緑色と黄色の対決
会場の体育館は、既にギャラリーで埋め尽くされていた。
黄瀬君がホラーマスクを緑間君に返した後は、若干ギャラリーがざわざわしていたけど。
そりゃ…ゴリラの中からイケメンモデルが出て来れば無理もないわな。
緑間君は、平然とベンチにマスクを置いている。
…やはり、観客の目を引いてしまっているwww
ベンチにゴリラマスクとか、シュールだよな…やっぱり。
高尾君がふざけてゴリラマスクを被ったり、緑間君が「返すのだよ!」と怒ったり、宮地さんが「軽トラで轢くぞ!!」と言ってたり。
そんないつもの秀徳メンバーを横目で見ながら、用意を進めていく。
最近は少し慣れて来たので、てきぱき動ける。
用意した海常のメンバーが出て来た。
黄瀬君が出て来た時には、黄色い声援が飛ぶ。
黄瀬君は、声援に応えて手を振った。
そして会場中に響く大声で、
「緑間っち!勝負っス!! 秀徳のマネを賭けるっスよ!!!」
……は?
何か……とんでもない事を言われた様な気がするんだが…
『…きっと気のせいよね!』と、私は黄瀬君の爆弾発言を、ごみ箱に放り込んで華麗にスルーした。
その秀徳マネ、私と関係ない誰か別の人の事なんだろう、きっと。
高尾君は唖然としている。
「名前ちゃん…黄瀬の発言、丸っと無視かよ?…すっげえ大物だよな!」
笠松さん「黄瀬…お前、何勝手な事言ってるんだ!?」
早川さん「よぉーし、頑張(る)っぞー!!!テンション、アーーーップ!!!」
森山さん「黄瀬…それ、乗った!!」
いやだから、乗るなって。
緑間君は怒った口調で、「黄瀬、何を勝手な事言っているのだよ!?」と文句を言う。
黄瀬君はそれに挑発的な口調で返す。
「…もしかして、勝つ自信ないんスか? 秀徳も、緑間っちも、案外大した事ないんスねーw」
安い挑発だが、秀徳側はいきり立った。
「何だと…!? 俺は人事を尽くしている。秀徳は負けないのだよ!!」
緑間君は、ゴリラのマスクを手に黄瀬君を睨みつける。
「…言ってくれるじゃん。…真ちゃん、俺、俄然燃えてきたよ! いくらうちのマネが可愛いと言っても、そう簡単にはやるわけにはいかないよね!」
「おい、お前ら、何勝手な事言ってんだ? 海常に負けたりなんかしたら軽トラで轢くぞ!」
「今なら、うちの軽トラは整備したてだから、すぐに貸せるぞ!」
…先輩達まで、何を言ってるんですか…?
周りが勝手にヒートアップして来ているし、…なんか…会場の観客達の視線が痛いんですけど。
なんで何の変哲もないマネージャーが、選手以上に観客の視線を一身に浴びる破目になっているの? 勘弁してください…
※※※
試合が始まった。
秀徳vs海常
強豪同士の激しい試合だった。
普通以上に白熱していた。
てか、私はスルーしたけど、事実上秀徳マネが試合の賭けの対象になっているんですけど…?
※※※
-途中の休憩時間-
『もしかして、秀徳も黄瀬君の賭けに乗ってない?』
と、ドリンクを配りながら、私は先程からの疑問をぶつけてみる。
緑間君は、「安心しろ。賭けには勝つのだよ」と、私の髪をクシャッと撫でた。
「そーだよ!名前ちゃん、俺達は絶対に負けないからね!!」
高尾君も、がっしと肩を組む。
やっぱり乗ってるんじゃないか!!
「苗字、お前は、俺達の応援をしっかりやってくれればいい。心配するな」
…大坪さんまで……!?
※※※
-試合再開-
黄瀬君や森山さんが、私にイヤに熱い視線を寄越すものだから、私はゴリラマスクを被ってやった。
…そうしたら、気のせいか。
海常の点の入りが鈍くなった。
おは朝すげえ。やっぱり蟹座にとってのラッキーアイテムは違うわ。
試合は僅差で推移した。
点は取ったり取られたり。
秀徳を信じてはいても、私も気が気ではない。
手に汗握って、応援にも熱が入る。
第4Q
残り時間は僅か。
緑間君と黄瀬君が1on1状態になる。
激しい攻防の後、緑間君が黄瀬君に何かを言って、3Pを打った。
黄瀬君はブロックしたが、僅かに届かなかった。
緑間君の手から、正確無比に放たれたボールはリングを潜った。
同時に終了のブザーが響いた。
勝負は僅差で秀徳の勝ち。
私はほっと安堵の息を吐いた。
※※※
終わってから、黄瀬君は私に挨拶しに来た。
「名前ちゃん。はぁ〜あ、負けたっス。悔しいっスよ」
『お疲れ様。凄く良い試合だったね。勝負の行方が最後まで分からなくて、手に汗握って観てたよ』
「そうっスか…あの賭けで、更に白熱した試合になったっスね! 俺もとても楽しかったっスよ」
『…そう言えば…あの最後の時の1on1の時、真太郎君は何て言ってたの?』
「…それは、緑間っちに聞くっスよ。…もし、教えてくれなかったら、海常マネと引き換えとなる条件でなら教えてあげるっス」
緑間君が割り込んで来た。
「黄瀬、負けたのだから、名前の事は、いい加減に諦めるのだよ」
『黄瀬君…私はマネとしては、まだほんの駆け出しで能力も無いし…そんなに熱望される程のマネじゃないよ?
皆に助けられて、やっとやれてるだけのマネだよ』
「いるだけで、選手のモチベーションが上がるマネは、中々いないっスよ。緑間っちが気に入った訳も分かるっスね」
黄瀬君に頭を撫でられた。
緑間君は、黄瀬君の手を邪険に払い除けた。
「黄瀬、名前に触るのではないのだよ!」
「いいじゃないっスか、少しくらいは。緑間っちはケチっス!」
「名前が減るのだよ、アホが移る!」
「酷いっス!!綽名っち、秀徳がイヤになったら、いつでも海常に来るっスよ!歓迎するっス!」
『綽名っち…?』
「…黄瀬は認めたヤツには〜っちと付けて呼ぶのだよ。イヤならシカトしても構わないのだよ」
「そんな意地悪言うなら、緑間っちの言った事、綽名っちにバラすっスよ!?」
「…何の事なのだよ?」
「「名前は何があっても、お前にはやらないのだよ」…確か俺にそう言ったっスね。最後の1on1の時っスけど」
みるみるうちに、緑間君の顔が赤くなっていく。
「黄瀬っっ!!!」
黄瀬君は笑いながら、「じゃ、また!今度は負けないっスよ、緑間っち!!綽名っち!!!
あと綽名っちは、今度から俺の事を"涼太"と呼んでくださいっス!」
と、格好良く颯爽と手を振ってたら、後ろから笠松さんに蹴り飛ばされてた。
「お前、何相手校のマネと親しくしてんだ? 相手校に迷惑かけるな!」
そして私を見て、緊張した面持ちで、「…黄瀬が迷惑かけたな」と謝罪してくれた。
『…大丈夫です。そこまで言ってくれた気持ちは嬉しかったから』
「…そうか。なら、良かった。…じゃあな!」
黄瀬君の襟を引き摺った笠松さんは、私に初めて爽やかな笑みを見せてくれた。
笠松さん、少しは女性嫌いは治ったのかな?
私も嬉しくなって、ニコニコと微笑んだ。
『WCで、また会いましょう!』
「…おうっ!!」
そんなやり取りを聞いていた黄瀬君、
「笠松先輩が女子と普通に喋った!! 初めて見るっス!」と、驚きの声を上げた。
笠松さんが、真っ赤になっていく。
「黄瀬っっ!!…帰るぞっ!」
「ああっっ!!痛ひ!! せんひゃい、鼻をひっひゃるの、止めてくだひゃいっス!俺、モデルなんひゅひゃら!!」
あーあ…黄瀬君、余計な事言ってくれて…
笠松さんと、やっと普通に話せたと思ったのに。
「全く…騒がしい奴等なのだよ」
「真ちゃん…アレ、ライバル増えたんじゃねーの?www」
「試合する度にマネージャーが相手校に口説かれるんじゃ、おちおち試合も出来ないのだよ。
…名前、これ被っとけ」
緑間君に、ゴリラマスクを渡された。
『…イヤなのだよ!』
私は、緑間君にマスクを被せた。
「何をするのだよ!?つか、真似をするな!!」
高尾君は、横で腹を抱えて大爆笑している。
『秀徳のマネージャーはゴリラだって、いらん評判が立つわ!』
つか、これ以上目立ってたまるかっての!!
「いいぞー緑間、その恰好で試合に出ろよwww」
「ボールにパイナップルのペイント施してやろうか?」
宮地先輩と木村先輩達にまでウケているwww
「俺達はゴリラに応援されるのは遠慮したい。だから却下だ、悪く思うな緑間」
大坪先輩まで、真面目くさった顔で言った。
ゴリラマスクを脱いだ緑間君は、渋々頷いた。
「…分かったのだよ」
『…良かった…って、更に持って来たそれは何さ?』
「ひょっとこの仮面なのだよ」
『分かってねーし!? 大体それ、ラッキーアイテムじゃないでしょ!? …もしかして、わざとやってんの?』
「ぶっは!www真ちゃん…俺達、ひょっとこに応援されたら、笑って試合にならなくなるよwww」
「……む。…それは困るのだよ」
『コントか!!うちの学校だけじゃなくて、観客や相手校まで笑い死にさせるつもりか?あんたはっ!?』
こうして、私にとって初めての練習試合は幕を閉じた。