If-帝光編(二年)


スタンプラリー篇(後篇)


no41 公式小説ネタバレ注意!
(Welcome to 帝光祭より引用あり)


※※※

緑間君は足が速く、体力もある。
いつもなら黒子君を難なく捕まえられる筈だった。

でも、今は学園祭の真っ最中。
校内の廊下は、生徒や保護者等諸々でごった返し、看板など色々な物が置かれていた。
そんな中を黒子君はすり抜け、紛れ込み、ここぞと言う時にはミスディレクションを駆使して逃げ回っていたから、さすがの緑間君でも捕まえあぐねていた。

彼等はギャーギャー言いながら追いかけっこをしていた。…楽しそう。

そして、その後を私が鳩時計を持って走る。
私が走った振動でか、時折不意に小窓が開いて鳩が鳴く。

……中々カオスな状況である。

行き合う人々が面白がって、スマホで動画とか撮っているし。

やがて黒子君は校舎を出て中庭に出た。
第二体育館が近い。私も出来るだけ足を速めた。

外に出たら、遮蔽物が少なくなり、緑間君はグンとスピードを上げた。
今にも黒子君に掴みかからんとしたその時、黒子君は突然校舎を曲がり消えた。
緑間君もすぐに後を追う。

「黒子っっ!!」
「あれ〜ミドチン?」

何と紫原君が出現した。まだドレス姿だった。…案外、気に入っているとか…??
桃井さんが紫原君に話しかけた。聞くと彼は休憩中らしい。

「さっちんとミドチンと…綽名ちん? こんな所で何やってんの〜?」

緑間君はハッとした。

「そうだったのだよ! 俺は黒子を見付けないと!」
「えー、黒ちん? 黒ちんなら、ここにいるけど?」

黒子君は紫原君のスカートの陰に隠れていた。

「あ」
「黒子ー! そんな所にいたのか!」

紫原君を軸にして、グルグルと彼等は追いかけっこを始めた。

「あらら? 何なの、これ?」

紫原君は暢気に欠伸をしている。
私は緑間君に協力して黒子君を掴まえようと、そっと彼等に忍び寄った。

「名前ちゃん?」
『…さつきちゃん…!』

私は桃井さんに捕まえられてしまった。
彼女はニコニコと、私の腕を絞め上げた。…怖い。

「残念だけど、私達の邪魔はさせないわよ?」

チッ、バレてたか!

桃井さんは、声を張り上げた。

「ムッ君! ちょっとだけミドリンの邪魔をして! クレープ奢るから!」
「うんっ!」

紫原君は大きく手を広げ、緑間君の邪魔をし始めた。
その隙に、黒子君は第二体育館に向かって走り出して行った。

『紫原君、邪魔止めてくれたらフィナンシェ作ってあげる!』
「うん!」

紫原君は邪魔を止めた。
緑間君はすぐに紫原君から離れ、黒子君を全速力で追いかけていた。
少し距離は離されたが、その後ろに鳩時計を抱えた私が続き、更に後ろから桃井さんとドレス姿の紫原君が走って来る。

最後は体力勝負か。傍から見たら珍妙な光景だ。

黒子君は第二体育館前に着くなり、脇に抱えていた法螺貝を頭上に掲げた。
私も鳩時計のネジを回す。

ポーンと音が鳴り小窓が開いた。ポポー、ポポー♪と間抜けな音で鳩が鳴く。

私と黒子君は同時に合格した。
法螺貝を返された緑間君は怒り心頭で、彼等に詰め寄っていた所を、何故だか青峰君に羽交い絞めにされていた。

…どうやら青峰君達も、お題はクリアしたらしい。緑間君には災難な話である。

※※※

私達は多目的ホールに連れて来られた。
第四ゲームは迷路らしい。

しかしそれはただの迷路では無く、お化け屋敷風に設えてあった。

桃井さんはお化け屋敷が苦手みたいで、中に踏み出せないみたいだった。
青峰君と黄瀬君はさっさと中に入って行く。
入口から先の道は三つに分かれていた。彼等は中央の道を進んで行った。

「俺達も行くのだよ」

緑間君はそっと私の手を握った。

『緑間君…』
「く、暗いからな…! 逸れては困るからなのだよ! 断じて変な気持ちでは…!!」
『分かっているよ。…ありがと』

私は頷いて微笑み、彼の右手をキュッと握り返した。

『緑間君と一緒だと心強いよ』
「…怖がる事は無い。こんなの子供騙しなのだよ!」

見上げたら緑間君の顔が、暗い中でも分かる位には赤くなっていた。
私も照れて思わず視線を逸らした。

「名前ちゃんとミドリンって…」
「仲良い…ですね。何ですか? あの見てる方が恥ずかしくなるリア充っぷりは?」

黒子君と桃井さんの声が聞こえ、私は更に頬が熱くなった。


私達は左の道を選んで進む事にした。

迷路は暗く、時折幽霊達が姿を現す。
その度に、握った手に思わず力が入ってしまう。

これは部員がやっているのは分かっているけど、暗闇と果てしなく続く様に思える迷路が私の感覚を狂わせていた。

脅かされるのも好きじゃないけど、迷路の方が苦手なんだよなぁ…
一人だったら、疾うにギブアップしてたかもしれない。

そもそも、これは私が自分の意思で参加を決めたものではない。
青峰君に引っ張り込まれた結果だ。
しかも、それに緑間君まで巻き込んでしまった。

「どうしたのだよ? 苗字、さっきまでの元気が無いな?」
『…緑間君、ゴメンね? 占星術研究会に出る筈なのが、私に付き合せてしまって…
さっきも、うっかりして法螺貝を取られたし。私、全然役に立てて無い…』
「ふん、そんな事か」

緑間君は眼鏡のブリッジをくいと上げ、私を横目で見た。

「確かに役に立ってはいないな。だが、まだゲームは終わってはいないのだよ。
落ち込むなら、最後まで人事を尽くし切ってからにしろ」

今は落ち込んでる場合ではない、か…確かに。
私はキッと顔を上げた。

『そうね。参加したからには最後までやらないとね。苦手なんて理由にならない。
あの青峰君だって、クイズ突破して来たんだもんね?』

緑間君は含み笑った。

「まあ、あいつ等は最後のサービス問題で何とかクリアしたのだろうが。
やっとらしくなったな苗字。お前が大人しいと、俺まで調子が狂うのだよ」

私もクスリと笑い、彼の手を握り締めた。


緑間君と私は分岐点を記憶し、メモ帳に書き込みながら歩いていた。
途中の分岐点に来た時、不意に私の首筋にヒヤリとした物が当たった。

『きゃっ!? 何っ!?』

それがスルリと服と背の中に落ちてしまう。
私は慌てて襟の中に手を入れた。が、それには届かなかった。

『やだっ!! 何か入った!? 気持ち悪いっ!!』
「どうした!? 苗字!?」
『背中にっ…何か入った! 取って!!』

緑間君は躊躇っていたが、私が催促すると「本当に良いのだな?」と呟き、襟の中に手を入れてきた。

私も正直恥ずかしかったが、この際は仕方がない。
辺りは暗くて、迷路の壁に身を寄せれば目立たないのが救いだ。

「…これ以上は手が入らん。悪いがボタンを二つ程外せるか?」
『ふ、二つ…!?』

二つも外したら下着が見えてしまうが、やむを得ない。
私はブラウスのボタンを外した。

「身体を折り曲げてろ。すぐに済む」

緑間君は、なるべく私を見ない様にして、中をまさぐり素早く落ちた物を引き出した。

「蒟蒻…?だな」
『はぁ!?』

私は自分の格好も忘れて顔を上げ、緑間君に近寄った。

『誰がこんな事を!?』

「名前おめー、スゲェ格好してんなw」
「ちょっと…目のやり場に困るっス…」

『えっ?』

声のした方を向くと、青峰君と黄瀬君が顔を赤らめて立っていた。

『もしかしてあんた達っ!!?』
「苗字、その前に服を直せ!」

緑間君は私の前に背中を向けて立ち、彼等からのスクリーンになってくれた。
彼の陰に隠れ、私は慌ててブラウスを直す。

『もしかして、蒟蒻を当てたのは…?』

私の怒りを込めた詰問に、黄瀬君が苦笑しながら青峰君を指す。

「青峰っちっス」
「ははw悪ぃ。それよりも名前、こんな所で服脱ぐなよ、緑間に襲われんぞww」
「な…っ!? 失礼なのだよ! 襲うなら青峰の方だろう!」
『誰のせいだ、誰のっ!?』
「蒟蒻がペタってーのは定番だろ?」
「…青峰っち、それ桃っちにもやって超怒られたっス」
「余計な事言うんじゃねーよ、黄瀬!」

緑間君はため息を吐いた。
「全く、子供じみた真似を…」

私は青峰の前に立ち、彼を睨み上げた。
『青峰君、縮んで…じゃなかった、屈んで!』
「何でだよ?」
『屈んでくれないと、こうよっ!』

私は青峰君のズボンのベルトを引っ張った。
青峰君は私の頭を押え付けた。

「てめ、何しやがる!?」
『離してっ! ハンムラビ法典の行使! 緑間君、蒟蒻貸してっ!』
「はぁ!?」
「待て。苗字、これを持ってろ」

緑間君は私に法螺貝を預け、青峰君のシャツを後ろに引っ張り、背中に蒟蒻を放り込んだ。

「ぐわっ!? 緑間、てめー何を!??」
「フン。目には目を、歯には歯を、なのだよ。苗字に下に突っ込まれるよりはマシだと思うが?」

緑間君は眼鏡のブリッジをクイと上げると、私を見て悪戯っぽく口許を緩めた。
黄瀬君はブッと吹き出した。

「緑間っちが青峰っちに…!? はははっwww レアなもん見ちゃったっス! 面白い〜!!」
「笑ってねーで取れよ黄瀬!! 俺は全然面白くねーぞ!?」
「馬鹿に構っている暇はない。先に行くのだよ苗字」
『じゃーね! 頑張ってねー!!』

それからは、緑間君の緻密な思考と今までのマッピングとラッキーアイテム(?)が功を奏し、かなりの短時間で迷路を抜ける事が出来た。

※※※

私達が多目的ホールを出たら、黒子君と桃井さんが次のゲームを始める所だった。

第五―最終ゲームは再びゴールまでの二人三脚。
私達も急いで足首にバンドを巻いた。

歩き出そうとしたその時、扉が開いて、青峰君と黄瀬君が出て来た。

「あっ! てめーら、待ちやがれ!!」
「あれ、先越されちゃったんスねー」

緑間君は私の肩を軽く叩いた。

「さ、急ぐぞ! 正念場だ!!」
『うんっ!!』

私達は黒子君と桃井さんの後を追い、軽快に走り出した。
先程の第一ゲームで慣れたせいか、さっきよりも息が合い、スピードが増している。
でもそれは、黒子君達や青峰君達も同様だった。

私は緑間君と声を合わせて、ひたすら走る。何だか楽しくなって来た。
緑間君を見上げると、彼も口許を緩めていた。
彼も私と同様に、楽しんでくれてるのが嬉しい。私は湧き上がるくすぐったさに目を細めた。

ゴールが目に見えて近付いて来た。…もうすぐだ!
私達はスピードを上げ、ラストスパートをかけ、ついに黒子君達に追い付いた。
しかし同時に、青峰・黄瀬チームにも追いつかれ、並んだ。

追い抜かされる…っ!!?

ゴールまであと一歩。

その時ある異変を感じた私は、咄嗟に全身の力を込め、緑間君を手前に引き倒した。
二人一緒に地面に転がる。

「何を…っ!??」

ドゴォォォ…!

目の前の地面が持ち上がり、塊になって跳ね上がると同時に、私達を抜いた四人は消失した。

『…何!? これ…??』
「……!!?? 苗字、大丈夫か!?」

私は緑間君の下敷きになり、押し倒された状態で茫然と呟いた。
四人は直前で罠にかかり、巨大な網に包まれ宙づりにされていた。

緑間君は慌てて身体を起こす。

『緑間君、怪我はない!?』
「俺は大丈夫なのだよ。お前こそ…?」
『私は…痛っ!』

緑間君は眉を顰め、私の足に手を当てた。

「…足を痛めたか」
と言うなり、彼はバンドを外した。

『私は大丈夫。後一歩位走れるよ。このまま行けば優勝だから!!』

彼は私の言葉を意に介さず、私に法螺貝を持たせ、姫抱っこで抱き上げた。

「棄権します!」

その横を、男女一組が走り抜けてゴールテープを切った。
優勝し、喜び合っているペアを尻目に、緑間君は私を保健室に運んで行った。


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