If-帝光編(二年)


14才・再び


今日は一学期の終業式。
講堂で式と教室でHR、HRでは通信簿と宿題を渡され、一学期最後の掃除をする。
終ったら部活は無いので早く帰宅出来る。

明日からは夏休みだ。
夏休みに入ると、合宿に全中と今以上に多忙になる。

そして今日は―

「苗字…」
『あ、緑間君、おはよう』
「あ、ああ…」

彼は何故かそわそわしているみたい。
どうしたんだろう?

私は軽く首を傾げて彼を見やる。
彼は整った指先で眼鏡のブリッジを押し上げた。
そして何度か言い淀んだ後、決心した様に口を開いた。

「よう! 名前! 今日はオメーの誕生日なんだろ?」
「名前ちゃん、お誕生日おめでとう!」

教室に入った私を見付けるなり、青峰君と桃井さんから声をかけられた。

『あ、ありがとう』
「これ、プレゼントな」
「私からはこれ!」
『わあ…! 開けて良い?』

青峰君からは青地に白いラインが入ったリストバンド、桃井さんからは可愛い缶に入ったミニ色鉛筆セット。

『ありがとう、二人共…!』
「これ持ち歩きして好きな時に絵が描けるよ」
「おめーも、もっとバスケしよーぜ?w」

担任が教室に入ると同時に二人はバタバタと駆け出し、桃井さんは自分の教室に戻り、青峰君は自分の席に着いた。

出欠を取った後、私達はクラス毎に整列して講堂へと歩き出した。
講堂では、長い校長の話に欠伸を噛み殺しながら、やや上の空で夏休みの諸注意を聞く。
終業式が終わり教室に戻る時は、整列も無くバラバラになっていた。

「苗字」
『緑間君』
「欠伸をしながら歩くな! みっともない」
『だって…校長先生の抑揚の無い声が脳のα波を誘発するんだもん…』

「どう言い回ししても、退屈で眠いだけだろう。…青峰なんかは爆睡していたが」
『…緑間君、退屈って、はっきり言い過ぎw 青峰君は身体の欲求には素直だよね』
「退屈なのは事実だ。だからと言って寝て良い訳ではないのだよ。…ところで」

「苗字さん」

不意に呼び止められた私は、驚きのあまり飛び上がりそうになった。

『わっ!? 黒子!!?』
「黒子…っ!?」
「すみません。苗字さん、誕生日おめでとうございます。これプレゼントです」

黒子君は可愛いラッピングの袋を差し出していた。
私は礼を言って受け取り、中を確認してみる。

中には爽やかな水色のシンプルな帆布のブックカバーと栞が入っていた。
何つーか…すごく黒子らしいチョイスだ。嬉しい。

「あ〜黒ちんにミドチン」
「紫原」

緑間君は眼鏡のブリッジを押し上げつつ、紫原君の持ち物を見て説教モードに入った。

「…お前、まさか講堂にも菓子を持って来たのか!?」
「だって〜退屈だしー」
「苗字と同じ様な事を言うな!」
『えっ!? ここでまさかの飛び火!? つか緑間君だって言ってたじゃない!』

「退屈で僕は寝てましたけど」
「黒ちんずるいー。俺はすぐ見つかるのに〜」
『目立たないと、こんな時は良いよね…』

「菓子を持って来るなど、不真面目にも程があるのだよ!」
「だってお腹空くし〜?」
「少しの時間位我慢しろ!」
「少しの時間じゃないですよ。長かったです」
「そう言う問題じゃないのだよ! 黒子!」
「あ、そうだ〜」

目くじらを立てる緑間君を一顧だにせず、紫原君は私に大きな袋を差し出した。

「誕生日おめでとー、綽名ちん。はいこれあげるー」
『…あ、ありがとう』
「開けて〜」

彼にせっつかれて袋を開くと、色々なお菓子が沢山入っていた。

『わぁ! 結構変わった味のお菓子も入ってるね』
「新製品の詰め合わせ〜…まいう棒のビーフシチュー味なんて初めて見た。ちょーだい?」

彼は私の抱えた袋から幾つかのお菓子を取り出すと、包装を破り食べ始めた。
マイペース過ぎる行為に、また緑間君が怒り出す。

そんな光景に、つい笑ってしまった私にまで緑間君の矛先が向けられ、纏めて説教されてしまった。
因みに黒子君はミスディレクションを駆使し、既に姿を眩ませていた。

※※※

LHRを終え、掃除の時間に私はゴミを捨てに行った。
戻って来る途中、私は不意に何者かに柱の陰に引きずり込まれた。

『ぎゃっ…!? 何…っ!??』

不意打ちにパニックになり暴れ出した私を、それは力ずくで抑え込んだ。

「しーっ…! 静かにするっス!」

聞き覚えのある声に、私はピタリと抵抗を止めた。

『…き、黄瀬…君?』
「そ。誕生日おめでとーっス、綽名っち♪」
『まさか誕生日祝いに襲われるとは…』
「人聞きが悪い事言わないで。見付かると面倒だからこんな手段を取ったんス。はいプレゼント!」

彼から渡されたお洒落なラッピングの袋を開けると、ゴールドカラーのヘアクリップが入っていた。
リーフが組み合わされた形でフェイクパールが所々にあしらわれている。

『わっ…可愛い…! ありがとう』
「気に行ってくれたなら良かったっス。さ、後ろを向くっス!」
『え?』

彼に急かされて半ば強引に後ろを向かされた。
彼は私の髪を暫く弄り、「出来たっス!」と私を解放した。

頭の後ろに手をやると、固い感触の物が付いていた。

『…これ、制服では目立つんじゃ…?』
多分、校則違反だろうな。

「似合うっス! 俺の見立てに間違いは無いっスよ」
彼は片目を瞑って恰好良く親指を立てた。

…聞いちゃいねーな、このモデルは。

兎に角、私は彼に礼を言い教室に戻った。

※※※

「遅かったな苗字」

教室に戻ると掃除は終わっていて、緑間君が自席に座っていた。
もう生徒達はあらかた帰宅していた。

『…まぁちょっとね』
「苗字は今日は、これから用事などあるのか?」
『特には無いよ』
「家族と一緒に誕生日を過ごしたりは?」
『ケーキは買って来てくれるかな。覚えていれば』

私が帰り支度を始めたら、緑間君は私の異変に気が付いたみたいだ。

「それはどうした?」
『…は?』
「その頭に付いている物だが」
『ああ、黄瀬君がくれた。誕プレだって』
「黄瀬だと…!?」

何故だか彼の機嫌が急降下してる?
彼の表情が突然険しくなった。

やはり校則違反を咎められるのかな?
私は身構えたが、緑間君はそれ以上は何も言わなかった。

『緑間君は帰らないの?』
「今…帰る」

何となく、私達は一緒に歩き出した。
途中までは帰り道が同じだから、自然と足の向く方向も一緒だ。

下駄箱の前で靴を履き替えていると、赤司君と出くわした。

「苗字」
『赤司君も帰り?』
「ああ。丁度良いな」
『…は?』
「今日は苗字の誕生日だろう? おめでとう」
『…! ありがとうございます?』

赤司君はクスクスと笑い出した。

「何故疑問形なの?」
『…いや、ビックリして…』
「俺は部員達…少なくとも一軍のは皆把握しているよ。
そうだ、苗字さえ良かったら、これから…」

「苗字…?」
「緑間もいたのか」
「赤司…っ!?」

緑間君は不意に私の腕を掴み、強い力で引いた。
私は危うくバランスを崩しかける。

「悪いが急いでいるのだよ。先に行くぞ」
『あっ…!? ちょっと待ってよ!?』

緑間君は速足で私をグイグイと引っ張って行った。
私はまろびそうになりながらも、彼に合わせて必死に足を動かした。

※※※

『どうしたの?』
「予定が無いなら一緒に来い」
『どこへ?』
「行けば分かる」

彼は突然ピタリと足を止め、私を振り返る。
私は止まり切れずに彼にぶつかった。

「…それとも赤司と一緒の方が良かったか?」
『何で赤司君が?』
「いや…苗字さえイヤでなければ良いのだよ」

彼に連れて来られたのは街中にある広い公園だった。
梅雨明けの空に爽やかな青色が広がっている。

「フム、天気は問題ない。太陽の位置も。時間は…そろそろか」

緑間君は私の手を取り、広場の一箇所に誘導する。
そこは円形に石が敷き詰められていた。
私達は円の中央に立った。

あれ…ここってもしかして…?

私が首を傾げていると、周りで水が一斉に吹き上がった。
やっぱりここは床噴水か。でも何故こんな場所に…?

水に辺りを遮られ、私達は水の檻に閉じ込められた。
私は周りを見回し、驚きの声を上げた。

『わぁ…!! 虹…っ!? 綺麗ね!』
「お前は俺に星空をくれた。だから俺はお前に虹をやるのだよ」

赤、黄、緑、青、紫…別れながら溶け合った光の色は、まるで彼等そのもの。
虹色の光に見惚れた私は手を差し伸べた。冷たい飛沫が腕にかかるのも構わずに。

緑間君は私の前に立ち、私を見下ろした。

「苗字、これを。俺から誕生日のプレゼントなのだよ」
『えっ…!? あっ!?』

彼は私にベルベットの小箱を差し出していた。
でもこれって、どう見ても高級そうなジュエリーケースにしか見えないんですけど?

私が戸惑い、手を出しかねてるのを見た彼は、焦れた様にそれを突き出した。

「開けてみろ」
『あの、でも…』

いくら何でも中学生の友人の誕プレにしては、いささか重過ぎるのではないだろうか?

「お前の明日のラッキーアイテムなのだよ」

それは緑間君も同じ筈では、と言いかけたが、彼の真剣な様子に負けて、私は受け取り開けた。
『わあ…!?』

中に入っていたのは、緑色の小さい宝石の付いた銀のネックレスだった。

『…まさかこれ、エメラルド…? にしては少し色が暗い様な』
「グリーンサファイアなのだよ」
『初めて見た。綺麗な緑色のは珍しいんじゃない? サファイアって、赤いのだけはルビーって言うんだってね』
「コランダム、と言う鉱物が1%のクロムを含むとルビーになる。青は鉄とチタン、緑はコバルトによる発色だ」

彼は話しながら私の後ろに回った。
私の手の中の小箱からネックレスを取り出し、私の首に回した。

彼の指が私の髪を払う時、私のうなじに触れた。
私は思わずビクリと身体を揺らしてしまう。

緑間君が私の後ろに立ち、私の首に触れている。
どうしよう? 心臓がドキドキしているのを、彼に気付かれてしまうかもしれない。

「……」

ふと、彼の手の動きが止まった様な気がした。

『…? 緑間君?』
「…っ! じっとしてろ。すぐに済ませる」

彼はネックレスを着けてくれた。
私が彼に向き直り見上げると、彼は眼鏡のブリッジに指をかけたまま、私を見下ろした。

彼が指を外すと、ほんのりと赤く染まった頬が見えた。
そして彼は真面目くさった表情で告げた。

「誕生日おめでとう、苗字」
『ありがとう…! とっても嬉しいよ!』

私は嬉しくて、はにかみながらも周りを一回りステップをした。
いつの間にか、噴水は止んでいた。

「苗字…っ!!」

緑間君が慌てて私を引き戻そうとしたが一歩遅く、私の足元で再び水が吹き上がった―


「バカ者! 何をやっているのだよ!?」
『ごめーん…』
「全く…!! 一つ年を取ったくせに、世話を焼かすのは変わらないのだな!」
『…面目ない』
「今日の蟹座のラッキーアイテムはバスタオルなのだよ」

おは朝恐るべし。

私は近くのベンチに座り、彼にバスタオルで拭かれていた。
そして乾くまでバスタオルで服の上からグルグル巻きにされ、説教され続けてしまった。

成長してないとか何とか。…そうだけど。

私の二度目の14才の誕生日は、そうして終わった。


page / index

|



ALICE+