If-帝光編(二年)


帝光祭前


LHRの時間、来る帝光祭の出し物について出た意見を、クラス委員は次々と黒板に書き出している。
「…喫茶店、お化け屋敷、ゲーム、縁日…まだありませんかー?」

青峰君は我関せずで居眠りしていたが、緑間君は生真面目に手を上げた。

「緑間君」
「おは朝のラッキーアイテムの統計を分析し、傾向を調査した研究発表」

…それって自分だけしか得しないんじゃ…??
さすがにクラスメイト達は騒ついている。私も手を上げた。

「苗字さん」
『トリックアート迷路、なんてどうでしょう?』
「へーいいんじゃない?」
「出来たら面白いよね!」

クラス委員は緑間君に続いて私の意見も書いていく。
しかし淡々と進んでいたHRの空気を変えたのは次の意見だった。

「劇! シンデレラがいいです!!」

一斉に女子達から歓声が上がる。

「王子様は緑間君っ!」
「絶対似合う〜!!」
「青峰君も良くない?」
「ワイルド系〜萌えるー!!」

「では、議決を取ります」

結果、圧倒的大多数で劇に決ってしまった。

緑間君は懸命に青峰君を突いている。

「青峰、起きろ!」
「…んぁ? もう食えねぇ…」
「起きないと面倒な事になっても知らないのだよ!」
「んだよ、緑間うっせーなぁ」

渋々起きた彼はクラスの異様な盛り上がりに目を瞬いた。

王子役を決める意見では、緑間君と青峰君が二強で正の文字が黒板に其々連なっていく。
それを見た二人は不満そうだ。

「俺ぁ面倒な事はゴメンだぜ!」
「俺もなのだよ! こう見えても忙しいのだよ!」

二人の不満にも関わらず、王子役は二人の接戦になった。

緑間君は、理知的眼鏡王子を見たい女子人気+変人ラッキーアイテム込みのお笑い期待派、青峰君は、男子人気+ワイルド系王子萌え女子+ガングロ王子お笑い期待派が主な支持層だった。

二人以外では、私一人の意見が最後だった。

どっちが良いか…私は少し迷った末に結論を出した。

『はい! 私は青峰君が良いと思います…!』

「……はぁ!??」
「…なっ!!?」

青峰君はポカンと、緑間君は愕然としていた。

私は身勝手な気持ちだけど、緑間君が他の娘とラブシーンするのを正直見たくなかった。
と言って、青峰君とのが別段観たい訳でもないが。

クラスメイト達からは「苗字さんってワイルド系王子が好みだったんだね〜」と囃され、私はどう答えたものかと困惑してしまった。
私は苦笑いを浮かべて緑間君を見た。

『…まぁ、緑間君は演技派って感じじゃないよね。青峰君もだけど』
「……フン!」

あれ…? もしかして…拗ねてる?

青峰君を見ると、彼は私を見てニヤリと口角を上げた。イヤな予感に私の顔が引き攣る。

「王子役は青峰君に決まりました。では、次はシンデレラ役ですが…」

司会の声に応じた青峰君は手を上げた。指名されて彼は席を立つ。

「俺に王子をやらせるんなら、シンデレラは名前以外は受け付けねぇ。以上だ」
「なっ…!!!??」
『はあ!!!????』

私は愕然とし、女子達は悲鳴を上げた。

「キャー! それってもしかしてー…!!??」
「静かに!!」

教室は蜂の巣を突いた様な騒ぎになってしまった。

『何それ!! 私は背景の書き割りを描く大仕事があるんだから!!』
「知らねーよ。おめーの意見で最後に決まった様なもんだろ。責任取れ」
『責任って。結婚じゃあるまいし!』

男女逆だけどな! と、ついセルフ突っ込みしたら何故か緑間君の眼鏡がずり落ちた。

「けっけっ…結婚だとーーー!!!???」
『いや違うから!!』

このままでは、話がカオスになってしまう。私は思い付くままに新たに提案をした。

『じゃ、いっそ姫は緑間君で…!!』

とんでもないとばかりに青峰君の目が吊り上がった。緑間君も引き攣った。私は二人から猛抗議を食らう。

「ふざけんじゃねー! 何が悲しくて男同士で!?」
「冗談じゃないのだよ!!! 俺にも選ぶ権利があるのだよ!!! 例え俺が女でも青峰はゴメンなのだよ!!」
「てめーら、気色悪りーんだよっ!!!! 緑間が姫なら俺ぁ出ねーぞ!!!??」
『いやだって下手な女子よりは、緑間君の方がずっと美人じゃん? きっとドレスも似合うかなと』

何故かここで拍手がパラパラと聞こえるw

「俺はドレスの似合う大男より、ドレスが似合わなくても名前の方がマシだっつってんだ!」

似合わなくて悪かったな。

「青峰っ!! 私情で苗字を巻き込むのは止めるのだよ!」
「こいつの私情で巻き込まれたのは、こっちの方だぜ! なら、てめーが王子やるか!?」
「し、しかし…!」

言い募る緑間君に青峰君は意味あり気に口許を歪めた。

「じゃあ、もしおめーが王子に決まったとして、相手役はどーするよ?」
「……む」

緑間君は私をじっと見た。

「…………」

……え?

暫く見つめ合っている内に、緑間君は顔が赤く染まっていき、終いには片手で顔を覆い逸らされてしまった。

…な、何なの? 今のは…!??

やり取りに呆然としている内に、気が付いたらシンデレラ役は私に、緑間君は何故か継母役に決まってしまっていた。
……もう、お笑いの予感しかしない…


※※※


結局、幸か不幸か、劇は審査を通ってしまった。

そしてただ今練習中。

「…国中の女を集めて…めて…ま、まいふみ…?」
「舞踏会だバカめ!」
「葡萄会を開くぜ!」
「葡萄の会じゃないのだよ! 舞踏だ!」
「武闘会…?」
「闘ってどうするのだよ!?」
「うっせw 意味が通りゃいいだろ」
「通っても意味が全く違うのだよ!!!」
「俺的には武闘会の方が納得いくぜ! 国中から強者どもを集めろアチョーッ!!」
「シンデレラはそう言う話ではないのだよ!」

…うわぁ。
脚本読み合わせの段階でこれかよ。

二人の漫才紛いのやり取りに、クラスメイト達は肩を震わせて笑いを堪えている。

「ここからシンデレラの手を取って王子と踊る…」

「よし、名前、来い!」
『…え? わあっ!?』

私は青峰君にぐいと手を掴まれ、勢い良く引っ張られた。

『ちょ、転ぶ転ぶ!』
「おっと! 大丈夫だってw」

危うく倒れそうになる所を青峰君に抱き止められた。

「…全く。何をやっているのだよ!」
「……やっぺ。…柔らけぇ」

青峰君は顔を赤くして私の背に腕を回す。

『ちょっと…!?』

私は慌てて彼の腕を軽く叩き、やっと離してもらった。

「ここは城の舞踏会。王子と姫が踊るシーンだ! お前達は踊れるのか?」
「マイムマイムなら踊れるぜ!」
『私も!』

緑間君は眉間に皺を寄せる。

「マイムマイムは二人で踊るものではないのだよ! 見本を見せてやる! 来い苗字!」
何? と思う前に手を掴まれる。

「左手は俺の肩に置け。右手は俺のと合わせろ」
『ちょっ…身長差考えて!』
「…仕方ないのだよ」

腕に添える程度で許して貰う。緑間君は右手を私の背に回す。

「音楽を!」

茫然と見ていたクラスメイト達が慌てて音楽を流す。

「曲はワルツだ。ステップは簡単なクローズドチェンジからだ。ゆっくり回るから俺に合わせろ」

緑間君に触れられてる。身体が近い…緊張する。

「右足を後ろに…そうだ。次はナチュラルターン」

彼の動きに合わせてゆっくりとターンすると、周りから拍手が沸き起こった。
緑間君は動きを止め、手を離した。

「ざっとこんなもんなのだよ。…苗字も」

彼は私の耳元に口を寄せ囁いた。

「赤司を落とすつもりがなくても、社交ダンス位は嗜みとして覚えておくものだ」
『……は!??』

「緑間。もう良いだろ」

青峰君は不機嫌になり、私の腕を掴んだ。

「王子は俺なんだからよ。おめーは女の動きの練習でもしてな!」
「何だと…!? お前こそ、王子役やるなら台本位は読める様になったらどうなのだよ!」

二人は睨み合い、私は溜息を吐いた。


※※※

-緑間side-


青峰は王子役に選出されながら、台詞を覚える気配すらもなかった。
例え気に入らなくても、選ばれたからには人事を尽くさねばならんと言うのに。

奴はダンスの練習では苗字を掴んで振り回し、俺が止めに入った時には彼女は目を回していた。

業を煮やしたクラスメイト達は結局、青峰に対しては台本無しのアドリブを認めてしまった。
大方の流れだけ沿って貰えれば良いとの事だが、どいつもこいつも青峰を甘やかし過ぎなのだよ!
それに伴い、全体にアドリブを増した内容に変更した。

それなら…多少面倒だが、まだ俺がなった方がマシなのだよ!
俺なら人事を尽くして、演技に取り組んでやったものを。
勿論、俺は今でも最高の継母を演じてやるつもりだが、気分は胃の腑に鉛を落し込まれた様にモヤモヤしていた。

必要な状況でも、苗字が青峰と一緒の所を見ると苛々するのだよ。
苗字といる時、青峰が何となく嬉しそうに見えるのがまた気に喰わん。


休み時間、教室の入口に現れた男が俺を手招きした。

「おう、緑間!」
「先輩?」

先輩と言っても、彼はバスケ部ではない。
占星術研究会の会長だ。

「前に言った件だけど、考えてくれた?」
「…その事なんですが」

俺は渋った。
実は帝光祭で占星術研究会の出し物を手伝ってくれと以前から打診されていた。

「非常に不本意なのですが、クラスの劇に出る事になってしまったのだよ…」
「そーいやシンデレラやるって? お前なら放っとかれる訳ねーわなw 王子役だろ?」
「それが……継母役で」

聞いた途端に会長は吹き出し、俺は思わず彼を睨み付けてしまった。

「やー、スマンスマン! …継母…ブッwww …なら緑間差し置いて王子役になったヤツは誰だ?」
「……青峰なのだよ…」
「そりゃ面白そうだなw …あ、いや!」

俺が不愉快そうに顔を顰めたのを見て、先輩は慌てて言葉を濁した。

「なぁ、でも一日中やってる訳じゃねーんだろ?」
「そうですね。劇は午前の部です。一番早い時間に決まりました」
「なら午後だけでいいから頼むよー! 緑間なら良い客寄せになる…! 報酬は"おは朝のラッキーアイテム"でどうだっ!?」
「……! なら手伝います!」

会長は喜色満面の笑みを浮かべ、俺の肩を叩いた。

「ありがとう! 緑間ならそう言ってくれると思った…!!」
「人手が足りないのですか?」
「そう…だな、ギリギリかな? 今年は女子部員が午後軒並み出れねーってよ。何でもクイズ研のスタンプラリーに出たいとかで」
「クイズ研?」
「あ、知らね? 毎年参加者はペアで出場するんだけど、男女ペアで優勝すると幸せなカップルになるってジンクスがあるって噂だぜ。
それに今年の優勝賞品は何とかの…ブランドのバッシュらしいけどな。豪華だよな、金あるんだなぁ」

…ジンクス。

俺は咄嗟に頭に浮かべた人物像を、振り払う様に頭を軽く振った。

「どうした? …まさか緑間も興味あるの? バスケやってっからバッシュが欲しいとか?」
「…いや別に。何でもありません」

……くだらないのだよ。

去年の帝光祭の時と違い、今年は苗字と二人で一緒にいる時間はあまり取れないだろう。
なら、少しでも自分の為に有益に時間を使う方がいい。

…そう言えば…最近は互いに忙しくて、一緒にピアノも弾いていないな……

苗字とは部もクラスも一緒なのに、二人きりになる時間があまり無くなっていた。
まだ始まってもいないのに、些か物足りない学園祭になりそうだと、俺は憂鬱な溜息を吐いた。


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