!!」

俺が文句を言ってると、近くにいた綽名っちが慌てて来て俺の手を取った。

『棘刺さったの!? 診せて』

綽名っちは刺抜きを持って来て、俺の手に刺さった棘を丁寧に引き抜いていく。

「……」
『………』

俺の手を真剣に見ている彼女の眼差し…俺の手に触れる小さくて柔らかな手…
懸命に手当をしてくれる女の子って、やっぱり良いもんスね。
…何だかドキドキして来たっス。

俺は自然に惹き込まれる様に、彼女に顔を近付けていた。


※※※

-名前side-

私は細心の注意を払って、黄瀬君の手の棘を引き抜いていった。
その時、手元に影が差した。

……ん?

私がふと顔を上げると、思ったよりも至近距離で覗き込んでいた黄瀬君と目が合ってしまった。
整ったアーモンド形の目の中の、琥珀色に煌めく瞳が不思議そうに私を見返している。

『……っ!?』

一年の時は隣でもあまり意識はしていなかった、沢山の女子達を虜にしてきた華やかなオーラにもろに中てられ、私は思わず仰け反ってしまった。
勢いが付き過ぎ、支える物もない身体がぐらりと後ろに傾ぐ。

「綽名っち!! 危ないっ!!!」

黄瀬君の伸ばした手は空を掴んだが、私は落ちる事無く肩を後ろから掴まれ、支えられていた。

「…気を付けろ、苗字」
『緑間君!? ありがとう』

緑間君は軽く頷いた。
休憩時間が終わり、彼はシュート練習をしに戻って行った。
緑間君のシュートを見ていた黄瀬君が目を丸くした。

「…さっきからあの人、3Pシュートを全然外さないっスね。凄いっス!! …ただの変人じゃないんスね」
『綺麗でしょ? 彼のシュート』
「何で綽名っちが、そんなに嬉しそうなんスか? …でも確かに凄いっスね。あれは真似は無理っス」

そう言いながらも黄瀬君は食い入る様に、緑間君のシュート練習に見入っていた。


「よぉ、新入りの―黄瀬涼太君だっけ? コーチと主将と赤司がいねーからって、マネージャーといちゃついてんじゃねーよ」

灰崎君がニヤニヤしながら私達に絡み始めた。
傷を消毒していた私は、立ち上がって前に出た。

『別にいちゃついてなんかいないし。入ったばかりの人に絡まないで。 灰崎君こそサボってないで練習始めたら!?』
「んだと…?」

灰崎君が私に掴みかかろうとしたその時、彼の動きが不意に止まり、私の前に背の高い影が二つ立ち塞がった。
黒子君もさり気なく私の隣に佇む。

「灰崎、おめーはさっさとアップしろよ」
「もう練習はとっくに始まっているのだよ」

灰崎君は忌々しそうに舌打ちした。
「チッ、ダイキとシンタローかよ。名前、ドリンク寄越せ!」

灰崎君は私からドリンクを引っ手繰ると、乱暴な仕草でベンチに座った。

「痛ってーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!!」

体育館中に灰崎君の悲鳴が響き渡った。
驚いた部員達が何事かと、ベンチの上に座った灰崎君を一斉に見やった。

「ケツが痛ぇ!!? どーなってやがんだ!?」

涙目の灰崎君が尻に手をやるも、その手にも棘が刺さり、彼は更に悲鳴を上げた。
灰崎君のお尻には、サボテンが鉢ごと刺さっていた。…何つーか、シュールな光景だ。

『……あー…痛そ…』サボテンが。

緑間君が怒声を張り上げた。
「灰崎っ!! 俺のラッキーアイテムに何て事をしているのだよ!!?」
「てめ、緑間ぁ!! 刺さる様な危険物をベンチに置いてんじゃねーーーっ!!! ケツ、痛てーんだよ!! どーしてくれんだよ!!??」
「灰崎の汚い尻に刺さってしまうなど…これ以上棘が抜けたら、サボテンが傷んでしまうのだよ!」
「サボテンだと!? ふざけんな!! 俺より危険物の心配かよ!?」

「灰崎君、動かないでください」

よいしょ、と黒子君がサボテンの鉢植えを尻から引っこ抜いた。
その瞬間、灰崎君の三度目の悲鳴が響き渡った。

お尻の治療はここでは無理だ。
私は灰崎君がよろよろと保健室に行くのを目で追いながら、黒子君に小声で呟いた。

『…ねぇ黒子、灰崎君がベンチに座る前、サボテンの位置をさり気なくずらしてなかった…?』
「何の事ですか? 偶々僕が動かした所に灰崎君が座っただけですよ」
『テツヤ、恐ろしい子…!』

そんな私達を見て、黄瀬君が苦笑いしながら呟いた。

「何つーか、思った以上に濃い面子っスね…先が思いやられるっス…」


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