七夕のsurprise
『…で、どこ行くの?』
「あ? 付いてくりゃ分かる」
「大ちゃん、こんな調子で私にも教えてくれないんだよ!」
『黒子は知ってるの?』
「…さあ?」
今、私達は青峰君に連れられて繁華街を歩いていた。
今日は試験が終わり、部活もお休み。
私達は、全中に向けて練習に明け暮れる日々の間の、ほんの一時の開放感を味わっていた。
そして赤司君が企画する緑間君のサプライズ誕生会の準備で買い物に来ていた筈。
青峰君は何を買うつもりなんだろう?
誕生日と言えば、プレゼントだよね。
でも緑間君って何で喜ぶんだろ?
今の所私には、せいぜい冷たいお汁粉とか、ラッキーアイテム位しか思いつかない。
紫原君はケーキ担当の筈なんだけど…
まさか先に食べちゃったりしないだろうな…??
青峰君と黒子君は楽しそうに話しながら歩いている。
私はそれを何となく眺めた。
「ふふっ、ねぇ名前ちゃん!」
私の横に桃井さんが寄って来て耳打ちした。
「テツ君ね、青峰君が元気無い時に話してくれたんだって!」
『…そうなんだ?』
…あ、もしかして、あのアイス背中に突っ込んだってヤツかな?
黒子、見かけによらず過激な所あるからなぁ…
何はともあれ良かった。
「名前ちゃんもミドリンと仲直り出来て良かったよね!」
『仲直りって言うか…』
何となく青峰君との1on1から、なし崩しに戻った様な気がする。
これに関しては、私の努力じゃない様な。…有難いけど。
「あー、オメーらこっちだ!」
『えっ?』
私達が足を止めたのは、大きな総合ディスカウントショップだ。
青峰君は店に入り、どんどんと奥まった中に歩いて行く。
衣料品のコーナーのさらに奥には、様々なコスプレ衣装が並んでいた。
『プレゼントって…まさかのコスプレ!?』
「これなんかどうよ?」
「流石に…ウケ狙い過ぎでは?」
青峰君はクマの着ぐるみを取った。
私は引き攣って恐る恐る尋ねる。
『…え? もしかして…それ、緑間君に着せるの?』
青峰君はニヤリと人の悪い笑みを浮かべる。
「意外と似合うかもしんねーなw」
「そんなサプライズ、僕ならイヤですね」
「テツ君の着ぐるみ…!?」
さつきちゃんは嬉しそうに悶えている。
そしてその黒子君が持っているのは…
『メイド服着せるとか、どこまでドSなの!?』
「可愛いですよ?」
「はうっ! テツ君が可愛いって…!」
『それ、緑間君が着た時の事言ってるよね?』
「緑間はラッキーアイテムの時なら喜ぶぜ、きっと」
『それ、いつになるか分からないじゃん…』
黒子君は服を持って来て私に渡した。
「苗字さん、試着してみてください」
メイド服とナース服…ベタだな。つか
『何で私が着るのよー!?』
「着てみた様子が見たいので」
『なら青峰君が着りゃ良いじゃない! 体格近いんだし! ほら大人メンズのL!』
「テメふざけんな! 俺ぁぜってー着ねーからなっ!!」
黒子君はズイっと服を差し出してじっと私を見つめた。
「苗字さん、お願いします」
『もう…仕方ないなぁ』
何で私が…とか文句言いながら着てみた。
メイド服なら帝光祭でも着たけどな。…スプラッタメイドだけど!
「…成程。まともなメイド服なら見れますね」
『褒めてないでしょ、それ!?』
私のミニスカナース服姿を見た青峰君は「あ、やべ!」と、顔を押えて後ろを向いてしまった。
『ヤバいって…酷くね? さ、大輝君、お注射の時間ですよー!』
「おま、それマジでヤベーぜ!」
「今度はこれお願いします」
黒子君の持って来たのはウェディングドレスだ。
それを見た桃井さんは危うく失神しそうになり、私は慌てて彼女を支えた。
「駄目だ!! テツ!」
怒鳴ったのは青峰君。黒子君は首を傾げた。
「…ダメですか?」
「ウェディングドレスなんてヤツは本番以外で着るもんじゃねーだろ」
男前な台詞に驚いたのは私だけではなかった。
「どうしたの? 大ちゃん。何か悪い物でも食べた?」
『本番って…緑間君が本番で着たら……花嫁より似合ったりしてw』
私の言葉を聞いた彼等は、何やらこそこそと耳打ちし合っている。
不審に思った私は彼等を問い質したが、彼等は言葉を濁して教えてくれなかった。
それから青峰君がバニーガール服を出して来て、「これ、試着だけしてみろよ名前」と言ったと同時に、桃井さんから肘アタックされたりしたのは、ほんのご愛嬌である。…と思いたいw
更に散々私は色々着せられたが、今一つ決め手に欠けるまま、決まらずに店を出る事にした。
『…はあ。結局私は、ただコスプレさせられただけか…?』
「まあ良いじゃねーかw」
「中々難しいですね」
『だから体格の近い青峰君が試着しろと!』
「ミドリンと大ちゃんじゃ、外見が違い過ぎで反ってイメージし辛いよ」
『私だって違い過ぎるがな!?』
「あれ、綽名っち? 青峰っちに黒子っちに桃っちも!?」
声をした方を見ると、黄瀬君が大きな紙袋を下げていた。
「きーちゃん、仕事の帰り?」
「そうっス」
「何だ? そのでけー荷物w」
「撮影に使ってもう要らないから貰って来たんス。何でも演劇部が欲しがってたから。
そしたら赤司っちが先にこっちに持って来て欲しいと」
桃井さんは赤司君の
「へー? それ、何なの?」
「見るっスか?」
黄瀬君は、それを出して広げて見せた。
※※※
そして緑間君の誕生日当日。
部活仲間は彼に、誕生日を祝う言葉を先んじて言うのは禁止されていた。
他のクラスメイト達や彼のファン達が彼にプレゼントしたり、言祝ぎするのを横目で見ているのはストレスがかかるが、私はサプライズの為と自分に言い聞かせ耐えた。
-緑間side-
今日は七夕。所謂、俺の誕生日だ。
おは朝によると、蟹座の運勢は悪くはないが、ラッキーアイテムを手にするのは不可能だった。
いくら七夕でも、"織姫"なんかどうやって調達出来ると言うのだよ?
俺に出来るのは、せいぜい織姫っぽい画像を待ち受けにする位なのだよ。
それで時々プレゼントを貰ったりもしたが、他は特に何事もなく一日を終えようとしていた。
いつもの様に部活が終わり、着替えに戻ろうとすると赤司に呼び止められた。
「緑間、着替えが終わったら、ミーティングルームに来てくれ」
次の対戦校のスカウティングでもするのかと思い、頷きを返した俺は更衣室に入った。
着替えた俺は憤然としてミーティングルームに向かった。
「誰だ!? 俺の着替えをどこにやったのだよ…!??」
俺の服が綺麗に消え失せていたので、仕方なく代わりに入っていた服を、訳も分からず身に着けた。
流石に汗臭い練習着など着ていたくはなかったが、何なのだよ? この古代中国みたいな服は!?
更衣室は俺以外、誰もいなかった。
他の部員達はどこに行ったのか?
ミーティングルームにいるのか…?
ミーティングルームは暗く、ひっそりと静まり返っていた様だった。
…本当にここでいいのか? しかし赤司が間違えた
俺は意を決し、扉を開けた。
確かに部屋の中は真っ暗だったが、俺が戸惑いながら足を一歩踏み入れると、小さな光が一斉にキラキラと部屋に満ちた。
「……っ!?」
まるで自分が星空の中にいると一瞬錯覚しそうになり、俺は目を瞬く。
「これは…?」
俺がゆっくりと足を進めて行くと不意に鋭い光が射し、部屋の一角が丸く切り取った様に浮かび上がった。
「「「「「「誕生日おめでとうー!!!」」」」」」
声と同時にクラッカーが鳴り響く。
あまりの事に俺は反応を返す事が出来なかった。
スポットライトの中には、赤司、青峰、紫原、黄瀬、黒子、桃井がいた。
目を見開いて固まった俺に、紫原が何やら巨大な包みを差し出した。
「ミドチン、これー、皆からのプレゼントだからー」
「あ、有難く貰うのだよ…?」
俺が紫原から受け取った荷物は、人一人分はあろうかと言う位に大きく、重量もそれなりにあった。
俺は恐る恐るその包みを開け…驚きに思わず叫び声を上げた。
「苗字っ…!!??」
苗字は和服みたいな衣装に身を包み、更に全体に布で巻かれて幅広のリボンで結ばれていた。
俺はリボンを解き、巻かれていた布を外したが、彼女を揺すっても声をかけても反応が全く無かった。
「あれれー? 気絶してるよ、赤ちん」
赤司は顔を顰めた。
「包みを締め過ぎるなと言ったろう」
「締めたの峰ちんー」
「俺のせいかよ!? モゴモゴ動いてやり辛ぇんだよっ!! 着崩さねー様にしろってさつきも煩せーし」
「大ちゃんの力が強過ぎるのよっ!」
「苗字っ!! しっかりするのだよ! 目を覚ませ!!」
黒子がひょいと覗き込んだ。
「苗字さん…もしかして息が止まってませんか?」
「何だと!? そんなサプライズは要らないのだよ!!」
赤司も近付き、覗き込む。
「息が…? 人工呼吸が必要かい?」
「人工呼吸だと!?」
俺は一応の知識はあるが、実際にやった事はないのだよ。…しかし人工呼吸だと…?
所謂"マウス トゥ マウス"と言うヤツか。
俺の視線は彼女の唇に釘付けとなった。
…あそこに…?
俺は小さく喉を鳴らした。と同時に全身がかっと熱くなる。
これはそれではないのだよ。意識するな自分!
周りの視線を避ける様に、俺は光の輪から彼女を外し彼等に背を向け、彼女の頬を軽く叩く。
だが一向に目覚めない。
「苗字…っ!」
し、仕方ない…のだよ! これは緊急事態だ。
迷ってる間に事態は、どんどん悪化していくだけなのだよ!!
断じてキ、キスなどではない!!
「赤司、…俺がやってみるのだよ」
「ああ。保険医は帰っている。救急車は呼んだ方が?」
「…頼む」
俺は苗字を仰向かせ、息を深く吸い込み、顔を近付けた―
-名前side-
息苦しい闇の中で、緑間君の声が聞こえた。
目を覚ましたら、視界いっぱいに映ったのは、驚きに目を見開いた緑間君の顔だった。
しかも牽牛の姿だ。…これはもしかして夢の続きなのか?
私は暫くぼんやりとしていたが、我に返って自分の状況を思い出した。
そうだ。今日は彼の誕生日で…私は大切な役目を負っていたのだ。
私は彼に微笑みかけると、手の中の物を差し出した。
それは皆で少しずつ出し合って買ったプレゼント。
『お誕生日おめでとう! 緑間君…!』
やっと言えたと一息吐いた私の耳に、遠くから救急車のサイレンの音が聞こえて来た。
※※※
-緑間side-
…全く今日は、騒がしくて散々な一日だったのだよ。
俺は自室で今日の出来事を思い返していた。
いつもの予習と復習と宿題を終え、俺はぼんやりと手の中の物を弄んでいた。
人工呼吸する直前に苗字が目覚めたのは良かったのだが、微妙に残念に思ってる自分がいる。
緊急事態等と言い訳する事もなく、心を貰ってからするものだ。…あれは。
しかし俺は今日の事に、奇妙に満足もしていた。
織姫は苗字―彼女だったのだ。
俺は明かりを消し、手元の物を弄った。
途端に、俺の部屋中に満天の星空が映し出される。
「プラネタリウム…か。よく作ったものだ」
この小型プラネタリウムは苗字が俺の為に、俺の生まれ日の夜空を再現し作った物だと言う。
これを作っている間、彼女は俺の事を想っていてくれたろうか?
俺は星降る空に抱かれながら、ゆっくりと目を閉じた。