真夏の夜の夢・一夜目-1-
プロローグ
毎年、秀徳バスケ部は、一軍だけの調整合宿を夏休みにやる。
宿も毎年同じ、[波切荘]と言う民宿だ。
私は、その事で中谷監督に呼び出されていた。
「…今年は、我々より一足早く、団体客が部屋を予約していてな…
辛うじて部員達の部屋は確保出来たのだが、君一人の部屋がどうしても足りないのだ」
『はあ』
「それで、その団体客の女性と相部屋なら大丈夫かと、宿から問い合わせが来ていてな。お前に確認したいのだが」
『…そうですね。私は割と寝付きが良い方なので、知らない人とでも大丈夫だと思います」
中谷監督は破顔した。
「そう言ってくれると助かる。では、よろしく頼むぞ」
部員達の部屋も、大部屋が足りなくて、少人数ずつ割り振られるメンバーもいるらしい。
私は臨時だし、今年だけだろうけど、賑やかな合宿になる予感がする。
※※※
一日目
波切荘にバスが着いた。
秀徳バスケ部の一軍の選手が降りて行く。
集合は早朝だったから眠い。
荷物は宿の人達も、運び込むのを手伝ってくれた。
宿を見た高尾君は一言、「げえっボッロー…」
そして大坪先輩が「高尾、うるさいぞ」と窘める。
まぁ…確かに、かなりぼ…コホン、年期が入った感じの民宿だ。
私は、緑間君と高尾君の後に続いて民宿に入る。
私の部屋は…別のグループの人と相部屋だったっけ。
「確か、俺達の部屋割りって…」
「一年だけあぶれたので、二人部屋なのだよ」
「うっわー何それw 真ちゃんと二人っきりなの?」
「俺だって、好きで高尾と二人部屋になったんじゃないのだよ!」
『今年は、他の団体客に大部屋を使われてるって話だからねー。だから部屋割りが一部細切れになったんだって』
他の団体客って…やっぱりアレかな?
さり気なく入口にかけられていたけど、気付いた部員はいなかったような…
何か見覚えのある人達が、廊下の洗面台で歯を磨いている…
前を歩いていた二人も、気が付いて足を止める。
黒子君と火神君だ。
『ぶっは!!』私は思わず吹き出した。
黒子君、寝癖…w髪爆発してるよwww
緑間君が驚いている。
ひとしきり大騒ぎになる。
「なぜここにいるのだよっっ!?」
「こっちのセリフだよ!!つか、何で苗字までいるんだ?」
「秀徳は昔からここで一軍の調整合宿するのが伝統なんだとー。名前ちゃんは、今は秀徳の臨時マネだよ。」
「おはようございます。苗字さんも一緒なんですね、よろしくお願いします」
『おはよー。黒子君、寝癖スゴイねーw!』
「それがお前らはバカンスとは、いい身分なのだよ…!!その日焼けはなんだ!」
「バカンスじゃねーよッ!!」
「ちょっと!もう皆食堂いるわよ。何やってんの?」
茶髪ショートの快活そうな相田リコさんがやって来て…来て…そこの一同全員が、彼女を見た途端にフリーズした。
可愛いクマのエプロンを着けたリコさんは血塗れだった。
しかもダメ押しに、血塗れの包丁まで持って来ている。
初っ端から天然のスプラッターな演出に、突っ込まずにはいられない。
「オマエの学校は何なのだよ、黒子!!」
「誠凛高校です」
「そーゆーこっちゃないのだよ!」
「あれっ!?秀徳さん!?…てかこれケチャップよ」
ケチャップ?…何をどうしたらそうなる?
※※※
私は、リコさんと同じ部屋だった。
誠凛の朝食後に、お互いに自己紹介と挨拶した。
「まさか秀徳さんと同じ宿だとはね〜苗字さんだっけ?よろしくね!」
『はい、こちらこそよろしくお願いします』
「ね、秀徳の監督さんにもご挨拶したいんだけど、部屋まで案内してくれる?」
『はい、こちらです』
「悪いわねー」
歩きながら話をする。
「苗字さんって、黒子君や火神君と知り合ってるのね」
『元々黒子君とは、帝光からの知り合いです。火神君は…割と最近知り合いましたね』
「帝光の時からマネージャーやってんの?」
『いえ、私は体育はどちらかと言うと苦手で…今回は臨時です。あ、着きました』
監督さんはスキップしながら入って行った。
※※※
夕方は、秀徳と誠凛の合同練習を体育館で行う事になった。
リコさんが監督に会いに行ったのはこの件でなのね。
私は、記録を付けたり、ドリンクを用意したりしながら練習風景を見ていた。
あれ?
黒子君が緑間君に1on1仕掛けている。
でも、すぐに取られたw
時間を見て、私は監督の所に行く。
夕食の材料の買い出しと用意をしなければならない。
私は許可を得て、外に出た。
大まかな材料は揃っているが、まだ少し買い足したい物があった。
だから一人で十分だと思っていたんだけど…
『思ったより重たい……』
よろよろと荷物を持って歩いていたら、砂浜を見覚えのある人が走って来た。
『火神君!?』
「よう、苗字!!」
『火神君は一人でトレーニング?』
「監督命令で、一人一本ずつコンビニでジュースを買え、だとさ。しかも一本につき一往復」
『うっわー…何往復になるんだろ?」
「ついでだから持ってやる。重いんだろ?」
火神君はひょいと私から荷物を奪うと、また走り出した。
私も砂浜を並走する。…が、すぐに息が切れ始める。
『砂浜って、足を取られるから普通に走るよりも体力使うね!』
「苗字、無理するな。俺は先に行くから後で歩いて来い。荷物は宿の台所でいいんだろ?」
『うん、ありがとう!』
「おおよ!!」
火神君は爽やかで男らしい笑みを浮かべると、先に走って行った。
…男前だ。ちょっと見惚れてしまったじゃないか。
宿の手前まで行くと、火神君がこちらに走って来るのに会った。
すれ違いざまに、彼は私の頭に手を置くと「置いて来たぜ」と言った。
『ありがとう!火神君も頑張ってねー!!』
私の激励の言葉に嬉しそうに頷くと、手を振って走って行った。
最近、火神君とも少し仲良くなったかもしれない。
弾んだ気持ちを抱えながら、夕食の支度を始めるべく、台所に向かう。
※※※
台所では、リコさんが先に来ていて、誠凛の分を作っていた。
…でも、何だろ?……あの、黒っぽい塊は…???モンスターを召喚でもしたのか????
頭が?で一杯になりながら、私は普通にポークジンジャーソテーとポテトサラダと野菜のマリネと味噌汁を作った。
ふとリコさんを見たら、イカをそのまま丸ごとフードプロセッサーにかけようとしている。
私は慌てて止めた。
『リコさん、イカをフープロにかけるなら、ワタと皮を取ってからですよ!』
「え?そうなの?」
私は、イカの下処理の仕方を教えた。
…大丈夫なのか…?誠凛の方の食事は…??
最初に見た黒っぽい塊は、聞くと、どうやらジャガイモを丸ごと鍋で一時間、水も入れずに火をかけた代物らしいw
私は、デザートに蜂蜜レモンのパンナコッタも作成。
多めに作ったので、誠凛にもお裾分けする。
…日向さん始め、誠凛の方々には、何故か泣かれる程感謝された。