もう一つの対決
「で、どースか試合は?」
「……どうもこうもない。話にならないのだよ。青峰がいない様だが、それでも付いて行くのでやっとだ」
試合では、黒子君と火神君の連携で、点が入った。
「まぁ今、あの二人が決めたじゃないスか。これからっスよ」
「忘れたのか黄瀬。桐皇には桃井もいるのだよ」
「!」
黄瀬君の表情が、真剣なものに変わった。
「あいつはただのマネージャーじゃないだろう。中学時代、何度も助けられたのだよ…つまり逆に、敵になるとこの上なくやっかいだ」
「桃っちスか……そーいや、青峰っちと幼馴染だったっスね…って…ん?
あの子確か、黒子っちの事好きじゃなかったスか? むしろ本気なんて出せねーんじゃ…」
「そうだったのか?」
緑間君が素で返す。
「『はぁ!?』」
あまりの天然な発言に、私と黄瀬君はハモってしまった。
「気付いてなかったんスか!?バレバレっつーか、むしろ毎日アタックしまくりだったじゃないスか!!
あれ見て気付かないとか…猿スか!!!」
「なにィ!!猿とは何なのだよ!!猿とは!!!」
『…私も、桃井さんから相談受けたんで知ってるよ。バレンタインで、テツ君に手作りのチョコレートあげたいって言って…て…』
私の何気ない発言に、二人は固まった。
二人して引きつった顔を向けてくる。
『あれ?どしたの?』
緑間君が言い難そうに、それでも確認してくる。
「…それで、そのチョコレートの出来はどうだったのだよ?」
「それ、俺も聞きたいっス」
「いやいや…まぁ大変だったよ?チョコレートって、ただでさえ扱いが難しくて初心者向けじゃないんだけど…
それでも、比較的作り易いブラウニーを勧めてね。…でもあの人、目を離すと、すぐにプロテインとかニンニク卵黄とかヨーグルトとか…他にも色々と謎な物を入れようとするし。
材料は量りにかけない目分量、バターは塊のまま、卵は冷たいまま一気に投入して…分離させるし。…それでも何とか作ったけどねー…黒子君、無事だった?」
「……初めて黒子に同情したのだよ」
「黒子っち…大変だったっスね…」
二人の男子達は涙した。
…一応、目に付いた暴挙は止めた筈なんだけどなー
……やっぱり黒子君に渡すまで、見張っていた方が良かったのかな…??
「それにしても…秀徳-誠凛戦の後のお好み焼き屋でも思ったんスけど、二人は仲良いっスよね?
緑間っちも、クラブ断ってデートとは、隅に置けないっス」
「デートではないのだよ!!!」
『…そうそう。偶然に途中で会ってね…』って。
待てよ?…本当に偶然なの?
私が途中で言い淀んで首を傾げた。
「グラサンを二つ用意してある時点で、偶然とか説得力ないっス!」
そう言えば。
このラッキーアイテムも、途中で会った時にくれたのだった。
『えーと…じゃ、このラッキーアイテムは…?』
「そっ…それは、二つ目は予備で持って来ているのだよ!!!サングラスもなのだよ!!」
「ラッキーアイテムまで二つ用意したんスか?…IH予選の時は、彼女に信楽焼きの狸もあげていたっスよね?」
「だから、全部予備だと言っとるだろうが!!今回は、偶然こいつが道に迷っていたのを見付けたから、連れて来ただけなのだよ!」
ズキン
『そっか…そうだよね。…ゴメンね?変な事言っちゃって』
私が方向音痴なの聞いていたから、連れて来てくれただけ…
そう。彼はただ親切に世話してくれただけなんだから、勘違いをしちゃいけない。
でも何だろう?
この…寂しい様な切ない様な…胸の痛みは?
私は試合に視線を戻した。
だって、そのままだと泣きそうな顔を見られてしまうから。
ふわり。
『え…?』
全身を後ろから優しく包み込まれた。
『黄瀬君…?』
えっ!?何?どうしたの?
黄瀬君は後ろから私を抱きしめていた。
「黄瀬!何をやっているのだよ!?」
「緑間っちが名前ちゃんを何とも思ってないなら、俺が名前ちゃんを貰うっス!」
『え?…えええええええーーーーーっっっっ!!!!????』
貰うって何!?私は犬猫か!?
黄瀬君は、更に私の向きを変えて、前からぎゅっと強く抱きしめた。
「ん…?待てよ、この感触…どこかで…?」
黄瀬君は、何か小声でぶつぶつと呟いている。
『なっ、何?』
私は頭が真っ白になった。
黄瀬君は友人として普通に好きなだけだが、公式イケメンの彼に抱きしめられたら、私だって赤面する。
彼は少し腕を緩めて、真剣な顔をして、私の顔を覗き込んだ。
「…名前ちゃん。俺…以前、君をこうして抱きしめた様な記憶があるんスけど…」
『えっ!?』
実はある。
でも、彼はそれが私だと気が付いてはいない。
「黄瀬、今は試合中だ。いい加減に名前を離すのだよ!」
痺れを切らせた緑間君は、私を黄瀬君から離し、自分の方へと引き寄せた。
「あっ!!緑間っち!!ずるいっスよ!名前ちゃんを返すっス!」
緑間君は、私の肩を後ろから抱え込むように抱いていた。
「返すも何も、元々お前のものではないのだよ」
「だからって、緑間っちのものでもないっス!」
『あ!大輝君!!?』
私は誠凛ベンチを指さした。
「なにっ!?」
「青峰っち、出て来たっスか!?つか、名前ちゃんは何故、青峰っちを名前で呼んでいるんスか?」
『え…?この前、知り合って…友達になったから』
黄瀬君は、なにやら複雑な表情をしている。
緑間君は、苦虫を噛み潰した様な、渋い表情をしている。
青峰君は火神君の肩を組んで、何やら話しかけている。不穏な雰囲気だ。
火神君は青峰君を振り払った。
二人は、私を挿んで大騒ぎしながら試合を観ていた。
…何だか、目立つイケメン二人が騒いでいるので、周りの注意を引いてしまっている様な気がする…
しかも、黄瀬君はモデルで有名人だし、緑間君だって目立つ上に、高校バスケ界では有名人だ。
誠凛vs桐皇戦は、途中で火神君が交替して、55-112で桐皇の圧勝に終わった。
『確か…足を痛めたんだよなー』
「こんな試合を最後まで観るなんて、俺もどうかしてるのだよ。じゃあな黄瀬」
「早っス!」
緑間君は、私の腕を引いて、出て行こうとした。
「ちょっとはショックとかないんスかー?この結果に」
「俺の心配をするぐらいなら、黒子の心配をした方がいいのだよ」
「え?」
「スコア以上に…青峰に黒子のバスケは全く通用しなかった。精神的にも相当なダメージだろう
しかも誠凛はまだ若いチームだ。この修正を一晩でするのは、容易ではないのだよ。残り2試合に影響がなければいいがな」
「緑間っち…待ってっス!」
「黄瀬涼太っ!!!」
「は!?…どうしたんスか? いきなり大声で、人の名前を呼ん…で…?」
周りの観客(主に女性)が集まって来た。
「えっ?黄瀬涼太?…って、まさか…」
「キセリョ!?キャー♪来てたの!?」
「サインちょーだい!」
「握手してー!!」「ハグしてぇ〜!!!」
「えっ…ああっっ!!待ってっス!緑間っち!名前ちゃん連れて二人だけで行くなんて、ずるいっス〜!!!」
黄瀬君は、あっという間に女性達の大群に囲まれて見えなくなった。
緑間君…これ、確信犯だよね?
※※※
次の日
-緑間side-
「しーんちゃん!!」
朝練で会った時、高尾がやけにニヤニヤしていた。
「何なのだよ高尾!? いつも以上に、にやけて気持ち悪いのだよ!」
「ひっでーなwww昨日、何で来なかったんだよ?つれねーじゃんw」
「単に行きたくなかったのだよ」
「へっえー!?俺達とじゃイヤで、名前ちゃんとなら良いんだーwww?」
「なっ!?」
何でバレているのだよ!?変装までしたと言うのに…!!!
「結局観に行ってたんじゃねーか、決勝リーグ!! 何が"見たくないのだよ"だよ!!」
高尾は大声で笑い転げてる。
「…っ!家が近かっただけなのだよ!」
「遠いだろ!てか逆だろ。知ってんぞ!」
「何故気付いたのだよ…?」
「あれだけ黄瀬と名前ちゃんとで大騒ぎしてりゃ、イヤでも目に付くっつーのwww先輩達、呆れ返ってたぞ?
…で、どうだったの?名前ちゃんとのデ・エ・ト・は?」
「デートなどではないのだよ!…あいつが会場の近くで迷っていたから、たまたま会って連れて行っただけなのだよ!」
「たまたま…ねぇ? まぁ、黄瀬が思いっきり邪魔していたから、確かに水入らずのデートとは言えなかったかもなー」
宮地先輩が来た。
「緑間〜!俺達差し置いて、女と観に行くたぁいい度胸してんじゃねーか…?轢くぞ!?」
「…彼女とは、たまたま出会って…成り行き上、道案内しただけです」
でも、実は放っておけなかったのだよ。
だから、高尾には断りのメールを入れて、学校を出た彼女の後を付いて行った。
駅までは良かったのだが、やはり迷い出したから、偶然会った振りして、名前を連れて行ったのだよ。
しかし、黄瀬と一緒になるとは誤算だった。
黄瀬が名前を抱きしめた時、俺は心臓が絞めつけられた様に痛くなったのだよ。
名前が、他の男の腕の中にいるのを見るのは、我慢がならなかった…
(そっか…そうだよね。…ゴメンね?変な事言っちゃって)
彼女の姿がフラッシュバックする。
あの時…名前は微笑っていたけど…一瞬泣いているみたいに見えた。
俺は、拳を握りこんで、固く瞳を閉じた。
本当は…俺が抱き締めたかったのだよ。…黄瀬の様に。
俺は、頭の中の幻影を振り払うと、再び練習に没頭し始めた。