Rhapsody in Green


青色狂騒曲-2-


ひとまずゴーカートを出た後、カフェで一休みする事にした。
私達が座っているのはテラス席。
下はお洒落な石畳、脇に植えられた樹が木陰を作っていて、吹き抜ける風が気持ちいい。

「どれ、額見せてみろ」
『ううう〜』
「少し瘤が出来てんな。取りあえず冷やしておけよ」

お絞りを当てて休んでいる。患部に当てると冷たくて気持ちがいい。
「…何だかそうしていると」
青峰君が私をまじまじと見ながら言う。

『…?』
「手拭きで頭拭いてるオッサンみてえw」
『ちょっ…!?花も恥じらう乙女に、何て事言うんだ!この男はっ!?』
「乙女って柄かよ〜www」
青峰君はゲラゲラ笑いだした。
『そこへ直れ、成敗してやる!!』
私は、青峰君に掴みかかろうとした。

「お待たせいたしました!ハンバーガープレートと、フレンチトーストのアフォガード乗せと、ストロベリーサンデーでございます」

『あ』

店員が置いたスイーツに、青峰君を掴もうとした私の腕が掠った。
青峰君の注文した、フレンチトーストに乗せたバニラアイスクリームと生クリームが、私の腕に少し付いてしまった。

「…お前なー…」
『うっ…ご、ごめん…』
…何か…今日の私は色々やらかしている様な気がする…
緑間君のお薦めの蟹座のラッキーアイテムを、持って来るべきだったかもしれない。

青峰君は、私の伸ばした腕をそのまま掴んだ。
そして、口元に持ってくるとにやりと笑った。
私は悪い予感がして、腕を咄嗟に引っ込めようとした…が、掴まれてびくともしない。

『大輝君っ!!?』

青峰君は、私の腕のクリームをぺろりと舐め取った。
私は腕に這う、柔らかで湿った舌の感触にびくりと身を震わせる。

「甘えな…」
このエロ峰があぁぁぁぁっっっ!!!
私は、顔が真っ赤になった。

「まだだ…もっと舐めさせろ…」
『もう、クリームはほとんど付いてないじゃん!』
舐めとられた周辺に少しだけこびり付いているけど、勘弁してよー!! 何この台詞!? R-18指定受けちゃうよ!!!
「お前の腕に付いたクリームは俺が注文したもんだぞ。俺のもんだ。舐めて何が悪い」
『何その理屈!!?』
「じっとしてろ…」
青峰君の舌が近付いて来る。
私は先程の感触を思い出し、全身を強張らせた。

くぅ〜ん

下から何やら可愛い鳴き声がする。
青峰君は引き寄せた手を止めて、訝しげに私を見る。
「名前…お前、何て声出してんの?」
『私じゃないよ!!!』
舐められて、こんな声出したら変態じゃんか!

私の腕を離した青峰君が下を覗き込む。
「お、犬だ」
私も連られて下を見る。
白黒の可愛い犬が、尻尾を振って見上げていた。
「何だ?この犬、ユニフォームなんか着ていやがるw …待てよ、このユニフォーム…」
『わー可愛い〜♪』
私は犬を抱き上げた。…ん? この犬…どこかで見た事があるような。
不思議な既視感に、私は首を傾げた。

「…すいません」
不意に声をかけられた。
私は、近くに人がいると思わなかったので、びっくりする。
『わっっ!?』
「おっ!?テツじゃねーか!!?」

声をかけたのは、黒子君だった。
「それ、うちの犬です」
『黒子君の家、犬飼ってたんだね』
「いえ。ぼくの家ではありません。誠凛のバスケ部所属です」

『あ!』分かった!
『黒子君にそっくりなんだ!その犬!!』
やっとすっきりした。
「…よく言われます」

黒子君の頭に乗っかった犬と、その下の黒子君。
『…まるでそうしていると、黒子君の目が四つあるかのようだねw』
「ぶはっっw!!…げほごほげほ!!!」
青峰君が吹き出した後で、盛大にむせている。

私の横で、火神君が無言でどっかと腰を下ろして、クラブサンドとカレーピラフとオムレツとロコモコ丼を頼んでいる。
相変わらず、よく食べるなぁ…
黒子君は反対側の席に座り、バナナシェイクを頼んだ。

二人は私達の間に座って、ただ黙々と食べた後に席を立った。
火神君はぶすっと一言「邪魔したな」とだけ言って去って行った。
黒子君は淡々と、「…青峰君、苗字さん、失礼しました」と言って静かに席を立った。

そんな黒子君を、やや眉を顰め気味に眺めていた青峰君は、「おい、テツ。何か言いたい事があるのなら言え」と、声をかける。
黒子君は一旦こっちを振り向いた。

「…あまり過激な事を苗字さんにしないでください。度が過ぎると嫌われますよ」
と諭す様に言って去って行った。

青峰君は、二人の後ろ姿を見ながら呟いた。
「…なんだありゃ…?」
私も訳が分からず、首を傾げた。
…止めに来たんだろうか?…まさかね。

※※※

遊園地に付随する公園を、二人でのんびり散歩する。

暫く歩いて行くと、ボールを突く音と楽しそうな声が聞こえて来た。
「お、ストバスがあるのか!」
青峰君は顔を綻ばせると、金網の外から中を見た。
私も傍に歩み寄る。

青峰君の視線の先には、楽しそうにバスケをしている少年達がいた。

「………」
それを眺める青峰君の表情は、少し寂しげに見えた。

『…大輝君…』
そっと呼びかけてみる。
「…ああ、悪りい。あの餓鬼共見てると、つい昔を思い出しちまってな」

昔…か。ただ楽しくバスケをしていた帝光時代の事だろうか?
今では、誰にも到達出来ない所に来てしまった、孤高の天才プレイヤー。

彼は、同等で勝負出来るライバルを渇望している。
その望みが満たされるのは…きっともう少し後になる。

青峰君は私をじっと見た。
『何?』
彼はニヤリと笑うと、とんでもない提案をしてきた。
「名前、1on1やろーぜ」
『はぁ!??』

いやいやいやいや!!!ちょっと待て待て待て待て!!!!!
『私、運動音痴だから無理だってば〜!!!』
「お前が俺に敵う訳ねーじゃんw 軽く遊ぶだけだっての!」

青峰君は、私をストバスコートへ引き摺って行った。何てヤツだ。

彼は転がっていたボールを私に渡すと、中腰になって構えた。
「俺を抜いてみろよ、名前!」
『無理言わないで!!』
化け物相手に素人がどうしろと!?

自棄くそ気味に、青峰君の顔面目がけて力一杯ボールを投げて、すかさず横を走り抜ける。
青峰君は完全に不意を突かれた。
「うおっ!?名前、テメー何しやがる!!!危ねーだろ!?」
ギリギリで避けて、私に抗議する。

私はバウンドしたボールをそのまま取って、以前に緑間君に習った3Pシュートの体勢を取って、ボールを放った。
狙い過たず、ボールはゴールに吸い込まれた。
『やったー!先取点っっ!!』まぐれだけど私凄い!!!?

「てっめー!よくもやりやがったな!!!」
熱くなった青峰君は、そのまま連続で10点入れて返した。
私が息を切らして、動けなくなるまでやるとか鬼だろ。

でも青峰君は、何だか楽しそうだ。
「名前、お前、見込みがあるぜ! お前といると、本っ当に飽きねぇ」

そして彼は表情を改める。
「…名前…!」
『なに…?きゃっ!?』

一瞬後、手首を掴まれて、私は金網に押し付けられていた。
「……名前…緑間と上手く行かなかったら、いつでも俺の所に来いよ?」
青峰君は屈んで私の耳に囁きかける。
『あの…気持ちは有難いけど…この体勢は勘弁してください…』
密着してて…顔が近い。心臓に悪いよ。


ひゅ〜

私の耳は微かな音を捉えた。
そしてその次の瞬間、ゴン!と至近距離で鈍い音がした。

「いってぇぇぇぇぇ〜〜〜!!!!」

痛そうにしゃがみ込んだのは青峰君。
『大輝君、大丈夫!?……ん?』

私は、足下に転がって来た物を拾い上げた。

それは、冷たいお汁粉の缶だった。

私は咄嗟に懐に隠した。

「…〜〜っ!!何だ!?今のは!?どこから降って来やがったーーーっっっ!!???」
夕暮れ空に青峰君の怒声が響いた。
私は、こっそりお汁粉の缶を鞄にしまいながら、一人苦笑をかみ殺した。


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