Rhapsody in Green


真夏の夜の夢・二夜目-2-


昼過ぎに、私は買い出しに行く許可を貰った。
中谷監督の計らいで、選手の内、誰かを荷物持ち要員に連れて行く事になった。
「俺が行きます」
緑間君が真っ先に名乗り出た。

「あの緑間が…!?」「雪でも降るんじゃね?」「いや…降るのはパイナップルだろ!?」「軽トラが降っても、俺は驚かねぇぞ!」
先輩達は騒めいてる。
そして、含み笑いをしている高尾君を緑間君は一刀両断した。
「気持ち悪いのだよ、高尾!」
「真ちゃん、ひでぇよ!!」

高尾君の抗議を置き去りにして、緑間君と私は買い出しに出た。

『……』
「……」

今朝の事があるからか、二人で歩いていると、緊張してしまう。
最初に口火を切ったのは緑間君だった。

「あー…今朝の事は、すまなかったのだよ」
『気にしないで。私も寝ちゃったし…真太郎君も寝ぼけていたんだし。事故だよ事故』
「疲れていたんだろう?何度も起こそうとしたんだが…起きなかったのだよ」
『真太郎君のマッサージが、とても気持ち良かったんで…つい』
「男の部屋で寝てしまうなど、名前は無防備過ぎなのだよ…」
『…面目ない…』
「あの部屋には高尾もいるのだよ。…寝るなら、俺一人の時にするのだよ」

…あれ?…何だかその言い方って…?
まるで真太郎君一人の前でなら良いみたいな。


八百屋で足りない食材を幾つか買い足す。
「持つのだよ」
『ありがとう、真太郎君!助かる!』
「一緒に来たのはこの為だ。これ位どうって事はないのだよ」

八百屋のおっさんが、にこにこしながら言う。
「いい旦那さんだねぇ!仲良くって微笑ましいね。あ、奥さん可愛いからおまけしとくよ!?」
おっ…奥さんって!?つーか、私はまだ高校生だけど!?(二度目だけどw)
…緑間君も呆然としながらも小声で反論する。
「…まだ…夫婦ではないのだよ!」

しかし…何だろう?彼のこの微妙な反論は…?

私達は、お互いに赤くなった顔を見合わせた。

※※※

買い出しの帰り道。
海沿いの道路を二人で歩く。
緑間君は、さり気なく早さを合わせて、車道側を歩いてくれている。優しい気遣いが嬉しい。

ふと砂浜を見た。
背の高い、赤っぽい髪の人が、ランニングしてる姿が目に入る。
「火神…!」
緑間君も気が付いた。

『火神君、今日も誠凛の監督さんにジュース買わされているのかな?』
「何だ?それは?」
『昨日も同じ様に砂浜走っていたんだよ。ついでに荷物持ち手伝ってくれたの。
一人一本、一往復につき一本ずつコンビニまで買いに行ってるんだって』

緑間君の翡翠色の瞳が鋭い光を帯びる。
「…なるほどな…」

『おー…!』
私は、砂浜を走る火神君に手を振ろうと腕を上げた。と、同時に緑間君に手首を掴まれる。
『え…?』

「今は買い出しの最中だ。火神なんか放って行くのだよ」
そのまま腕を下ろされて、手を掴まれたまま歩いて行く。

突然様子が変わった緑間君に、私は首を傾げた。
…どうしたんだろう?

結局、宿まで手は繋がれたままだった。

※※※

練習試合の後、誠凛の選手達が夕食作りの手伝いに来てくれた。
今日の手伝いのメンバーは、水戸部さんと伊月さん。

水戸部さんは、寡黙でほとんど喋らない…つか、声を聞いた事がない。
伊月さんは、涼しい目元のイケメン兄さんだ。駄洒落好きがちと残念ww

夕食のメニューは、和風ハンバーグと、ほうれん草の胡麻和え、温野菜サラダ、お味噌汁…

水戸部さんが、寡黙だけどとても手際が良くて、思ったより早く出来た。
「はっ!?ホットケーキは放っとけー!?…キタコレ!!」
『はははw伊月さんって面白ーい!』
「………」

夕食は評判が良かった。
火神君が黒子君と会話しているのが聞こえた。

「これうめぇな!黒子、残すならくれよ!」
「ダメです!今回は残しませんから」
「えっ!?黒子、全部食べられるのか!?結構量あるぞ?」
「もう食べちゃいました。…ご馳走様でした」
「早っっ!!?」

※※※

夕食後、お風呂に入って髪が生乾きのまま歩いていたら、やはり風呂上りの緑間君と出会った。

「名前、髪がまだ濡れているのだよ。そのままでは風邪をひくぞ」
『だってー…ドライヤー嫌いなんだもん』
「そのまま寝たら、寝癖がつくぞ?」
『…うっ…それはイヤかも…しれない』
「乾かしてやるから、俺の部屋に来るのだよ」

緑間君達の部屋でドライヤーをかけてもらう。
熱を巧みに当ててくるので、さほど熱くは感じない。

「名前の髪は、柔らかくてサラサラとしてて手触りが良いのだよ」
『真太郎君の手も気持ち良いよ』
「…今度は、ここで寝るのではないのだよ」
『大丈夫だってー…多分』
「多分じゃないのだよ!」

高尾君が戻って来た。
「あっれー?名前ちゃん、いつの間に部屋がここになったのw?」
「高尾、そんな訳ないだろう!」
「俺は大歓迎だけどな!」
私は二人のやり取りに苦笑する。

高尾君は、悪戯っ子みたいに目をきらきらさせる。
「…でも真ちゃんが名前ちゃんにそーしていると、世話焼きのおかんみたいだな!」
「なっ!?」
『ぶはっっ!!w』私は思わず吹き出してしまう。

「名前ちゃんも笑うって事は、そう思ったんっしょ?」
『いやいや、和成君、そこは追求しちゃダメだから〜!!』

緑間君は、私の頭を軽くポンと叩いた。
「終わったぞ。名前もそろそろ戻らないと、また先輩達にどやされるのだよ」
『うん、真太郎君、ありがとうね。今日は楽しかった!また、明日ね!!』

「ああ…名前」
緑間君は、躊躇いがちに私の名前を呼ぶ。

『真太郎君?』

緑間君の顔が少し赤く見える。
彼は、視線を私から微妙に逸らせつつ眼鏡を上げて、低い声で囁いた。

「…おやすみ…なのだよ」

私も、何だか少しくすぐったい様な気持で、
『…うん、おやすみなさい、真太郎君』と囁いた。

部屋に戻ったら、リコさんが待ち構えていた。
「苗字さん、昨日の夜の事、話してもらうわよー♪」
『ええっ!?』
いや…勘弁してください、本当に。

結局、私は、何も無かったとは言え…うっかり緑間君達の部屋で寝てしまった事を、白状させられた。

「キャーwww…それから?それからどうなったのっっ!?」
『ちょ…リコさん、ぐるじぃ…襟首を絞めないで…っ!』


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