火と黒の挿話
今日は試験の最終日。
試験が午前中に終わったら、今日は授業も部活もないので、早く帰れる。
早速、以前行ったスポーツ用品店に、目を付けていた緑間君への誕生日プレゼントを買いに行く。
そこには、目立つ赤っぽい髪の大男がいた。
火神君だ。
「…こんにちは、苗字さん」
不意に近くから声をかけられて吃驚する。
『わっ!?黒子君!?』
そうだった。火神君の傍には、高確率で黒子君がいるのを忘れていた。
「…すみません。驚かせてしまいましたね」
火神君も寄って来た。
「おう、苗字、あの時はすまなかったな』
「そう言えば、あの後青峰君とは大丈夫でした?」
『…あ〜…あまり大丈夫では無かったみたいなんだけど…』
「…!?どうした?あのヤローに何かされたのか?」
されたと言うか…
『偶然会った桃井さんに頼まれて、桐皇で勉強会する事になってね』
「勉強会ですか!?」
『緑間君も一緒にね』
黒子君は思案顔で、火神君を見上げる。
「…火神君も行けば良かったですね」
「何でだよ!?」
火神君は超絶イヤそうに返す。
『…いやぁ…火神君まで来たら、更にカオスだよーw』
私は、かいつまんで勉強会の事を話した。
「…確かにそれは…収拾がつかなくなりそうですね」
黒子君は首肯する。
私は軽い気持ちで、『火神君達は、試験とか終わったの?』と、聞いたら…
あれ…?二人とも押し黙っちゃったよ?
「ああ…俺、英語以外はからきしでよ…」
「帰国子女ですけど、英語もいまいちでしたよね」
「うるせーよ!!黒子っっ!!!日本の英語は細かすぎるんだよ!!」
黒子君は、私に向き直った。
「緑間君にお礼を伝えておいてください」
…は…?
何でそこで緑間君が出て来る?
「僕が帝光中の時に緑間君から貰った、緑間君特製の湯島天神コロコロ鉛筆が、火神君を赤点から救いました」
緑間君特製のコロコロ鉛筆??
「これです。湯島天神の鉛筆に、緑間君が細工をしました」
見せてもらった鉛筆には、端に一面毎に番号が振ってある。
「…俺、テスト全然分からなくて…やけになって、それを延々と転がしていたら…苦手な国語が98点取れて…
上位から3/1内になったんだが。マジ緑間って…何者なんだ?」
いやぁ…私にそれを聞かれましても。
それが本当なら、マジで凄いな。超能力者か。
『うん。明日学校で会うと思うから、黒子君の伝言を伝えておくね』
「ありがとうございます、苗字さん」
「…そー言えば、お前もバスケするの?」
『んにゃ?何で?』
「いや…俺はバッシュで、黒子は練習用のボール買いに来たんだけどさ、運動しなさそうなお前が来るなんて意外だったから」
『そうかな?』
と、言いながら、素知らぬふりして、私はTシャツを物色している。
「そのTシャツ、お前にはサイズ、デカ過ぎだろ?」
「火神君…察してあげてください。…緑間君の誕生日が近いのですよ」
黒子君は察し過ぎだろ。
図星を指されて、私は頬に熱が集まって来るのを感じた。
きっと、今の私は、顔が赤くなっているだろう。
『…彼には、いつもお世話になっているからね。たまにはお返しくらいしないと』
私は少し、はにかみながら微笑んだ。
緑間君のことを考えると、ドキドキしてしまう。
プレゼントを選んでいるだけなのに、甘く蕩けそうな…幸せな気持ちになる。
そんな私を火神君はじっと見ている。
…あまり見られると、恥ずかしいんですけど。
『どうしたの?火神君』
その視線にいたたまれなくなった私は、火神君に聞いてみた。
彼を見た私はぎょっとする。
何で火神君まで赤面しているのさ!?
「……何でもねーよ!」
火神君はそっぽを向いた。
耳まで赤いし。
「…火神君」
「何だよ!?黒子!」
「緑間君は強敵ですよ?」
「わーってるよ!! 次のWCも絶対負けねえ!!!」
「火神君は全然分かってないですよ…そう言う意味じゃないです」
「じゃあ、どう言う意味だよ!?」
「…自分で察してください」
「何だ?そりゃ?」
「…自覚なしですか…?ただでさえ、火神君はデリカシーが無いのに…前途多難ですね」
顔が赤い火神君に、ため息を吐く黒子君。
よく分からない会話に、私は首を傾げた。
※※※
火神side
スポーツ用品店で、バッシュを見ていたら、黒子が女子に話しかけていた。
…あいつ。苗字じゃねーか。
青峰と1on1やった時の事を思い出す。
…桐皇とやった時も、全然歯が立たなかった。
苗字が無理矢理青峰に連れて行かれた後、あいつの身を案じた俺は、すぐに黒子に連絡した。
その後、あいつと青峰との顛末を知らされた時は…本当に驚いた。
でも、無事で良かった。
俺は、二人に歩み寄った。
苗字の話によると、桐皇で勉強会をやったらしい。
緑間も一緒かよ!?
…何だか…想像するに、凄そうな面子だな…
黒子は、俺も行けば良かった等と言ってるが、俺は絶対にイヤだからな!!!
彼女は、Tシャツを物色しているが…俺にはどうにも違和感が拭えなかった。
ああ、そうだ。
彼女の身体は女性用のS…大きくても、女性用のMサイズで十分入る筈だ。
それなのに、彼女が手にしているのは、どう見ても男性用のLLサイズ…大き過ぎるんだ。
「そのTシャツ…お前にはサイズ、デカ過ぎだろ?」
と、さっきからの疑問をぶつけてみると、黒子に言われた。
「火神君…察してあげてください。…緑間君の誕生日が近いのですよ」
緑間…!?
その名前を聞いたら、俺の心臓はちくりと痛みを感じた。
ああそうだ。ヤツは気に食わねえ。
試合では俺達が勝った。ヤツの方はもっと、俺の事が気に食わないだろう。
偉そうで、でもやはり強くて。
強敵と戦うのはわくわくする。
ヤツは紛れもない強敵だ。
…でも、気に食わないのは、そんな事じゃなくて。
なんかモヤモヤするんだ。
目の前で、ほんのり頬を染めている苗字が、『…彼にはいつもお世話になっているからね。少しはお返ししないと』
そんな事を言って、はにかみながらTシャツを選んでいるその横顔が。
ドキッとした。
なんか…とても可愛い…
俺はついつい、彼女に見入っていた。
『どうしたの?火神君?』
彼女に声をかけられて、俺は我に返った。顔がやけに熱い。
当の本人に、「可愛くて見惚れていた」なんて言える訳もなくて、「……何でもねーよ」と、そっぽを向いた。
「…火神君」
「何だよ!?黒子!」
「緑間君は強敵ですよ?」
「わーってるよ!! 次のWCも絶対負けねえ!!!」
「火神君は全然分かってないですよ…そう言う意味じゃないです」
「じゃあ、どう言う意味だよ!?」
「…自分で察してください」
「何だ?そりゃ?」
「…自覚なしですか…?ただでさえ、火神君はデリカシーが無いのに…前途多難ですね」
黒子が小声で囁いた。
「苗字さんは緑間君のクラスメイトです。僕達よりも、確実に緑間君との距離の方が近いです。
彼女は、緑間君の誕プレ買うほどには、緑間君の事を気にかけています。火神君が、そこに入り込むのは容易ではありません」
…そう。
俺じゃ、苗字にそんな顔をさせる事は出来ない。…今は。
でも、俺は…負けたくない。
一歩でも彼女に近づく為には…
俺は思い切って、苗字に携番とメルアドを聞いた。
彼女は、思ったよりもあっさりと教えてくれた。
お互いに交換出来て、俺は気持ちが弾んだ。
…これで、少しでも近付く切っ掛けになるだろうか?
つか、おい!!?
何どさくさに紛れて、黒子までちゃっかり連絡先GETしてんだよ!!! このヤローーー!!!