Rhapsody in Green


ノクターンを奏でよう-2-


ともあれ、緑間君と私は、[ノクターンop.9-2]を連弾する事にした。

でも、元々この曲は連弾用ではないから、緑間君が低音パート、私は高音パートだ。
連弾するには、連弾用の長椅子に隣り合って座らなければならない。

私は緊張した。私のすぐ左隣には、緑間君が座っている。身体は触れてはなくても、体温が感じられる距離に、心臓がバクバクする。
「行くぞ。まずはお前のアウフタクト(弱起)からだ」

私は一つ深呼吸して、一音弾く。
すぐに、緑間君の伴奏が寄り添って来る。

私は、高音部を右手で、優美さを意識して歌わせる。
緑間君は、優しく和音を流しながら、柔らかく私を支える。

互いに、外側の手を使わざるを得ないので、どうしても少しだけ斜めに内に向き合う姿勢になる。
私の左肩と緑間君の右腕が触れ合いそうだ。

私は鍵盤に集中した。
互いの手が触れそうで、ぎりぎり触れない。一箇所、少しだけ掠った。
心臓がドクンと脈打つ。

テンポが変わる時には、お互いの眼を見交わす。
音が合わさって、美しい旋律が奏でられる。とても気持ちがいい。
まるで心まで合わさって溶け合ったみたいに。

最後の方になると、また少し緊張する。
緑間君の弾く左のパートをそのまま引き継いで、高音に持って行く。
コーダの右手パートは、そのまま弾いても煌めく様な音が零れる。
最後のピアニッシッシモの和音で優しく音が絡み合う。

『………』
「………」
弾き終わった後、お互いに無言だった。

弾いている時はただ夢中だったけど、今は夢から覚めた心地だ。
私達は互いを見つめ合った。

「…まるで、名前と一心同体になった気分だったのだよ」
『わ…私も。すごく気持ちが良かった』

緑間君は口元を綻ばせた。
「それは良かったのだよ。…続けるか?」

※※※

「…そこのレガートは、もっと滑らかに弾くのだよ」
『えっと…こう?』
「臨時記号が落ちてるぞ。そこはダブルフラットだ」
『逆に白鍵かよ!?ややこしいよ!』

「そこはスラーじゃなくて、タイだから、もっと指を押さえるのだよ」
『押さえながら、この内声部弾くのキツい〜〜〜!』
「運指を変えてみろ」

色々な曲を連弾しているうちにアドバイスされ、緑間君がピアノ講師と化してしまった事はご愛嬌だ。


「名前、手を出してみろ」
『うん』
私の右手と彼の左手を合わせてみる。

…やっぱり。
関節一つ分、私の手が小さい。

「……小さいな。こんな小さな手で良く弾くのだよ」
『指もそんなに長くはないけど、手が真横まで開くからまだ届くよ。おかげでオクターブ+1までギリギリ。真太郎君の指は長くて綺麗でいいなー』
「名前の手も愛らしいのだよ」
『えっ!?』
緑間君がデレた!!??

そして、自然に互いの指を絡ませ合う。
でも…これって。
私はちらりと緑間君を見る。

「…?何なのだよ?」
緑間君は、少し首を傾げて聞いて来る。
その仕草がやけに可愛い。

『いや…まるで恋人繋ぎみたいだなって』
「なっっ!?…こっ…!!!」
緑間君は真っ赤になって、手を引っ込めようとした。
「は、離すのだよ!」
『やだ』
私は、絡ませた指に力を込めた。

『………』
私は俯いた。
「名前…?」
『真太郎君、最近私を避けているでしょ?』
「そ、それは…」
緑間君はあからさまに目を泳がせた。

『私が何かしたなら、そう言って。もし私が謝っても取り返しのつかない事したなら、絶交してくれてもいい。でも、そうでないなら』
自分で言ってるうちに、涙が溢れてきた。
緑間君は、そっと右手の指先で私の涙を拭う。
「名前…泣くな。名前と絶交なんて、出来る筈がないのだよ」

緑間君は、椅子に座ったまま、私を引き寄せた。
そして、私は彼の胸に頭を寄せて、静かに涙を流した。
緑間君は、私が落ち着くまで、私の頭を宥める様に優しく撫でた。

まるで立場が逆転した、あの雨の日の様に。

「…名前、悪かった。もう二度と…避けないから赦せ」
『じゃあ、元の通りに…友達でいてくれる?』
「やっと笑ったな。元の通りかは分からんが、友達…に戻るのだよ。…よろしく、なのだよ」
緑間君は、柔らかな笑みを浮かべ、私と握手した。
『ありがとう!…これからもよろしくね。真太郎君!』

今までの様に、普通に話せる間柄に戻れることが嬉しくて、私は頬を緩めた。

※※※

-場所変わって教室-

『…ん?これは何?』
「次は黒鍵のエチュードやるから、譜読みしておくのだよ」
『鬼っっ!?緑鬼だよ、アンタ!!!』
「緑鬼とは何だ!!? [ラ・カンパネラ](リスト)に比べれば、易しい曲なのだよ」
『なんで、難曲中の難曲と比べるんだ!?手の小さい私を殺す気か!?』

「これの連弾も、お前が右だ」
『なっ…!?この曲って、右手の黒鍵高速三連符の練習曲じゃん!!…もーやだ、この人…』
「俺が練習を見るからには、中途半端は許さん。人事を尽くすのだよ」

高尾君が、そんな私達のやり取りを横目に見ている。
「ははっw真ちゃんと名前ちゃん、何だかんだ言って、前よりも仲良くなってね?」


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