スタンプラリー篇(前篇)
*公式小説ネタバレ注意! (Welcome to 帝光祭より引用あり)
捏造・改変あり
※※※
私は制服に着替え、緑間君に誘われるままにお昼を一緒して、そのままの流れで校内を歩いていた。
『緑間君は、これから占星術研究会に行くんだっけ?』
「そうだ。俺は手伝いを頼まれているのだよ。お前は?」
『私は特に決まってないけど…』
私達は第二グランドに差し掛かった。
第二グランドには沢山の生徒達が集まっていた。
『へー…何か賑やかだねぇ。これから何かあるのかな?』
「クイズ研のスタンプラリーだろう。垂れ幕が架かっているの…だ、よ…」
緑間君と近くまで差し掛かると、その中でも一際賑やか…と言うか、やたらと目立っている集団がいた。
『凄いねぇ。女の子が一杯…アレ?』
「苗字っ!! 近寄るな! そこから離れるのだよっ!!!」
緑間君が悲鳴に近い声を上げると同時に、私はその集団から出た手に捉まれ、いきなり引き摺り込まれた。
「よう名前! 丁度良い所に来たな!」
『ぐえっ!?』
私を後ろから羽交い絞めにしていたのは青峰君だった。
慌てて辺りを見回すと、桃井さんは黒子君の腕を掴み、黄瀬君は沢山の女子達に囲まれていた。
……何なの? この見るからにカオスな状態は…??
混乱した私に、息せき切って桃井さんは捲し立てる。
「名前ちゃんもクイズ研のスタンプラリーに出るんだよね?」
『…は? スタンプラリー…?』
「そーゆーこった。優勝賞品はバッシュだぜ。俺と一緒に出ようぜ?」
『いや私はただの通りすがりで』
「こっちも負けないもん! ね、テツ君!?」
「頑張りましょうね、苗字さん」
『いやあの。人の話聞いて…』
青峰君は私を離してくれなかった。つか、これはもう、強制参加の流れなのか…??
そして黄瀬君は、囲まれた女子達から誰と出るのかと迫られ、困惑していた。
「残念だが青峰、苗字は俺と組むのだよ!」
乱入して来た緑間君は、青峰君から私を強引に引き剥がした。
『…え…?? 確か緑間君は占星術研究会に出るって…?』
「予定変更だ」
『ラッキーアイテムは…良いの…??』
緑間君は苦虫を噛み潰した様に顔を顰め―やむを得ないのだよ、と呟いた。
そしてすったもんだの末に、青峰君は女の子達からブーイングを浴びながら黄瀬君と組む事になったのだった。
※※※
第一ゲームは二人三脚。
私は緑間君の右足と自分の左足をバンドで留めた。
『大丈夫? きつくない?』
「ああ…」
『身長差あるからやり難いかもしれないけど』
「…………」
『…緑間君?』
返事がないのが気になり、見上げると、彼は顔を背け、頬を真っ赤に染めていた。
そんな顔されると、私まで意識してしまう。
姿勢を取る時、彼は私の右肩を抱き、私は彼の腰に腕を回す。
身体がピタリと密着して、伝わる体温にドキドキする。
でも、あまり舞い上がる訳にはいかない。強敵は沢山いるのだ。
私達は少し練習した。
彼と私ではコンパスが違い過ぎるから、慎重に一歩辺りの長さを決めた。
『緑間君って、やっぱり大きいね』
「苗字が小さ過ぎるのだよ」
私がムッと口を尖らせたら、彼はフッと笑った。
「互いに外側から一歩を踏み出すぞ」
空砲の音と共に、私達は駆け出した。
真っ先にトップを切って走っているのは青峰ー黄瀬チーム。
何か言い合いしながらも息はピッタリ合っている。…凄い。
彼等は不意に直角に曲がった。
『えっ!?』
「苗字っ!!」
彼等に気を取られていたら、緑間君が掴んだ手に力が入り、私の肩がぐっと引き寄せられる。
強引に足を止めさせられた私は驚いて彼を見上げた。
『な、何っ!?』
「…見ろ」
大きな音と共に悲鳴が響き渡った。
先の地面が消失していた。
『……落とし穴!? …えぐい事するなー…』
落とし穴に落ちたらその場で失格と、係の声がスピーカー越しに告げられた。
「行くぞ苗字!」
『うぇっ…!? だってアレ、他にも仕掛けられているんでしょ!??』
「青峰達の後を正確に追うのだよ…! あいつの野生の勘は侮れん」
『正確にって…付いて行くだけでも大変なのに!』
「俺達にはラッキーアイテムがある…!! 人事を尽くせば結果は付いて来るのだよ!
それに、まだ第一ゲームだ。これからいくらでも挽回する余地はあるのだよっ!」
私は頷き、掛け声を合わせ足を踏み出し駆け出した。
※※※
私達は何とか第一ゲームをクリアした。
そして足のバンドを外し、次の第一視聴覚室にやって来た。
『あれ?』
私達が入った時、まだ青峰君と黄瀬君がいた。
桃井さんと黒子君はまだみたいだ。
第二ゲームはクイズだった。
ルールは一問正解すれば先に進めるが、間違えたら失格。パスはいくつ出してもOK。
確かに二人はクイズ苦手そう…w
「精油―エッセンシャルオイルの製法は圧搾法、溶剤抽出法、あとなーんだ?」
青峰君は不機嫌に顔を顰めた。
「エセシャララオイルって何だ?」
それに黄瀬君が苦笑いしながら答える。
「エッセンシャルオイルっス! アロマとかって自然100%の香りのエキスっスよ! 確か母がラベンダーとか持っていたっス」
「ベランダー?」
「ラベンダー!! 紫の花っス!」
「紫原の鼻…??」
黄瀬君は、はぁ、と溜息を洩らし、「もういいっス…」と呟いた。
「なら答えは分かるか?」
「…さっぱりっス!!」
黄瀬君は無駄に爽やかなドヤ顔で首を横に振った。青峰君の機嫌はますます悪くなる。
「くっそ役に立たねー!」
「酷い!!」
中学生、特に男子は知ってるだけでも中々だと思うけど…女子でも難しいぞこれ。
『緑間君?』
彼は、すらすらと渡されたスケッチブックに文字を書き込み掲げた。
「水蒸気蒸留法」
「正解です!」
『何で知ってるのー!??』
彼はフンと鼻を鳴らし、眼鏡のブリッジを押し上げた。
「かつて香料は薬として使われていた。薬学史を学べば分かる事なのだよ、行くぞ!」
『頼りになるねーさすが!』
「…か、簡単な問題なのだよっ!」
「……緑間っちに負けた…?」
あ、何故か黄瀬君が凹んでいる。
黒子君達が入って来たのと入れ替わりに私達は教室を出た。
※※※
次は第二体育館の前のブースで、クイズ研が待ち構えていた。
扇状に開いたカードから、指示されるままに一枚を引き抜き、裏を返した。
そこには「鳥々しく時を告げてください」と、書いてあった。
『……は!??』
「何だ? これは…??」
「このお題で借り物競争をしてください」と言われ、意味が分からないままに私達は歩き出した。
「とにかく、これに当て嵌まる物を持って来いと言う事か」
『時を告げる鳥って、普通は鶏だよね…?』
「鶏…屋台にある鶏肉では無理だろうな」
『肉じゃ時は告げないねw 生きてるのなら、確か鶏小屋があった筈…』
「飼育委員か生物部か…先ずは鍵を入手せねばな」
今の時点では、私達は五位以内には入っている。
このまますんなり行けば、優勝も夢ではないだろう。
私達は職員室で鍵を借りて、急いで裏庭の飼育小屋に向かった。
『あ、いた! 白色レグホン!!』
私は駆け出し、扉を開け、中に入って捕まえようとした。
鶏は怯え、興奮して暴れた。
「待つのだよ、苗字!!」
緑間君の制止の声に、私は動きを止め、振り返った。
『…何?』
その時、鶏が私に向かって突進して来た!
『きゃっ!?』
私は足を突かれ、不意の攻撃にバランスを崩し尻餅を突いた。
その隙に一羽の鶏は扉から飛び出してしまった。
私は慌てて扉を閉め、鶏を追いかけた。
「苗字っ!! 雌鶏しかいないのだよ!!」
『それが何かっ!?』
私は必死に走っていたので、緑間君の言葉の意味まで考えなかった。
緑間君が前に回り込んだので、止まった鶏を私はやっと捕獲出来た。
私はバサバサ暴れる鶏を必死に抱え込み、緑間君は眉間の皺に指を当てた。
「その、だな、雌鶏では"時を告げる"事が出来ないのだよ!!」
『……は!?? っ、な…っ…!? 先に言ってよーーーー!!!』
八つ当たり気味の私の叫び声が虚しく響き渡って行った。
『結局、振り出しに戻った、か…』
私はがっくりと肩を落とした。
時間のかなりを無駄にした。始めの優位は、もう帳消しになっただろう。
私は雌鶏と格闘したので、髪はバサバサでブラウスも乱れていた。
緑間君は、私の髪を手串で梳いて撫で付けてくれた。私はトイレに入り、ブラウスを直す。
「他に"時を告げる鳥"を探さねばな」
『でも、他って…どこにあるんだろうね? いっそバザーでも漁ってみる?』
私達が相談しながら廊下を歩いていたら、色々な物を抱えた赤司君と行き合った。
抱えている物は将棋部や囲碁部の戦利品だと言う。
「おや二人共、どうしたんだい? てっきり占星術研究会に行ったとばかり思っていたよ」
「…赤司」
「何か困っているみたいだね? どうしたんだい?」
『そうだ! 赤司君、これって心当たりあるかな?』
私はダメ元で借り物のお題のカードを見せてみた。もう藁にでも縋りたい気持ちだ。
赤司君は暫し首を傾げていたが、ゆっくりと頷いた。
「それなら、応接室に行ってみるといい」
赤司君の助言通りに応接室に向かっていると、私達を呼び止める声が聞こえた。
「あー! いた!! ミドリンと名前ちゃん!!」
『さつきちゃんと黒子君…?』
何でクイズ研のラリー中に声をかけられたのか、訳が分からずに私は首を傾げた。
その時、緑間君はハッとした様に飛び退った。
「そうだ…! 桃井、俺に近付くのではないのだよ! 苗字も離れろ!!」
「何で!? ミドリン、酷い!!」
「思い出したのだよ! 今日の運勢、蟹座と牡牛座の相性が悪いのだよ! 関わると面倒な事になるのだよ!!」
「さっきの劇、手伝ってあげたのに!! その言い草はないよ!!」
「とにかく俺達から離れるのだよ、桃井!!」
緑間君は、私の手を引いて速足で歩いて行く。
しかし緑間君に言われても、彼等は聞く気は無いみたいだった。私達の後を付いて来ている。
何で付いて来るの? さっきのも、まるで私達を探していたみたいだし…?
私は彼等に違和感を感じつつも、そのまま足を進めた。
応接室を開けて中を見渡す。
でも当然ながら、雄鶏などはどこにもない。
置物にも雄鶏を模った物すら無かった。
『時を告げる鳥…? どこにも無いけど?』
「しかし赤司が間違えるとは考えられないのだよ」
その時ポーンと音が鳴り、壁にかかった時計の小窓が開き、ポポー♪と時計仕掛けの鳩が鳴き出した。
「『あ、あったー!?』」
鳩時計。確かにこれならお題にも合う。
緑間君は椅子に乗り、鳩時計を壁から外す。
その時に彼のラッキーアイテム、法螺貝は私が預かっていた。
緑間君が時計を持って椅子から下り、こちらに顔を向けた時、突然険しい表情になった。
「桃井っ!! 苗字から離れろ!!!」
『え…??』
不意に私の肩に弾力のあるモノの感触が当り、驚いて横を見ると、桃井さんが私に抱き付く様にしがみついていた。
『さつきちゃん…!??』
「ふふっ」
桃井さんは妖艶に微笑むと、ポカンとした私の手から難なく法螺貝を取った。
『あの…?』
「ゴメンねっ! ミドリン!!」
彼女は法螺貝を入口にいた黒子君に投げ渡す。
「なっ…!?」
緑間君の目が驚愕に見開かれる。
黒子君は、ひらひらと法螺貝を振りかざした。
「緑間君、すみませんがこれは頂いて行きます。返してほしかったら力ずくで取り返してください」
黒子君は無茶苦茶な事を言いながら入口から走り出て行った。
「黒子―っ!??」
『ちょっとーーー!!??』
緑間君は慌てて私に鳩時計を投げ渡すと、黒子君を追って走り出て行った。
その後を桃井さんも追いかける。
『さつきちゃん!!』
彼女は後ろを振り向くと、悪戯っぽく私に舌をペロリと出して「ゴメンねー、名前ちゃん!」と言ってまた走り出した。
私も鳩時計を抱え、彼等の後を追った。
私がぼんやりしていたから、油断したから、緑間君の大切なラッキーアイテムが取られてしまった。
何で失念していたんだろう? 彼等もまた、私達と同じゲームをやっているのに。
恐らく、あれが彼等の"お題"なんだ…!
おは朝の言う通り、確かに面倒な事になってしまった。
やっぱり今日の蟹座と牡牛座の相性は最悪みたいだ。