If-帝光編(二年)


帝光祭・エピローグ


no.42 帝光祭 エピローグ



保険医に診て貰った所、軽い捻挫だった。
湿布を当てて少し休んでから、ゆっくりと歩く。

緑間君が手を貸してくれた。

私達は応接室に鳩時計を戻し、また校内を歩いていた。

『ごめんね。折角優勝出来そうだったのに、私のせいで…』
「苗字が止めなければ、俺達も奴等と一緒に罠にかかっていたのだよ。
気に病む事はない。人事を尽くした結果なのだからな。…確かに優勝を逃したのは残念だったが」

私は不思議に思い、彼を見上げた。

『やるからには優勝…は分かるけど、緑間君も賞品が欲しかったの? 意外…』
「いや、俺は… 苗字は噂を知らんのか?」
『何の噂?』
「別に知らないならいいのだよ」
『何よ、それ。気になるから教えて?』
「忘れろ」
『はぁ? ちょ…』

「おい、緑間!」

私達の言い合いを止めたのは、三年の男子生徒だった。
緑間君の顔が引き攣った。

「先輩」
「何だよ、あれだけ頼んだのに。いきなりドタキャンはねーだろ!?」
「…すみません」
「まぁ、過ぎた事をあれこれ言っても仕方ねえ。今からでも来いよ!」
「あの、俺は…」

緑間君は気がかりそうに私を見やる。
それに気付いた三年男子は、意味あり気にニヤリと笑った。

「…もしかして彼女か? 校内デートとは生意気な。なんなら一緒に連れて来ても良いぞw」

緑間君は生真面目に否定する。

「彼女ではありません、友人です。今、怪我をしてるので、俺が離れるわけにはいかないのです」
「休む所探しているなら、うちの教室で休んでもいいぜ。今、そんなに混んでねーからな」

「…どうする? 苗字」

私は軽く首を傾げてから頷いた。
休ませて貰えるなら丁度良い。

『すみません、では私もお邪魔します』

※※※

私は占星術研究会の教室に連れて来られた。

私も少しだけ、ホロスコープとかを齧っているのを知った先輩は、喜んで私を別のブースに座らせた。
そして今、私は少々困惑していた。

『それでは生年月日と…出来れば出生時間と出生場所も。ご相談をどうぞ』
「俺は6月9日生まれだけど、君との相性を占ってよ!」
『…あの、そう言うご相談は受け付けて無いので』
「じゃあ君の誕生日は?」
『貴方は双子座ですね。気になる方の誕生日は?』
「だから、それは君だっつーの! 教えてよ!」

…だから占いに来てナンパしてんじゃねーよ。

「おい」

超低音の声が聞こえ、顔を上げると、フードを目深に被った緑間君が睥睨していた。
相当機嫌が悪いなこりゃ。

「な、何だ!? アンタはっ!!??」
「そんなに知りたければ俺が教えてやるのだよ。こいつとお前の相性は最悪だ。
ラッキーアイテムは焼けた鉄釜なのだよ。分かったらとっとと出て行くのだよ!」

『ちょっとちょっと!! いくらおは朝が鬼畜でも、焼けた鉄釜って!?』

双子座死んじゃうだろ。出まかせ…だよな?? た、多分!

しかし私の突っ込みも虚しく、緑間君の威圧感に怯えた男子は、悲鳴を上げて逃げ出て行った。

『…はぁ。何やってるの…? お客さん逃げちゃったじゃん』
「あんなのが客なものか! あの手合いは適当にあしらっとけば十分なのだよ。何やってると言いたいのはこっちなのだよ!」
『私はただ占っていただけよ』
「お前との相性をか。…なら苗字、俺との相性を占うのだよ!」

言うなり、緑間君はドカリと私の前の椅子に座った。

…おいおい、そこはお客さんの席だよ。つか、何でそーなるの!?

フードを被り法螺貝を抱えた怪しげな大男が、客席に座っているのを見た客達がギョッとしている。

「俺は7月7日の蟹座なのだよ。さあ占え!」
『知ってるけど。私も蟹座だし。…でも占えって…?』
「ホロスコープを出すのだよ!」
『…はいはい』

私は手元のノートパソコンのアプリを立ち上げ、二人の生年月日と出生時間と出生地を打ち込んだ。
すぐにパソコンの画面が、ホロスコープとハウスと惑星のアスペクトの表に切り替わる。

『太陽は…当たり前だけどコンジャンクション―合、だね。で月と金星は…トリン(120度)、か』
「それは相性が良い…のか?」
『悪くは無いんじゃないかと』
「どっちなのだよ!??」

えー? 二者択一かよ。

『…どっちかと言うと…良い、かな?』
「……そうか」

今度は、途端に緑間君の機嫌が良くなった。
相性が良いと言われて悪い気になる人はいないか。

『女性の火星と男性の金星が良アスペクトの場合は、恋愛関係に発展し易いと―私と緑間君の場合は…』

あれ…??

『…和合、してるね。…ええと、性的魅力を感じやすく、燃え上がり易く冷め難い、と』
「…………っ、」
『どうしたの?』
「れ、恋愛っ…性的だ、と…?」

私はキョトンと彼を見つめた。
彼は耳まで真っ赤になってあたふたしている。
な、何かそんな初々しい反応されると、こちらも照れてしまうんですけど。
でも相性良いのは嬉しいな。

『まぁでも、当たっている…よね』
「なっ…!??」

えーと…待てよ? この話の流れで行くと…今、私が言った台詞は拙かったかも…?

『ああ、いや! 相性が良いって話!』
「あ、ああ…」

少しホッとした様な、残念な様な、入り混じった微妙な表情をさせてしまった。

『帝光祭、劇もスタンプラリーの時も一緒にいてくれて嬉しかった。今もね。…ありがとう』
「…ああ。来年も…」
『ん?』
「一緒に過ごしてやらんでもないのだよ! 俺の気が向けばな!」

絶妙なツンデレっぷりを発揮してくれた彼が可愛くて、私はついクスクスと笑ってしまった。

「何を笑っているのだよ!?」
『ゴメンw 緑間君が可愛くて…つい』
「なっ!? 可愛いとは何だ!? 嬉しくないのだよ!」

赤くなって怒る彼が可愛くて、私は更にクスクスと笑ってしまう。

『うん、ゴメン。来年も一緒にいれれば良いね!』
「……仕方無いから付き合ってやるのだよ!」

何気ない会話だけど幸せで。こんな時間がずっと続くと良いのに。

私は、近い未来に忍び寄る影を直視したくなくて、頭を軽く振った。


page / index

|



ALICE+