Next turn
*公式小説・一部ネタバレ注意!
『えー、現地からリポートします。
只今、私達帝光バスケ部一軍は、合宿でハワイに行く為に空港にいます。
青峰君と黄瀬君は、空港の出発ロビーでツーメンした罰として空気椅子させられてます♪』
リポート(?)する私の後ろから、空気椅子させられている黄瀬君と青峰君が喚いた。
「誰にリポートしてるんスかー!?」
「てめ、名前、面白がってんじゃねーよっ!!」
緑間君と紫原君は其々大きなスーツケースとスポーツバッグを別の手荷物として持ち込んでいた。
紫原君のバッグの中身の大部分はおやつ、緑間君の方はラッキーアイテム候補。
どこに行こうとも、彼等は全くブレない。
私は苦笑しながらロビーに隣接した免税店に向かった。
免税店…前世で海外旅行前に、ちょっとだけ覗いた事はあった。
今世ではアメリカに時々行ったりする時に、親に連れられて入ったりする。
今回は頼まれ物があった。
早目に行動しているので、搭乗時間までかなりの待ち時間がある今こそ、買うのに丁度良いタイミングだ。
私はメモを見ながらブランド物の化粧品を置いてある棚の間を歩き、目当てのブラント名を見付けて立ち止まる。
そして一つの香水瓶が入った箱を手に取った。
『ええっと…ああ、あった! これだ』
「苗字?」
『ああ、赤司君も買い物?』
「いや、俺は…」
赤司君が軽く目を瞠って私を見ていた。
こんな免税店に珍しい。高級品でもここは女物が主だ。
確か彼には母親や姉妹はいない筈。
その時、彼の後ろから黒子君と桃井さんが出て来た。
二人共場慣れない様子で、おずおずと辺りを見回していた。
「苗字さん」
『あれ? 黒子とさつきちゃんも一緒?』
「私は母から口紅頼まれて…テツ君と赤司君に付いて来て貰ってるの。
凄いね、名前ちゃん。一人でこんな所に入れるなんて…」
『……へ?』
「だって…ブランド物とかって良く分からないし、免税品店なんて入るの初めてだし」
「…僕もです」
「君も頼まれたのかい?」
赤司君の問いに、私は頷いた。
『ええ。日本未入荷の品がここならあるって母が。ハワイでは時間が取れなさそうだし』
「君は見付けられた様だね」
『アメリカで母が買ってるの見た事あるから。いつもは海外出張に行く父に頼んでいるけどね』
「そうか。お母さんに喜んでもらえるといいね」
『ありがとう。じゃあね!』
赤司君と仲良くなれば間違いなく母は喜ぶがな。
私は赤司君と固まってた黒子君と桃井さんに微笑み、軽く手を振りロビーに戻った。
後で桃井さんと黒子君が、赤司君に私まで加えて、凄い人認定してしまうのを私は知らない。
※※※
ハワイのホテルに着いて、昼食を皆とラウンジで摂った後、私は桃井さんと部屋に戻ろうとしていた。
『やっと少し休めるねー。三時まで自由時間だっけ?』
「ずっと飛行機に乗ってて、空港からすぐに移動したものね」
『けどホテルの外に出てはいけないんでしょ? 出たら罰でバーベキュー無しだって。でも私、肉よりパンケーキ食べに行きたい』
桃井さんはクスクス笑った。
「名前ちゃんも元気だね? 監督にバレたら空気椅子させられるよw」
『それはイヤだw』
エレベーターホールの手前まで来て、私はふと足を止めた。
私は喉の渇きを覚えたが、近くには自販機等は無かった。
ホテルの中に入っているコンビニがあったのを思い出し、桃井さんと別れて買いに戻った。
飲み物を買った後、廊下の窓から何気なく外を見た。
……あれ?
私は目を瞬き擦った。
…あれって…どう見ても青峰君にしか見えないのだけど?
でも監督が外に出たらバーベキュー無しって言ってたしなー…幾ら青峰君でも……
いや、と私は首を振った。
あの青峰君の事だ。
鎖で縛り付けておかない限り、脱走する事なんて…ありえるw
ここはハワイだ。彼の冒険心や好奇心を大人しくさせておける訳が無いのだ。
『…ったく、何であの問題児を放置してるかなー? 緑間君同室じゃなかった?』
先生方に言うより、先ずは部員達で解決した方が良いかもしれない。
私は自室への行先を変更して、緑間君の部屋を訪ねる事にした。
『緑間君ー!』
私は彼等の部屋のドアをノックしたが、応えは無かった。
鍵も勿論かかっている。
『留守かー…参ったな』
このまま放置しても無事に戻って来るなら、事を荒立てない方がいいのかもしれない。
何だかんだ言って青峰君は無茶苦茶やるが、あれで解決能力も高い。
『…別に心配、する事もないかなー?』
「何が、なのだよ?」
『…へ?』
私が慌てて振り向いたら、ザルを抱えた緑間君が立っていた。
そういや今日の蟹座のラッキーアイテムだったな。
「苗字は何を心配しているのだよ?」
『あ、いや…青峰君が』
「青峰が何かしたのか!?」
『したっつーか…あ、したか?』
「どっちなのだよ!?」
緑間君は血相を変えてドアを開けようとしたが、鍵がかかっていたので急いで解錠した。
当然、部屋の中には青峰君はいなかった。
「いない…だと!? 全くアイツはどこに行ったのだよ?」
『じゃ、あれはやっぱり見間違いじゃなかったんだ』
私がぼそりと呟いた声が聞こえたらしい。
緑間君に問い詰められ、私は先程の目撃情報を伝えた。
「外だと…!? どっちに行った!?」
『確か裏口から出て行ったっぽい。その後、その通りを―』
「苗字は部屋に戻れ。俺が連れ戻す」
『見たのは私だから一緒に行くよ。途中までなら行った方向分かるし』
「しかし…」
『ねっ?』
私が踏み出そうとしたら、彼は私の肩を掴んで制した。
「待つのだよ、苗字!」
『緑間君!? 早くしないと…!』
「ラッキーアイテムを持って行け。俺の予備を貸してやる」
そっちかよ。
※※※
緑間君は赤司君に連絡を入れ、私達の外出の許可を取った。
それは兎も角、二人の男女がハワイの街中でザル抱えて歩いている状態って何?
時折すれ違う人達が「Oh! Banboo baskets?」とか言っている…
例えアメリカだろうと、おは朝信者を貫き通す緑間君は徹底している。
『ふむ、ザルはバスケットかー…』
「目の細かい濾器はsieve、穴の開いた野菜用水切りはcolanderだ」
『バスケを和訳すると"ザル"になるんだね』
あ、緑間君のこめかみに怒り筋が入った。
「俺のシュートはザルに入れると言うのか…!」
『ラッキーアイテムと思えばいいじゃん?』
「ふん、それもそうだな。ディフェンスでザルは論外だがな」
ラッキーアイテムは今日限定だけど、いいのかそれで?
しかし底抜けのザルをゴールに取り付けてあると考えると、中々シュールだなバスケって。
私の記憶を頼りに坂を下りたが、青峰君は見付からなかった。
『…青峰君、どこに行ったんだろうね?』
「紫原ならケーキ屋を当たればいいのだがな。青峰の場合は…」
『バスケとバストしか思いつかない…』
「韻を踏んだのか? しかしバスケならこれからイヤと言う程やるのだよ」
『なら残りで決まりだね!』
「残りと言うと…」
彼は真っ赤になって「ふしだらなのだよ!!」と怒り出した。
『でも該当する女性なら、どこにでもいそうだし…』
「……ビーチだ」
『成程、水着の女性か!』
「ハワイに来たからには海で遊ぶなど、奴の考えそうな事なのだよ」
途中から近道で入った小道を抜け、ショートカットで教会の敷地内に入る。
教会の入口は開け放たれ、階段を中心にかなりの人が群がっていた。
その人達が一斉に沸き立つ。
私は思わず足を止めた。
『あれ、結婚式やってるね! 丁度出て来た…!』
「苗字、見てる場合ではないのだよ」
『そうだけど…』
ハワイで結婚式、とは良く聞くけど、本物を見たのは初めてだ。
家族とアメリカには時々行くけど、ハワイはなかった。
緑間君は私の腕を引いたが、私は花嫁のブーケトスに釘付けだった。
花嫁がブーケを後ろ向きに投げ上げた途端、強風が吹き、煽られたブーケが飛ばされた。
『―えっ?』
それは空高く舞い上がり、私の抱えていたザルの中に落ちた。
結婚式の参列者達も唖然とした顔でこちらを見ている。
ど、どーしよう???
私は、おたおたと救いを求めて辺りを見回した。
緑間君も困惑した態で固まっている。
私は慌てて参列者達のそばに走って行き、ブーケを返そうと差し上げた。
その時、花嫁がにこりと微笑んだ。
「 The next is your turn. Cute lovers!」
(次は貴方達ね。可愛い恋人たち!)
それを聞いた参列者達から拍手や口笛が沸き起こる。
私は彼等に丁寧に頭を下げ、謝意を表した。
…結局貰ってしまった。しかも彼とは別に恋人同士でもないのに。
私は困惑して呟いた。
『次だって? まだ早いよ。相手もいないし、結婚出来る法廷年齢にもなっていないのに』
緑間君は眼鏡のブリッジに指をかけ、私の微かな声に応えた。
「確かに。だが約束くらいは出来るだろう」
『…は? 約束って婚約って事?』
緑間君は私に向き直った。
彼の翡翠色の瞳が私を正面から見据える。
途端に空気が緊張を孕み、私は半ば無意識にブーケごとザルを抱え込んだ。
心臓が早鐘を打つ。
「そうだ。―俺は…」
突如、鋭い電子音が彼のポケットから響き、緊張した空気を切り裂いた。
彼は一瞬固まり、渋々ポケットから携帯を取り出した。
「…赤司」
口調にやや苦さを残して呟いた緑間君は、何事も無かったかの様に電話に出た。
その短いやり取りの末に、私は青峰君と黒子君達が無事にホテルに戻った事を知った。
つか、黒子君もいたんだ…? 気が付かなかったw
※※※
「ご苦労だったね、二人共」
赤司君はホテルに戻った私達を出迎えたが、私の持ち物に目を止めた。
「俺は二人が青峰を探しているものとばかり思っていたが…何をしていたのかな?」
『いやこれは…ラッキーアイテムで!』
「苗字、君は緑間と同じ蟹座だろう? 蟹座のラッキーアイテムはザルの筈だ」
…ぐうの音も出ません赤司様…
「赤司、俺達は真面目に探していたのだよ! これは偶々教会を通りがかった時に貰ったのだ」
「偶々貰える様な物には見えないな。苗字、これをどうするつもりだい?」
『…持ち帰るとか…? 駄目、かな?』
赤司君は私のザルからブーケを取り上げた。
「帰国する時に検疫検査が必要になるね。見た所、輸入禁止の花は無いみたいだが。
これから練習で四日後帰国だ。置いとく意味もないだろう。これは俺が預かっておくよ」
『えっ…ちょ』
「赤司!」
「主将の命令だ。先生に見付かりでもしたら、どう言い訳するんだい?」
「……っ!」
…そうだよね。やっぱり無理かぁ。
私は溜息を吐き、肩を落とした。
※※※
合宿最終日、帝光は地元の学校のバスケ部との練習試合等を全て消化し終えた。
今はホテルのBBQエリアを貸し切って、練習した現地生達と和やかにバーベキューを楽しんでいる。
日米の少年達は、肉焼きの鉄板の前で熱き闘いを繰り広げていた。
それを遠巻きに眺めながら、私は何とかゲット出来た野菜を食べている。
そこに緑間君がやって来た。
「苗字、食べてるか?」
『何とかね』
彼は私の皿を見て眉を顰めた。
「野菜しかないではないか。俺のをやるのだよ」
『ありがとう。でも緑間君のが』
「まだ神戸牛があるのだよ」
豪華だなオイ。
「苗字」
私が肉を口に入れた時、赤司君が来た。
『ふが?』
「口に入れたまま話すな! 行儀悪いのだよ!」
「まぁそう怒るな緑間。これを苗字に渡しに来ただけだ」
私は急いで肉を飲み込み、彼から一枚の紙を受け取った。
何やら英語で書いてある。…注文書??
『Ice flower…order form?』
「完成は一か月以上かかるそうだ。送付先は君の住所にしたが問題はないね?」
「…赤司、これは?」
「折角貰ったブーケだ。暑いから生花は、すぐに加工しないと枯れてしまうからね」
ブーケって…まさか。
『…でもこれ、結構高いよね!?』
「既に払ったから問題ない。過ぎてしまったが、俺からの誕生日プレゼントだと思ってくれればいいよ」
紙とバーベキュー皿を持ち固まった私に、赤司君は柔らかく微笑んだ。