台本のないシンデレラ
*公式小説一部ネタバレ注意
今日は帝光祭当日。
うちのクラスは朝一番に講堂でシンデレラ劇をやる事になったんだけど…
「まだ来てないの!? 姉役いなかったら困るじゃん!!」
「連絡来ました! 熱が出て行けないって」
「代役は!?」
『どーせほぼアドリブだから、衣装さえ合う娘なら何とかなるんじゃない?』
その時、休んでる娘の親友がおずおずと口を挿む。
「…その衣装ですけど…サイズ合わないからボタン付け替えるって、持って帰って行ったままなんですけど…」
その彼女の家から持って来るには、もう到底間に合わない時間だった。
「普段着なら何とかなるけど、舞踏会のドレスはどうにもならないね…」
全員で溜息を吐いた時、衣装を身に着けた青峰君と緑間君が顔を出した。
「何やってんだ? てめーら」
「もう10分位で始まるのだよ」
青峰君はアラビア風の王子の衣装に身を包んでいる。
それは通常の王子様の衣装よりも、色黒で精悍な彼によく似合っていた。
緑間君は法螺貝持って、結い上げた鬘を被り簡素な黒いドレスを着ていた。
……これもまた、何故かよく似合っていた。
眼鏡と相まって、アルプスの少女ハイジに出て来るロッテンマイヤーを迫力美人にしたみたいになってる。
私が彼等に簡単に事情を説明する。
「ったく…っ、しょーがねーな!」
青峰君は、携帯を取り出し電話をし始めた。
「取り敢えずさつきに頼めば何とかなるかもしんねー」
『…ええ? 確かさつきちゃん、今日はクレープ焼くから忙しいって…??』
「おめー分かってねーな? さつきがそんな事してみろ、大惨事になるぞ? ぜってークラスの奴等に追い出されてるから今頃は暇だろw」
…さすがの幼馴染。
『でも、こんな急にドレスの調達なんて…いくらさつきちゃんでも無理じゃない?』
眉を顰める私に、緑間君は頷いた。
「桃井は情報のスペシャリストだ。何もしなくて困るよりは人事を尽くしてみるのだよ」
※※※
そろそろ始まると思った頃にそれは来た。
「やっほー! ドレス調達出来たよー!! わーミドリン、可愛い〜!」
桃井さんが連れて来たのを見た私達は固まった。
緑間君は悲鳴に近い声を上げる。
「なんて恰好をしているのだよ、紫原!」
「えーミドチンには言われたくなーい」
「違えねぇwww」
紫原君は重厚なドレスを纏っていた。…量感半端ない。
『でも、そのドレス…大き過ぎて紫原君以外には着れないよね?』
「なら紫原に代役やらせればいいだろw」
『それで…いいの?』
私は恐る恐るクラスメイト達を振り向いた。
クラスメイト達はこくこく頷いている。
私は紫原君に視線を戻した。
『シンデレラの姉役なんだけど…やってくれる?』
彼は軽く首を傾げた。
「んー、面倒〜うちのクラスのもやらなきゃならないし〜」
『そうだよね…ごめん…』
その時、桃井さんは紫原君に何かを囁いた。
すると紫原君は目を輝かし、私の方へずかずかと歩み寄って来た。
そのあまりの迫力に、私は思わず逃げ腰になるが、肩をガッチリと掴まれてしまった。
『ひぃっ!!?』
「やってもいいよ〜 但し条件次第」
『な、何っ!?』
「綽名ちんの手作りお菓子、ちょーだい?」
かくして初っ端からバタバタしながら劇は始まった。
しかし
何で私は、緑間君と紫原君に両側から抱えられて舞台に登場してるの…?
これじゃ、まるで捕獲された宇宙人だよ。
もう一人の姉役も引きまくっている。
「シンデレラ、ラッキーアイテムを磨いておくのだよ!」
「シンデレラ、クッキー焼いて〜、ケーキ作って〜、まいう棒新作買って〜」
…何か私…観客達からやたらと同情の視線が感じられるな…
紫原君の衣装はそのままだ。
流石に彼のサイズの衣装の調達は無理なので、ドレスのまま出る事にした。
『…はぁ。お腹空いたわ』
「ご飯が無いなら、お菓子を食べれば良いじゃなぁい!!」
そう言いながらお菓子をボリボリ食べる紫原君。
いやいやいや…だからそのお菓子、どこから持って来たんだよ…??
舞踏会の話になり、緑間君が招待状をちらつかせる。
「王子が結婚相手を探す舞踏会を開く事になった。…お前にも招待状が来ているのだよ、シンデレラ」
『お母様』
「だがシンデレラは行かなくていいのだよ。あんな馬鹿王子の毒牙にかかる事はないのだからな!」
その時、書き割りの後ろから「俺の悪口言ってんじゃねーよ!」と怒鳴り声が入り、観客達は吹き出した。
「シンデレラ、料理と掃除と洗濯をするのよ!」
「俺のお菓子作っといてー」
「明日の蟹座のラッキーアイテムの提灯を調達するのだよ!」
『提灯っ!??』
私は舞台である事を忘れて大声で聞き返してしまった。
『…どこにあるのよ? 提灯なんて…あ、お化け屋敷のクラスから借りればいいか! …破れてるけど!』
アドリブ上等の台詞に会場は笑い声に包まれた。
「勉強も怠りなくやるのだよ。王子は俺達が〆といてやるからな!」
『〆るって何っ!??』
継母は、いつの間にか過保護な教育ママにシフトしたらしい。
姉達は"まっかせて〜"とか"捻り潰すよ〜"とか言ってる…
着飾って大柄美女に化けた緑間君と、元から女装していた紫原君と、もう一人の姉役は舞踏会に出てしまう。
『…はぁ。サイン・コサイン・タンジェント…って、何で勉強しているのよ私!? しかも高校数学!!』
魔法使いが出た。
私はドレスに早着替えをし、カボチャの馬車でお城に行く。
青峰君の王子様姿に女生徒達の黄色い声が飛ぶ。
エキゾチックな王子は中々人気があるらしい。
「嫁探しているっつーのに、変なのしかいねーな!」
「しー!! 王子、お声が大きい!」
「本当の事じゃねーか! あの巨大な女達を見てみろw 着飾ったゴジラかっつーの!」
「失礼なのだよ! 折角来てやったのに!」
「捻り潰すよ?」
「なんだァ!? やんのかゴルァ!」
「舞踏会で喧嘩はしないでくださーーい!!」
…こんな所に出て行くのか…?
私は渋々足を踏み出した。
その時、やけに客席が騒がしくなった。
「ちょっと待つっスーーー!!!」
客席を縫って黄瀬君が舞台に走り寄って来た。
クラスの女子達は押し殺し切れない歓声を上げた。
「紫原っち!」
『黄瀬君?』
黄瀬君は、18世紀末のフランス将校風のキラキラした衣装を身に着けていた。
それは、ただでさえ派手な外見の彼を、更に華麗に引き立てていた。
「んもー、捜したんスよ? クラスの出し物の方、紫原っちがいなくて大変なんスから! 早く戻るっス!」
紫原君は口を尖らせた。
「えー? これ終わるまで待ってよー。最後までやらないと綽名ちんのお菓子貰えないじゃん」
『えっとー…?』
これ、どうするの?
私が困惑していたら、青峰君が鋭い声を叩きつけた。
「捕えろ! 曲者だ!!」
「青峰っち、酷いっス!!」
「黄瀬ちん、もう少し待ってよー」
「待てないっス!!」
ぐたぐたになって、肝心のシンデレラの踊りも出来ない内に、時計が12時を報せた。
『あの…時間なんだけど…?』
「帰さないなら、実力行使するっス!!」
言うなり黄瀬君は、私と紫原君の両方の手を掴み、舞台から降りて全力で駆け出した。
「あらら〜黄瀬ちん?」
『何で私まで!?』
「綽名っちのお菓子が報酬になってんなら、一緒に来て貰った方が早いっス!」
「おい名前!?」
「主役まで連れ去るとは…捕えるのだよ!!」
「せめて靴置いてけー!!」
青峰君の怒鳴り声で、私は靴を脱ぎ忘れているのに気が付いた。
観客達も爆笑している。
『やば…っ! 黄瀬君、手を離して!! 靴を脱がなきゃ!!』
「今離したら追い付かれるっス!!」
私が後ろを見たら、形相を変えたクラスメイト達が追って来ていた。
先頭には青峰君と緑間君がいる。
緑間君は法螺貝を吹き鳴らした。
ブオ〜〜〜♪
「シンデレラを帰せー!」
さすがに主役なのでそのまま拉致られては敵わない。
私は足を踏ん張り、抵抗をした。
「名前!!」
青峰君が追い付き、私の腕を引いた。
私の身体は後ろに傾き、すかさず青峰君が腕を前に回し、私を絡め取る。
黄瀬君は緑間君達に回り込まれ、観念して私の手を離した。
緑間君は黄瀬君にずいと詰め寄った。
「黄瀬」
「緑間っち? …良く見ると凄い恰好っスね」
「紫原を返しても良いが、条件があるのだよ」
私達が戻り、舞台裏で彼等は着替えた。
黄瀬君は、緑間君の着ていたドレスを身に纏っていた。…少し長めだがとてもよく似合っているw
そして緑間君は、黄瀬君の衣装を代わりに身に着けていた。
これもとても華麗に決まっていた。…法螺貝さえ持っていなければw
「黄瀬。この服は少し足が短いのだよ」
「元々俺に誂えた衣装っスよ!? まるで俺の足が短いみたいな言い方しないでもらえるっスか!? 人聞きが悪いっス!」
そして、紫原君はドレス姿の黄瀬君に引っ張られ、舞台を後にした。
勿論観客達、主に女子達の声援が凄かったが、黄瀬君は俯き加減でボソッと呟いた。
「もう、女装縁日にするっス…」
…ゴメン、黄瀬・紫原君達のクラスの人…!
私は内心で手を合わせた。
※※※
劇が再開された。
城の広間では、青峰王子と家来が会話をしている。
「拉致された姫の靴が片方見つかりました」
「引き続き捜索しろ」
「かしこまりました」
確かに台本は無しのほぼアドリブの話ではあったけど、これでは本筋自体が滅茶苦茶だ。
そして先も分からず困惑したまま、私は舞台に出た。
『お母様。お姉様はどちらに? それにそのお母様の恰好は…』
「シンデレラ。よく聞くのだよ」
「俺は…実はこの国のもう一人の王子なのだよ!」
設定からして滅茶苦茶だ。私は眩暈を堪えて会話を続ける。
『お継母様が実は王子様なの?』
性別の事は…もう言うまい。
「陰謀で国を追われ、身をやつしていた」
『じゃ、お姉様は?』
「残念だが…連れ去られた」
いきなりドアを叩く音がして、兵士たちが入って来た。
「御用改めである!」
もう国まで違う。
「…お前は俺が守る。シンデレラは隠れておけ!」
青年将校の姿でこんな台詞を言われると、ドキリとしてしまう。
私は彼の言葉に従い、書き割りの奥に身を潜ませた。
「この靴の姫を探している。隠し立てすると、おめーもタダじゃすまねーぞ!?」
残った姉役が靴を履くが、サイズが合わない。
「確か他にもいたろ。さっさと出せよ、耳揃えて!」
「この子だけだ。一人は拉致られたのだよ」
「嘘吐け、いるんだろ? 出さなきゃ反逆罪でしょっ引くぞ!?」
私はおずおずと出て行った。
『止めて二人共!』
「やっぱ隠れてやがったか。さぁ靴を履け!」
セオリー通りに靴を履くとピッタリだった。
「俺の探してたのがおめーだ。嫁にするから来い!」
その時、私の前に緑間君が立ち青峰君から遮った。
青峰君はギラリと緑間君を睨む。
「…どーゆーつもりだおめー」
「彼女はやらん。どうしても欲しかったら、俺を倒してからにするんだな」
「へっ、やるのか!? 上等だ!」
「シンデレラ!」
緑間君は振り向いて、私に法螺貝を渡した。
『…??』
「持っていろ」
そして彼等は同時に剣を取った。
クールで端正な眼鏡青年将校風の緑間君と、アラビアンナイト王子様風の青峰君。
緑間君はそのままでサーベルがよく似合っていたが、青峰君の方は、どちらかと言うと
その二人が丁々発止と模造刀を交えている。
突き、崩し、薙ぎ、打ち下ろす。
運動神経抜群の二人の殺陣は舞う様に流麗で、私や他の出演者達を含め、思わず見入ってしまった。客席からも拍手が沸いた。
彼等は暫く闘っていたが、勝負は着かなかった。
私は暫し迷った末に持っていた法螺貝を吹く。
ブオ〜〜〜♪
低く太い、些か間の抜けた音が辺りに響いて行く。
二人はピタリと動きを止めた。
「何だよ!?」
「まだ決着は付いていないのだよ!」
『わ…私の為に闘わないで…っ!』
「なら選べよ。おめーの選んだ方が王になる、で良いだろ」
「どうするのだよ、シンデレラ!」
『え…? えっと…』
二人に詰め寄られた私は、思わず視線を彷徨わせた。
ふと目に留まったのは、魔法使い役の男の子。
『ごめんなさいっ!!』
彼等に頭を下げて、魔法使いの傍に駆け寄った。
『私、この魔法使いと駆け落ちしまーす!!』
「「「えっ…ええええーーーーーっっっ!!!???」」」
『さっ、行きましょー!!』
私はキョどる彼を強引に、半ば引き摺って舞台を去ろうとしたが、行く先を青峰君に、後ろを緑間君に挟まれてしまった。
「俺達を置いて行くたぁいい度胸してんな?」
「今更裏切るのは許さないのだよ! ラッキーアイテムを返せ!!」
…あ。そう言えば、預かっていたままだった☆
二人に睨まれた魔法使いの彼は、ビクついて逃げ出してしまった。
「ひいいっ!! ごめんなさーーい!!」
『ああっ…! 貴方、行かないでーー!!』
追いかけようとした私の両側に青峰君と緑間君が立ち、私を軽々と持ち上げた。
私は足をジタバタするが、宙を蹴るだけで上半身は動かす事が出来なかった。
「さ、戻るのだよシンデレラ!」
「続きは城でやろーぜ!」
『ちょっとーー!? 離してーーー!!!』
《かくしてシンデレラは魔法使いに逃げられ、二人の王子と末永く仲良く暮らしました。めでたしめでたし》
無理矢理なナレーションで締めくくられ―芝居は終わった。