Rhapsody in Green


隠されたラッキーアイテム


-緑間side-

俺は、今日のおは朝の占いを聞いて、肩を落とした。

[…〜残念!!今日の12位は蟹座!…大切な人と喧嘩しちゃうかも?相手の気持ちも尊重してあげてね!!ラッキーアイテムは、水に浮く玩具!!]

でも、ラッキーアイテムは抜かりない。
水に浮く玩具は、アヒルの玩具があるのだよ。
これで最悪の運命も、少しは補正される筈。

※※※

そんな俺を突き落す事態が起こった。
「ラッキーアイテムが…無い!!?」
確かに、この自分の机の上に置いておいた筈だ。
先生に頼まれて、両手を使う荷物を運ぶ為に、ちょっとの間だけ置いておいたのが無くなっている。
影も形もない。

「…どこへ行った!?」
机の中も周辺も見付からない。
高尾も名前も周辺を探したり、人に聞いたりしてくれてはいるが、ラッキーアイテムの行方は分からなかった。

ちらっと高尾と名前の会話が漏れ聞こえた。
「…真ちゃん、一年でエースだからな。三年でもベンチにすら入れない奴等もいる。妬まれているから…嫌がらせかもな?」

妬まれているのは知っている。
強豪の秀徳高校に推薦入学したキセキの世代のエース。
でも、俺はその重圧と周囲の期待に潰されぬように、人事を尽くしてきたのだよ。
…それでも、誠凛高校には負けてしまった。

俺に聞こえる様に、嫌味を言って来る奴もいるが、そんな事してもバスケが上手くなる訳でもなく、レギュラーの座を勝ち取れる実力も得られない。
俺は雑音は聞き流し、ひたすら雪辱を晴らす為に、練習に打ち込んでいるだけだ。
妬みなんぞ、くだらない。

そんな俺の態度を気に食わないと言っている奴等なんか、ごまんといる。
犯人がいたとして、特定するのは困難だった。

※※※

-放課後-

俺は監督に頼んで、我儘一日分を使い切り、名前と手分けして学校中を探していたが、まだ見付かっていない。

俺だって、練習に出たい。
しかし、普通の時ならいざ知らず、最悪の時にラッキーアイテムの補正が無いと、俺の場合はとんでもない事になる事もある。

困惑する俺に、名前は『後は私が探しておくよ。真太郎君は部活に戻って?』と優しく言ってくれた。
名前の気遣いはとても有難いが…
もし、俺に悪意のある者の仕業だとしたら、彼女にも危険が及ぶかもしれない。
自分と同じく、最悪の運勢の名前を一人残して行くのは躊躇われた。

俺は結局、名前の好意に甘える事にした。
でもあと10分だけ、探してみる事にする。

校舎を周っていた俺は、校庭裏を探索していた名前からメールで連絡が入ったのに気付いた。
「プールだと!?」
やはり誰かの嫌がらせなのか!

俺はプールに急いだ。

※※※

そして、プールの真ん中で、服を脱いで入っている名前を目撃した。
名前は、アイテムを掴むと水に沈んだ。
水面に泡が広がる。

「名前!!!」
俺は心臓を冷たい手で鷲掴みされた様な気がした。
やはり今日は、蟹座には厄日なのだよ!
頼むのではなかった。
そんな後悔に苛まされながら、俺は携帯をベンチに放り出し、そのままプールに飛び込んだ。

彼女を救出して抱き上げる。
彼女は溺れかけていても、アイテムは離さなかった。
「名前、大丈夫か?」
『足攣った…痛い』
彼女は、痛そうに顔を顰めながら、腰に巻いたタオルを押さえていた。

裸ではないだけマシだが、水着の代わりにしては、頼りない事この上ない。
男には目の毒だ。
俺以外の目撃者がいなかった事だけは救いだ。
だが、万が一他の男に見られていたなら、どうするつもりだったのだよ?

そう考えると、腹が立ってきた。
俺は彼女をプールの縁に引き上げて、持ち込んだバスタオルをかけた。

「お前は何て無茶をしているのだよ!?」
つい、苛立ちを声に表わしてしまった。

『真太郎…せっかくアイテムを見付けたのに、そんなに怒る事ないじゃないの!』
「水着も無いのに、そんな恰好で!…誰か他の男に見付かったら、どうするつもりだったのだよ!?」
『だから念の為に、タオル巻いてるし』
「こんなのはすぐに解けるのだよ!」
『しっかり結んだから、大丈夫だって!』

彼女は挑戦的に胸を反らせた。
全くもって男って奴を分かっていない。
俺は腹立ちまぎれに、タオルでぐるぐる巻きにした。
こんな姿を他の奴等に見せてたまるものか!

しかし、足を攣ったと言うのは、引っかかる。
「準備運動はちゃんとしたのか?」
『うっっ!!』

この反応は…していないな。
「そんなだから足を攣るのだよ。俺が来なかったら、どうするつもりだったのだよ!?」

彼女は一言も反論しない。
「お前はそんな無茶をせずに、俺に場所を教えてくれるだけで良かったのだよ…」
俺はため息を吐いた。

しかし、本当はこんな説教なんぞするつもりはなかった。
俺の為に動いてくれたのは純粋に嬉しい。
でも、危険まで冒させるのは辛かった。

※※※

彼女をシャワー室に送った後、俺の脳裏からは、さっきの俯いた名前の表情が焼き付いていた。

[大切な人と喧嘩しちゃうかも?相手の気持ちも尊重してあげてね!!]
おは朝の占いを思い出す。

そうだ…彼女が戻って来たら、ちゃんと話そう。

そして、名前が出て来るのを待った。
しかし…遅いのだよ。

シャワーにしては、時間が経ちすぎている様に思える。
もしかして…
倒れたりしていないだろうか?

そう考え出すと、居ても立ってもいられなくなった。
しかし、シャワーを浴びているなら、名前は裸になっている筈で。
緊急事態だが、そこは男が気遣ってやるべきだろう。

俺はバスタオルを持ち、眼鏡を外した。
そして、外から彼女に声をかける。

「名前!!どうした?大丈夫か!?」

耳を澄ますが、微かな声がシャワーの音にかき消されていて聞こえない。
普段は、そんな小声で話す奴なんかではない。
俺は焦った。

「名前!!開けるぞ!」
俺は、シャワー室の扉を開けて、飛び込んだ。

湯気と、眼鏡をしてない事で、俺の視界はぼやけている。
それでも、彼女が立ってシャワーを浴びていたのは確認出来た。

彼女の姿は肌色の塊にしか見えない。
それでも、俺は全身の血が熱く沸騰し、逆流したように思えた。

俺は、彼女をバスタオルで包み込み、後ろから抱きしめた。
濡れた小さな身体は、俺の腕の中にすっぽりと納まった。

…泣いて…いたのか…

俺の腕には、シャワー以外の雫が零れて伝い落ちた。

「…俺のラッキーアイテムの為に、お前に何かあってはならないのだよ…」
『…ごめんなさい』
彼女はぽろぽろと涙を零していた。

「…名前が無事で良かったのだよ…」
俺は腕に力と愛おしさを込めて、更に強く抱きしめた。

俺は声なき声で彼女に囁いた。
(…ずっと、このまま…名前を…俺の腕の中に閉じ込めておきたいのだよ…)

彼女は一瞬、びくりと身体を震わせた。

しかし勿論、彼女には聞こえてはいない。
俺は、自身の3Pシュートの様に、遠くからでも彼女を射抜ける自信はない。
今はまだ。

「…名前」
俺は囁いて、彼女の首筋に顔を埋めた。
微かに甘い、良い匂いがする。

彼女は後ろを向いて、濡れた瞳で俺を見つめた。

お互いに引き寄せられる様に、顔を近付けた。
俺と名前の唇を隔てるのは、たった1cmの距離。

名前は自然に目を閉じていた。
俺も、甘い誘惑に身を委ねようとした。

まさにその時。

「真ちゃんっっ!!!??」
けたたましい音を響かせて、シャワー室の扉が開かれた。
この声の主が誰なのかは、見えていなくてもすぐに分かった。

「…何なのだよ、高尾」
邪魔された苛立ちで、声がつい尖ってしまう。

「何なのだよ、じゃねーよ!プールで見付かったっつーメール寄越してから、どんだけ時間が経ったと思っているのさ!?
携帯鳴らしても全然出ねーしさ、探しちゃったよ!何で女子シャワー室にいるのさ!?誰もいないからいいけど!!」

女子シャワー室にいる事については、今、俺の後ろの存在を気付かれる訳にはいかないから、答えようがない。
「……携帯持って、シャワー室の中に入る訳にはいかないだろう」
微妙にはぐらかした。

幸いにも高尾は、それ以上追及して来なかった。
「ったく…先輩達が、轢くだのうるせーから、早く行こうぜ?ラッキーアイテム見付かったんだろ?」
「…ああ…急ぐのだよ」
と言いつつ、やや強引に高尾を押し出した。
「ったく…誰のせいだよwww」

良かった。
高尾に彼女の存在を気付かれないで済んだ。
この俺の相棒は、[鷹の目]等と言う特技があるから、油断は出来ないのだが。

俺は練習に集中しながらも、結果的に放置してしまった名前の事が頭を離れずにいた。

あの後、無事に帰れただろうか?
俺は、帰宅後に彼女に電話をする事にした。

※※※

携帯をコールしている時は、やけに長く感じた。
彼女の柔らかな声を聞いた時は、ひどく安心した。
「名前か。無事に帰れたのだな?」
《…うん》

「あの状態の、お前を置いて出て行って、すまなかったのだよ。
…高尾に、あの時のお前を見せたくなかったのだよ。」

そう、あの時の名前は、可憐でありながら危うい色気を醸し出していた。
俺ですら…危うく理性が飛びそうになったのだよ。
思い出すだけで、全身が熱くなってくる。

《ううん。気にしないで。…こちらこそ、反って手間かけさせちゃって、ごめんね?》
彼女の優しい言葉に安心する。
やはり電話をかけて良かったのだよ。

「最悪の今日が無事に済んだのは、ラッキーアイテムを見付けてくれたお前のお陰なのだよ…ありがとう。」

そう。きっと名前となら、どんな最悪の運勢も乗り越えられる。そう確信出来るのだよ。

それが証拠に、蟹座最下位の今日だって、今はこんなにも幸せな気分なのだから。


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