If-帝光編(二年)


望むものは


ボールとバッシュのスキール音が響き渡り、汗を流して練習に励む選手達。
それは、いつもの見慣れた光景…の筈だった。

私達の後から渋々と言った態で現れた青峰君も練習を始めていた。
それに黄瀬君や桃井さんは不審気な目を向ける。

「…何だか…いつもより雰囲気が悪いっスね…?」
「青峰君とミドリン…全然目合わさないんだけど」

私は緑間君を見た。

彼は、あれから私と目を合わす事は無かった。
声をかけようとしても、視線を逸らせて立ち去ってしまう。

…やっぱりさっきの事が原因だろうか?
屋上から戻る時、彼は何かを言いかけていた。
けどそれ以来、彼は私に何も話しかけなくなってしまった。

緑間君に青峰君との出来事を見られていたなら、誤解されたのかもしれない。

今まで彼等の気持ちを知りながら、敢えて放置していた報いなのか。
こんな短時間にも関わらず、緑間君と話そうとしても話せない事が自分で思った以上に堪えていた。

「青峰っ! そこは俺にパス出す所なのだよ!」
「そんなまどろっこしい事やってられっかよ。俺が決めた方が早いっつーの!」

「青峰君、緑間君…!」
「何やってんスかもー」

監督やコーチがいる時は、ピリピリしながらも辛うじて保っていたが、目が届かなくなると彼等は途端に口論し出す。
それでも赤司君の仲裁により、漸く平常を取り戻した。

まだ予選試合が続いているのに、こんなんで大丈夫なのかな…?
青峰君にも、ちゃんと返事をしていない上に突き飛ばしたりなんかして…
視線を向けたら、青峰君と目が合ってしまった。

「おい名前、ドリンクくれ!」
『はいっ!』

青峰君は、一見いつもと態度が変わらない様に見えた。
それに人知れず安心してしまう私は最低だ。

私は青峰君にドリンクを差し出した。途端に刺す様な視線を感じドキリとして振り返る。

…緑間君…!?

私の視界に入ったのは、緑間君の後ろ姿だった。
誰かが私を見ていた様に思ったんだけれど…? 気のせいだったのかな…?

練習が終わり、片付けをした後、私は緑間君に駆け寄った。

『緑間君、指にテープ巻こうか?』
「必要ない。自分でやるのだよ」
『…あ』

軽く手を払われながら断られてしまった。
…やっぱり、私は彼に避けられてしまっている…

私は胸の痛みに耐えかねて歯を食いしばり俯いた。

「苗字、少し話があるんだが、良いかな?」

赤司君が私を呼び止めた。
ミーティング室の片隅に向かい合って座る。

「苗字、青峰と緑間の間で何かあったのかい?」
『…それは』

私は部活前の屋上での話をした。

「苗字、君が緑間と青峰の間で何があったとしても、部活内で揉め事の種になるのは困るよ。
特に今は重要な時期だ。君を誘ったのは俺だし、今までの君の貢献には感謝している。
だが彼等との事が改善されなければ…辞めてもらう事になるかもしれない」

赤司君の言葉は厳しかった。

まだ、どうしたら良いのか分からないけど…自分のせいで、チームに亀裂を生じさせる訳にはいかない。
私は頷きながらも途方に暮れていた。

※※※

私は帰り道、黒子君と桃井さんと一緒に帰った。
私は彼等に相談を持ち掛けた。

「赤司君が…そうですか…」
『…青峰君を放って措けなくて。でも緑間君も何か変になって』
「緑間君の変なのは今更ですけど」
『今更って。そこじゃなくてねw』

桃井さんが憤慨した様に声を上げる。

「最近、青峰君無愛想でさー、私ともあまり話さないんだよ」

黒子君は考え込みながら口を開く。

「青峰君は…悩んでいるんだと思います。僕、青峰君と話してみます」

『ありがとう。黒子の話なら、青峰君も聞いてくれると思う』
「でも緑間君の方は苗字さんでお願いします」
『…そう…ね』

私は言葉を濁した。
話しかけても拒絶されているこの状態で聞いてくれるのだろうか…?
また拒絶されるのは辛い…

以前も一時期似た様な事があったけど、あの時は私の運の悪さで有耶無耶になった。
でもあの時と今では違う様な気がする…

「ね、名前ちゃん。ミドリンの方は良い切っ掛けがあるんじゃないの?」
『え?』
「もうすぐミドリンの誕生日だよねぇ?」
『そう言えば…7月7日だったね』
「サプライズでパーティーしようよ!?」

誕生日…黄瀬君の時も、何だかんだ皆でお祝いしたっけ。

一人では、どうしていいのか分からないけど、協力してくれる友人達がいる。
兎に角ぶつかってみよう。話はそれからだ。
私は彼等に頷きを返した。

※※※

…とは言っても…
私は溜息を吐いた。

今は昼休み。

私は結局中庭で、ぼっち飯をしていた。

今日はキセキ達と一緒に食事をする事になっていた。
緑間君は取り付く島もなく、一人で食堂に行ってしまった。
昨日の決心がしぼんでしまい、行くのが怖くなった私は、声をかけてくれた青峰君に友達との先約があると、嘘を吐いて断ってしまった。

彼等の雰囲気を、これ以上自分が原因で悪くするのは耐え難かった。

『…何やってんだろ、私…』

自分って、こんなに臆病だったんだろうか?
彼らをあれ程傷つけておきながら、自分は傷付くのが怖いのか。

「おめー、こんな所で何やってんだよ? おめーのダチはどうしたんだ?」
『…あ、青峰君…』

…どうしよう?
今、一番会いたくない内の一人に見付かってしまった。

『ああ、丁度皆お手洗いに…』

私の下手な嘘に青峰君は盛大に溜息を吐いた。

「何言ってんだ? おめー、他の連中の荷物ねーじゃねーかよ」
『うっ…!』
「俺達に一々下手な遠慮してんじゃねーよw」

青峰君は私の頭をグシャグシャと掻き混ぜた。
あんな事があったのに…

『…どうして青峰君は同じなの?』
「あん?」
『あの…私、突き飛ばしちゃったのに』
「ああ、あれか。おめーが緑間を好きなのは始めから分かっていたからな。
そりゃショックじゃねーつったら嘘になるけどよ。
だからって、つれねー態度なんか取ったりしたら、おめーは益々俺に靡かなくなんだろが」

『…随分はっきり言うのね』
「俺はまだるっこしいやり方は性に合わねえからな。おめーも一々クヨクヨすんな。似合わねーぞ」

『…はは。ありがと』
「おう。遠慮しねーで頼って来い。ハッキリ言って下心はあるけどな!」
『あるんかい! それ言わなきゃ良い男だと思うのに…w』
「言っても良い男だろ!」
『そうだね!』
「てめー、マジに返すんじゃねーよ!」

青峰君は照れてそっぽを向いた。
彼も悩んでいるのに、私の方が慰められてしまったな。
やっぱり青峰君は良い男だ。

※※※

-緑間side-

今は部活が終わり、一部の部員が居残り練を続けている。
苗字と赤司は其々家の用事とやらで帰宅してしまった。
監督もコーチも不在で、俺達は各自で自主練をしていた。

しかし今日は、やけに青峰が突っかかって来るのだよ。

「一体、何が気に入らないのだよ! 一々突っかかられると迷惑なのだよ!!」
「おめーこそ最近の名前への態度は何だよ!? グズグズしやがってウゼェんだよ!!」
「…青峰には関係無いのだよ!」

俺は顔を背けた。
最近の苗字への態度は自分でも自覚している。

彼女が青峰と抱き合っていたのを見て以来、彼女を見ると心臓が抉られた様に痛くなる。
どうしようも無く苦しくて辛くて、彼女の顔をまともに見る事が出来なくなっていた。

「は!? 関係ねーって事はねーだろ!? 苛々すんだよ、おめーを見てっと!!」

ただでさえムカつくのに、絡まれて苛々してるのはこっちの方なのだよ!

「付き合いきれん。帰る!」

俺が踵を返すと、青峰は俺の腕を掴んだ。

「待てよ緑間、1on1しろ。名前を賭けようぜ?」
「断る。苗字は物じゃないのだよ!」

だが青峰は俺の腕を離さない。

「逃げんのか!? 俺なら欲しければ奪い取ってでもモノにしてやる…!!」
「誰が逃げるだと…!?」

…今更何を言っているのだよ。もう疾うに奪い取っただろうが…!

俺が睨み付けても、青峰は構わず更に言い募る。

「おめーが勝てば、俺は名前を諦める。だが俺が勝てばおめーが名前から手を引く」
「……そんな約束は無意味だ。苗字の気持ちはどうするのだよ?」

「勿論最終的には名前が決めるさ。その前に俺達はアイツにアタックする権利を賭けようぜ?ってんだよ。
それとも俺に勝つ自信がねーのか? ならヤツは俺が貰う」

青峰の言葉は俺の胸を焼いた。

俺が貰う…だと!?

俺はカッと頭に血が上る。

ふざけるな!! 苗字は…っ!

俺は否定しかけてハッとする。
その台詞は俺の欲望そのものだった。
自らの欲望のままに言葉を出せる青峰が羨ましくも腹立たしい。
しかし、苗字は青峰にも…誰にも渡さない。渡したく…ない!

俺は血が滲む程唇を噛み締め、拳を握り込んだ。

「…青峰、二言は無いな」

俺は目を光らせ、眼鏡のブリッジを上げた。

今日の蟹座は二位だ。
一位では無いが、乙女座には決して負けないのだよ…!!

俺はラッキーアイテムのおんぶ紐を握り締めた。

※※※

-名前side-

「これは赤司様、お世話になっております」

今、私は、父母の仕事関係のブランドショップの新装開店セレモニーに引っ張って行かれていた。
赤司グループも関係してるらしい。赤司君も同伴している。

赤司君のお父さんは、眼光鋭く厳めしい表情をしていた。
…どんな家庭なのか…想像すると怖い。

「これから苗字さんとは重要なお付き合いをさせていただく事になりますな。
聞けば、お嬢さんと息子とは同じ学校で同じ部活をしていると言う。
この際ですから、是非息子からも、ご挨拶をと思いまして」

「恐れ入ります。征十郎様には娘がお世話になっておりまして…こちらこそ御礼を申し上げます」

私も畏まってお辞儀をする。
…さっきまで顔を合わせていたのに、何だか変な状況だ。

赤司君の方も同じ様な感想を抱いたらしく、私と目が合うと彼は口の端で含み笑った。

「さっきまで練習着とジャージだったのに、今は互いにスーツとドレスか。可笑しなものだね」
『体育館にいた方がまだ気が楽です。…いっそ、これからバスケしに行っちゃいます?』
「この格好でかい? …それにしても、君はドレスアップすると別人みたいだね」

…それは褒められているのだろうか?

『トランスフォームしてみましたw これぞ第二形態!』
「最終形態はどうなるの?」
『まだ分かりませんが、毛が抜けて皺くちゃに…』
「まだ早いだろう?」

赤司君は声を立てて笑った。
親達は驚いたみたいだ。

「これはこれは。随分と仲が良いみたいですな」
「名前! 征十郎様に失礼の無い様にな!」

『…ん?』

私のバッグの中の携帯が震えた。私は断って一旦席を外した。
桃井さんからメールが入っていた。

[大ちゃんとミドリンが大喧嘩して、ミドリンが大変なの!! 名前ちゃん、早く来て!!]

『緑間君が…!?』

大変って、何が起きたんだろう? …もしかして彼、怪我でもしたんだろうか?

私は慌てて席に戻り、部の方で急用が出来たので退席する事を親に伝えた。が、両親は納得しなかった。

「重要なセレモニーなのに、退席するなど失礼でしょう! 部活の事なら学校に任せなさい!」

『失礼は承知しています。でも学校だけには任せられない事なのです。
私が退席しても、お父様達がいれば問題はないでしょう。私にとっては、今はこちらの方が大事なのです!』

「待ちなさい!! 名前っ!!!」

私は両親の声を振り切って走り出した。


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