桃井の頼み
秀徳高校の一学期の期末試験は、7月の頭にある。
試験の一週間前からは、部活は休み。
私は、試験明けの緑間君の誕生日プレゼントの候補を物色しに、大手のスポーツ用品の専門店に行った。
勉強は、一応普段からきっちりしているので、大丈夫だと思う…多分。。
『何がいいかなー♪』
バスケのコーナーを色々と見ていたら、後ろから声をかけられた。
「苗字さん!?」
振り向いたら、桃井さんがいた。
『ああ、こんにちは。桃井さん』
「苗字さんもバスケやるの?」
『いや…そう言うんじゃないんだけど…』
私は何となく言葉を濁す。
「そう言えばあの時、大ちゃんに引っ張って行かれてたけど、大丈夫だった?」
はは…実はあまり大丈夫じゃなかったりしたんだな、これがwww
『ああ…まぁね。不良に捕まってたら、助けてくれたから…』
「何か、火神君といた時に、無理矢理引っ張って行ったみたいじゃない?ゴメンね!?」
『桃井さんが謝る事じゃないよー』
「だって…私、止められなかったから…」
『気に病まなくても、無事に済んだから大丈夫だよ?』
「…苗字さんは優しいよね」
はい?
「帝光中の時、皆みたいに私の悪口言わなかったし、調理実習の時も、嫌な顔しないで、色々と細かく教えてくれたし…」
『私、集団で一人苛めたりとか、他人の悪口言うの嫌いだし。調理実習の時は、たまたま班が同じだったでしょ?』
「赤司君も、いつも苗字さんを褒めていたんだよ」
…は? 今何つった?
「苗字さんの描いた絵が展示されてて、とても素敵だったんだって! 成績もいつも良かったし…赤司君とミドリンに超注目されていたんだよ!!」
ちょ、マジでか!?
地味に過ごして来たつもりだった中学時代の記憶を、軽く粉砕してくれた衝撃の発言の数々に、私はよろけそうになった。
桃井さんが、そうとは知らずに軽く追い打ちをかける。
「赤司君も、苗字さんにも、バスケ部のマネになって欲しいって言っていたし」
…そ、そう言えば…赤司君から、バスケ部マネの勧誘を受けた記憶が……あった…ような…
無かった事にして、記憶の彼方に封印しておいたはずなんだけど。
帝光の男子バスケ部マネージャーは、とにかく女子に人気が高く、中でも一軍のマネージャーなんて、そう簡単にはなれない。
その中でも、この桃井さんは、一年から一軍のマネになれたので、女子からのやっかみが半端なかった。
一軍のメンバー(特にスタメン)は、どこのアイドルユニットだよ、と言いたくなるようなイケメン揃いだったから。
まあ…言い方を変えれば、イケメン目当てがバレバレな女子ばかりなら、それを遠ざけた結果そうなっただけなんだろうけど。
特に二年から黄瀬君が入ってからは、その傾向が顕著だった。
「成績…凄く良かったよね。今は秀徳に行ってるんでしょ?ミドリンと同じ学校だよね…」
何だろう…そこはかとなく嫌な予感がする。
桃井さんは、がしっっ!!と、私の両手を掴んだ。
「お願いっっ!!!苗字さん、大ちゃんに勉強教えてっっ!!」
『えっっ!?』
…何やら必死なんですけど、どうしたんだろう?
「大ちゃんね、スポーツ推薦で桐皇行ったけど、あまり授業に出なくて…練習は出なくても勝てるから、大目に見られている。
でも一科目でも赤点取ったら、補習を受けなければならないんだけど、試合の日程と被っちゃってて…
キャプテンからも、何とかしろって言われているんだけど…」
私は首を傾げる。
『…桐皇でも、勉強教えられる人くらいいるでしょ?』
「大ちゃんに言う事聞かせられる人がいないの!」
私は苦笑する。『そりゃ〜、私にも無理だよ』
「無理じゃないよ!!大ちゃん、苗字さんのこと、好きだもん!」
『ちょっと、何でそんな事っっ!?』
「知ってるよ!大ちゃんは隠してないもん! 秀徳の苗字さんが好きだって、告られる度に断っているもん!」
恐ろしい言葉に、私は顔が引きつった。
…桐皇で知らずに私は有名人になってる気がする…つか、私を断るダシに使うな!
桃井さんは、涙目で私を見つめる。
…美少女の涙って、こんなに破壊力があったんだ…!?
「お願いっっ!!!私に出来る事なら、何でもお礼はするからっっ!!!」
桃井さんは、両手を打ち合わせて拝む様に頭を下げた。
スポーツ用品店の中、途方に暮れる私と、涙目で頭を下げる美少女は、店内にいる客(特に男性w)からの注目を浴びてしまっている。
…ははは。これで断ったりしたら、間違いなく私は鬼・悪魔・人でなし決定だなwww
そんな無言の視線にも押されて、仕方なく私は頷いた。
『…分かった。勉強教えに行くよ』
「ありがとうっっ!!!お願いしますっっ!!!」
桃井さんは、私の両手を掴んで、頭を下げた。
周りからは、拍手してる音まで聞こえる。
ったく、どいつもこいつも、美少女には弱いんだから!!
私は、桃井さんと連絡先を交換した。
※※※
-翌日・秀徳高校-
教室・休み時間
私は、読書中の緑間君に声をかける。
『真太郎君、…帝光の時の青峰君の成績って、どんなだった?』
「何だ?名前、いきなり……青峰の成績は、酷いものだったのだよ。バスケ以外の事には、全く興味が無かったみたいでな。
…青峰がどうかしたのか?」
『…それがさ、昨日桃井さんと偶然会ったんだけど、どうしてもって頼まれて…明日の放課後、青峰君に試験勉強教えに桐皇に行く事になったんだよね』
緑間君は、顔を顰めて眼鏡を押し上げた。
「感心しないのだよ…先日の事もあるし、止めておいた方が、お前の身の為なのだよ」
高尾君も割り込んで来た。
「そーだよ、青峰の所になんて! 赤ずきんちゃんを狼の前に放り出す様なもんだよ!」
『人前で泣かれたら、断れないよ…』
「…そう…だな…」
緑間君は思案している。
「なら、俺も一緒に行くのだよ」
『えっ!?行くの!?』
「…仕方なかろう。名前が桃井の頼みを断れないなら、せめて一人ではなくて、青峰を押さえられる奴と一緒に行くべきなのだよ」
「面白そうwww ねーねー真ちゃん!俺も行っていい?」
「遊びじゃないのだよ、高尾。…だが来たいなら、好きにするのだよ」
『…ありがとう、二人とも!』
相談して、良かった…かな?
私は、桃井さんに連絡を取り、二人の同行を知らせた。
すぐに了解の返信が来た。