Rhapsody in Green


俺達の事情[高尾side]-2-


ワンフロアを抜けて、ゴーカートの入り口に辿り着いた。
真ちゃんは、名前ちゃんを下して戻って来た。
俺は息を吐いた。

『あ…ありがとう…?』
名前ちゃんの戸惑いの混ざった呟く様な声に、俺は振り返って手を振った。

「真ちゃん、ゴーカートはやらないの?」
「さすがに、この姿では目立ち過ぎるし、青峰に警戒されるのだよ。どこかでこれを脱ぐ」
「あ〜良かった〜」
これ着て全力疾走したから、正直暑くて息苦しくて仕方ないんだよね!! やっと解放されるよ!

黒子達がやって来た。
「緑間君、青峰君と苗字さんはどこにいますか?」
「今は、ロングコースのゴーカートをしているのだよ」
「俺達、この着ぐるみ脱いで来るから、それまで名前ちゃん達を見てて欲しいんだけど?」
「ああ…分かった。ゴーカートだな」
「大丈夫よ!任せなさーい♪テツ君、大ちゃん達を見に行こう!」

俺達は、物陰の目立たない場所で着ぐるみを脱いで、纏めてコインロッカーに預けた。
あ、真ちゃんは抜かりなく、ラッキーアイテムのクマの縫いぐるみは別に持って来てるぜ。
「なんか、火神まで協力的なのは意外だよなー」
「まさか…火神も名前を? …いや、何でもない」
「真ちゃん、何でもなくないだろ。火神の入口での態度、俺も引っかかってたもんね」
「やっぱり名前に、ひょっとこを着けさせるべきだったのだよ」
「顔を面白くして済む話なの!?それ!?」

※※※

ゴーカート入口まで戻ると、桃井ちゃんが待っていた。
「あっ来た来た! ミドリン、テツ君と火神君が出口の方に回ってるよ!」
「行くぞ高尾!」
俺達は一緒にゴーカート出口の方に移動する。
暫く雑談しながら待っていたら、青峰と名前ちゃんが出て来た。
名前ちゃんは、額を押さえている。

真ちゃんは、そんな名前ちゃんを見ながら眉をひそめる。
「…額をぶつけでもしたのか?」
「真ちゃん、今出て行っちゃダメだからね!?」
「…!分かっているのだよ!!」

※※※

青峰と名前ちゃんは、カフェの外テーブルに着いた。
外だと、見張り易くて助かるわ。

名前ちゃんは、額をお絞りで冷やしている。やっぱりぶつけたみたいだ。

青峰が名前ちゃんに何か言って、ゲラゲラ笑い出した。
名前ちゃんが怒って青峰に掴みかかろうとした。

その時に、店員が料理とデザートを持って来た。

火神はカフェの方へ歩き出した。
「どこ行くの!?」
桃井ちゃんが吃驚して尋ねる。
火神は「食いもん見てたら腹減った。何かそこで食べて来る」と、言って歩いて行った。

ああ…行っちゃったよ。

火神に気を取られていたら、カフェテラスでは、とんでもない事になっていた。

名前ちゃんは、青峰に腕を掴まれていた。
そして青峰は、名前ちゃんの腕をぺろりと舐めた。

「………!!!」
真ちゃんが顔色を変えて駆け寄ろうとしたのを、寸前で黒子が制止した。
「緑間君、苗字さんは僕に任せてください」
そして抱えていた犬を下すと、「行け!二号!!」と低く命令した。
犬は、真直ぐに名前ちゃんの足下目がけて走って行く。

青峰の動きが止まった。
手を離して、テーブルの下を覗き込んでいる。
名前ちゃんは犬を抱き上げた。

あ、成る程。
あいつ等の気を逸らす作戦か。上手いもんだ。
感心した俺は、黒子に声をかけようとして横を見たら……いつの間にか消えていやがる。

黒子は気配を自然に消しながら、いつの間にか青峰達のいるテーブルの所にいた。何か話している。

そして火神まで加わって、一緒に食べ始めた。
…何か見ていたら、火神じゃないが、こっちまで腹減ってきた…
朝飯以降から何も食べてないんだ。腹も減るわ。

真ちゃんは、無言で歩き出した。
と言っても、カフェとは別の方向だ。
「真ちゃん、どこ行くの?」
「昼飯を買って来るのだよ。高尾、お前はそこを動くな」

暫くしたら、真ちゃんは戻って来た。
見たら、紙袋を抱えている。
「高尾、桃井、これを食え」
真ちゃんは、ホットドックとハッシュドポテトとオレンジジュースを三つずつ出した。
「おっ♪やっりー!!真ちゃん、サンキュー☆」
「ありがとう!ミドリン!!いただきまーす♪」

うちのエース様は我儘だけど、意外に繊細で、律儀に気を使ってくれたりもする。
何だかんだ振り回されても、何故か嫌にならないのは、それでかね…?
あとは、つつくと反応が面白くて、止められないからなんだけどな!!

そうこうしているうちに、犬を連れた黒子と火神が戻って来た。

「青峰君に釘を刺して来ました」
「テツ君、お疲れ様!」
「青峰達も移動するみたいなのだよ」

※※※

青峰と名前ちゃんは、公園をのんびりと散歩している。
さっきとは打って変わって和やかなムードだ。

黒子は囁く。
「これで終われば良いのですけどね」
真ちゃんは、通り掛けに自販機で買った、冷たいお汁粉の缶を手にしながら答える。
「…青峰だからな。油断は出来ないのだよ」

火神は何かに気が付いたみたいに口を挿む。
「…あれ、こんな所にもストバスのコートがあるのか」

見ると、あの二人も気が付いた様で、興味深げにストバスコートを見ている。

「うぇっ!?青峰、名前ちゃんをストバスコートに引き摺って行ってるぜ!?」

何をするかって? ストバスコートでやる事なんて決まっている。
「名前は、運動は苦手な方なのだよ! 無茶なのだよ!!!」
「大ちゃん!??」

やっぱり青峰は名前ちゃんに1on1を仕掛けた。
俺達も固唾を飲んで見守る。

その後の展開は、俺達の予想を覆した。
何と、名前ちゃんが不意を突いて青峰を抜かしたのだ。
…手口は、ラフプレーになりかねない乱暴なものだったが。
その後は、見事な3Pシュートを打って、先取点を決めた。

俺達は言葉も無かった。

「アレ…真ちゃんが教えたシュートだよね…?綺麗に決まったなぁ…」
俺が感嘆した声を上げると、真ちゃんは、満足気に眼鏡のブリッジを上げた。
「名前は人事を尽くしたのだよ。見事なシュートだった」

黒子と火神も称賛を惜しまなかった。
「…凄いです!! 苗字さん!」
「あいつ…ガッツリ鍛えたら、小せえけど良い選手になるんじゃねーの?」
「大ちゃんが抜かれるなんて…」
桃井ちゃんは茫然としている。

その後、青峰のヤローはムキになったのか、名前ちゃんが動けなくなるまで一方的に点を入れ続けた。

「…大ちゃんって…」
「ムキになり過ぎなのだよ…」
桃井ちゃんと真ちゃんは揃ってため息を吐いた。

「素人女子相手に、手加減くらいすればいいのにな〜w」
「素人女子に抜かれたからこそ、ムキになったんだと思います…」
「…まぁ、気持ちは分からなくもないけどな。でも苗字は面白え女だな。…俺もやってみてえ」
火神…お前って……

俺がじと目で火神を見やった時、真ちゃんが鋭く叫んだ。
「名前!!!」

「えっ!?」
俺が慌てて視線を戻すと、名前ちゃんは青峰に金網に押し付けられていた。

…若干一名だけ、ピンクのオーラを放っているヤツがいるけど、俺達はそれどころじゃなかった。

青峰は名前ちゃんに密着して、何事かを囁いていた。

どう見ても危ねえ!!!
俺は、彼女の元に駆け付けようとした。

でも、それより一足早く、真ちゃんが手にした物を投げたのが視界に入った。

「…あ」

"それ"は見事な放物線を描いて、狙い違わず青峰の頭にヒットした。
青峰は痛そうに頭を抱えてしゃがみ込む。

名前ちゃんは、唖然としつつも真ちゃんの放った物を手にしていた。
それで大方の事情は察した様だ。

かくして、名前ちゃんと青峰のデートは終わった。


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