戸惑う気持ち
あれから、私は緑間君に対する、自分の気持ちを持て余していた。
雨の中での事件があってから、私は緑間君を意識してしまう。
…これは恋愛感情なのは分かっている。
あの後、電話がかかって来なければ…と。
その後の展開を明らかに期待してしまっている自分がいる。
自惚れだけど…もし、彼にもそう思われていたなら。
凄く恥ずかしいけど、嬉しい。
学校では、彼が見てない時に、こっそり緑間君を見ている。
でも、彼がこちらに目線をくれる時は、恥ずかしくなってしまって、碌に目を合わせられない。
成人としての記憶はあるものの、恋愛経験は片思いを入れてもそんなに多くもないので、経験値としては全然役に立たない。
身体は高校生なのに、頭は成人、しかもちゃんと歳を取る事もなく、若い内にまた赤ん坊からのやり直ししているので、私の歳の意識はキメラみたいに歪になってる。
緑間君は、私の事はどう感じているんだろうか?
あの時は、初めて負けた事にショック受けて、彼は弱っていたんだと思う。
縋る様に、抱きしめられたのも…きっとそれで。
あの堅物、今までにあの外見+バスケ部エースだからモテているし、何度か女の子から告られていたのは知っている。
クラスの中でも、比較的彼等と仲のいい私に、仲介を頼んで来た女子もいる。
けど、私は人様の恋愛事情に踏み込む事は、トラブルしかもたらさないのを、それこそ前世を含めた経験上から思い知っているので、全て丁重にお断りしている。
別に「いい人」だとは思われなくていい。彼女等の「いい人」とは、いわゆる「自分にとって都合のいい人」の事だから。
面倒な人に好かれたくなんてないし。
今私が話せる女子は、割とさっぱりした男前な女子だけだ。
それでも恋話はしても、表面上流しているだけで、行為として踏み込んだりはしない。本心も言わない。
女の子って、自分の恋に関しては、凄く厄介な生き物だから。
緑間君は、実際女の子を振る時は、勉強とバスケ部に専念したい、と言う理由でだと聞いた事がある。
確かに、彼は真面目なキャラだし、勉強とバスケに人事を尽くすなら、恋愛なんて邪魔以外の何物でもない。
しかし…恋の厄介な所は、「堕ちる」所なんだよなぁ。
自分の気持ちをコントロールするのが難しくなる。
私は、今までの関係が心地良いので、出来ればそのままこの気持ちを覚られずに、緑間君と接触出来ればいいと思う。
彼の迷惑になりたくないし、意識が成人の私が、高校生に本気になるとか…どうかと思うし。
それに…私の心の奥には、他人に踏み込まれ、曝け出される事を恐れている部分がある。
本当の自分を知られたくないのだ。
まぁ…緑間君は黒バスの中でも、桃井さんが黒子君の事が好きでアタックしまくりなのに、全然気が付かない超絶レベルの鈍感さを誇るからなぁ。
私の気持ちも、彼に隠すのは、さほど難しくないとは思う。
…周りにいる他のキャラクター達には、もしかして気付かれてしまうかもしれないけどね。
※※※
…何だろう?
私は違和感に首を傾げた。
あの秀徳-誠凛戦の後から、私は何でもない様には振る舞っている。
が、どうも緑間君とは目が合わない…様な気がする。
…もしかして避けられているんだろうか?
雨の中で、彼に抱きしめられた時の事を思い出すと、今でも鼓動が早くなる。
私だって、それを思い出しながら緑間君を正面から見るなんて、恥ずかしくて出来ない。
そう言う私も、こっそり彼に視線を合わせてしまったりするんだが。
本当はずっと見ていたい。
最近では、一見無表情に見える彼も、良く見ると意外にも表情が豊かで、少しの違いが見て取れる様になっていた。
そんな彼を見ているのが、とても楽しい。
不機嫌な表情、嬉しげに口を綻ばせる表情、愁いを帯びた表情、呆れた様な表情、真剣な表情、照れた表情…
もっともっと…緑間君を知りたい。
でも、席の位置上、私は彼の斜め前な訳で、あんまり見てしまうとモロにばれてしまう。
私の隣、緑間君の前の席は、コミュ能力は恐らく黒バスキャラで最高のホークアイの持ち主、相棒の高尾君がいるのだ。
緑間君からの視線を時々感じる。
彼の位置からすると、私の席は斜め前になるから、黒板に目をやれば自然に私の後ろ姿が視界に入る。
だから、それこそなんの不自然もない。…ないのだが、普通は視線そのものは黒板に行って、私は目的物ではない。ただ映るだけ。
授業中に視線を感じるとか、今までにはそんなに無かった。
まして、彼は授業は真面目に受ける男だ。
私の背中には、方程式とか書いてないぞ?
私は不審に思いながら、後を出し抜けに振り返ってみる。
緑間君とモロに視線が絡み合った。
明らかに緑間君は驚いて目を見開いていた。
彼はすぐに私から視線を外し、下を向いてノートを取る。
心なしか耳が赤い。
私は彼を見ながら小首を傾げる。
途端にチョークが前方から飛んで来て、私の側頭部を一撃する。
「苗字!よそ見するな!! そのチョークを持って前に出て、この問題を解きなさい!」
うっ!?しまった!!
てか、緑間君は私を見ても目立たないのに、私が彼を見たら悪目立ちするって不公平だ。
私は、飛び道具にされたチョークを探して目を彷徨わせた。
すると、緑間君の席の下に落ちている。
私は、そのチョークを取ろうと手を伸ばした。
緑間君も屈んでチョークを拾おうとしてくれていた。
私と緑間君との指が触れた。
緑間君は、びくりと指を硬直させ、慌てて引っ込めた。
私はチョークを拾いながらも軽いショックを受けていた。
…そんなに嫌がらなくてもいいじゃん…
指が触れたくらいで。
なら、あの抱きしめたのは一体何だったんだよ?
※※※
『…は〜』
授業が終わった休み時間、私は凹んでいた。
そんな私の肩を高尾君が叩く。
「名前ちゃん、なーに溜息吐いてんだよ!?先生に当てられちゃってたしww」
私は、その原因となった彼の席をチラリと見た。
今は、その彼は出ていて席にはいない。
『ねえ和成君』
「ん?何?」
『最近…真太郎君さ、私の事を避けてない?』
高尾君の目が細められ、気遣わしげな光を帯びた。
『…私…嫌われる様な事したかな?』
「んー…真ちゃんは、そんな感じな事は言ってないけどな」
『そう…思い過ごしなら良いんだけど…何か、目が合う度に視線外されるんだよねー』
高尾君は、私の頭をくしゃりと撫でる。
その優しい手の心地良さに、私は目を細めた。
「大丈夫…真ちゃんは名前ちゃんの事は嫌ってはいないぜ。…むしろ…」
高尾君の手の動きが止まった。
ふと見上げると、緑間君が顔を顰めて無言で、高尾君の手首を掴んでいた。
「真ちゃんお帰りーって。…何で俺の手を掴んでんの?」
「………」
緑間君は高尾君の手を離すと、今度は私の頭を撫でだした。
『!???』
さっきは手が触れて引っ込めたのに、何で今は頭を撫でられているのか…?
私は戸惑って緑間君をぼうっと見つめた。
緑間君は、今度は、少し目を細めて瞳に柔らかな光を湛えている。
「ふーん…」
そんな私達を、高尾君は興味深げに見ていた。