Rhapsody in Green


真夏の夜の夢・三夜目-1-


今日は秀徳の合宿も、早や三日目となる。
最初は、しんどかったけど、私も少しずつ慣れて来た。

夕食の仕込みは終えて、今は、練習試合のスコアをつけている。
『82対91で秀徳の勝ち…です』

中谷監督は考え込んでいる。
「合宿中、三試合やって三勝か…ふーむ…んー」
そこへ高尾君が軽口を叩く。
「やっぱアレじゃないっすかー?予選の時はマグレ的な…」
緑間君は黙り込んでいる。

「負けた理由をマグレで片付けるのは感心せんなー。高尾、走って来い、外10周ぐらい」
「ぎゃすっ!?」
「それに、やったお前らが一番分かっている筈だ。誠凛に負けた予選の時より、勝った今回の三試合の方が手強かった」

木吉さんと火神君抜きでこの強さ…
誠凛は確実に強くなっている。

※※※

『さーてと、夕食は後は、もう配膳すればオッケー☆もう少ししたら、皆を呼びに行くか!』
今日は小金井さんと土田さんに一部手伝ってもらった。
誠凛も皆良い人達だなー。

そー言えば喉が渇いたな。
すぐそこの自販機まで飲み物買ってこようっと〜♪

自販機に硬貨を入れて、ボタンを押そうとしたら…上からテーピングした指が、冷たいお汁粉の缶のボタンを押した。
ゴロゴロンと音を立ててお汁粉缶が出て来るのを、後ろにいた緑間君は当然の様に拾い上げる。

『あの…』
何となく不条理な気がして、緑間君に軽く抗議しかけるも、彼が私の手に、お汁粉缶の代金分の硬貨を落とした事で不発に終わる。
私は再び硬貨を入れ直して、冷たい紅茶のペットボトルを買う。

『お疲れ様、真太郎君。もうすぐご飯だよ』
「支度は出来たのか?」
『うん。今日も誠凛の人達に手伝って貰ったから、割と早く出来たよ』
「…それは良かったのだよ。手伝ったのは火神か?」
『ううん。小金井さんと土田さんって人達』

緑間君は、表情を和らげた。
「今日の夕食のメニューは何なのだよ?」
『鯖の黒酢の野菜あんかけと、肉じゃがと、ほうれん草の白和えとお味噌汁』
「美味しそうなのだよ」
『真太郎君は嫌いな食べ物って何かある?』
「…納豆が苦手なのだよ」
『納豆ね…臭いがキツいから苦手な人多いよね』

話しながら歩いて行くと、宿の駐車場に差し掛かった。
「む?」
緑間君は足を止めた。

火神君が倒れている。
お互いを認めた双方の顔に、ビシッと青筋が走った。
うっあーw本当に犬猿の仲だなこりゃ。

火神君は私達を見ると、身体を起こして倒れていたバスケットゴールを立て直した。
「……んだよ」
「用などない。ただ飲み物を買いに出ただけなのだよ」
「飲みもん…?って汁粉? よく夏にそんなもん飲めんな」
「[冷たい]に決まっているだろうバカめ」
「そーゆーこっちゃねぇよ!」

やり取りが可笑しくて、私は横でクスクス笑う。
「全く…お前には失望したのだよ」
「何だ、いきなり!」
「俺に負ける前に青峰にボロカスに負けたろう」
「ぐっ…次は勝つ!いつまでもあの時と同じじゃねーよ!」

緑間君はバスケゴールを一瞥して鼻で笑った。
私もつられて見る。
ゴールの高い位置に、明らかな手の痕跡が残っていた。
火神君は、あの高さまで跳んだんだ。私は慄然とする。

が、緑間君は全く意に介していない。
「まさか[空中戦なら勝てる]等と思ってないだろうな? 跳ぶ事しか頭にないのか、バカめ」
「ああっ!?」
「高くなっただけでは結果は変わらないのだよ」
言いながら、緑間君は私にお汁粉の缶を渡す。私は黙って受け取った。

「その答えではまだ半分だ。そんなものはまだ武器とは呼ばん」
緑間君は、指のテーピングを外しだした。
「俺が倒す前に、そう何度も負けてもらっては困るな」
彼はボールを持って挑発する。
私は固唾を飲んだ。これは。
「来い。その安直な結論を正してやる」

「10本だ。お前がオフェンス、俺がディフェンス。一本でも取れたらお前の勝ちだ」
「あ?どーゆーつもりか知んねーけど、10本連続で防げるつもりかよ ?止められるもんなら、止めてみやがれ!」
獰猛に言い放つ火神君に対して、緑間君は落ち着き払っている。
「安心しろ。俺の負けはない。今日の占い、蟹座は獅子座に順位も相性も完全に上位だ」

※※※

私はチョークを持ち、地面に彼等の試合の結果をチェックしていく。
…今の所、5回やって5回とも緑間君が防いでいる。
『…凄い…』
私は小声で呟いた。

「くっ…!」火神君は鉄壁のディフェンスに、攻めあぐねている。
「心外なのだよ。まさか俺が3Pしか取り柄がないとでも?」

火神君がジャンプしてゴール狙った所を、また緑間君が叩き落とした。

「くそっ、もう一本だ……」
「やめだ。このままでは何本やっても同じなのだよ」
「なっテメェ…!」
「いい加減気付けバカめ。どれだけ高く跳ぼうが止める事など容易い。何故なら、必ずダンクが来ると分かっているのだから」

緑間君は、私からお汁粉缶を受け取り、片隅の茂みに声をかける。
「行くぞ高尾」
「あり?バレてた?」
高尾君は完全に面白がっている。
そして緑間君は、一緒にいた黒子君にも声をかける。
「…WC予選でガッカリさせるなよ」
「…はい」

私が緑間君が好きなのは、こう言う所だ。
なんて良い人なんだろうって。
表情を緩めた私に、高尾君が絡む。
「名前ちゃん、何か嬉しそうだね!」
『うん、とてもね!』

二人は火神君の事を話ながら歩いている。
「つーか、いいのかよ?敵に塩あんな送っちゃって」
「それでも冬は俺が勝つのだよ」
「いや、火神だけならまだしもよ。風呂で言ってたみたいに、もし黒子も成長したらいよいよ…」

緑間君は好敵手が出て来る事が嬉しそうだ。
「フン、望む所なのだよ」
「俺は望んでねーつの!」

私は、彼のプライドの高い所も、努力家の所も、敵に塩を送っちゃう所も大好きだ。
私は弾んだ足取りで、彼等と共に宿に向かった。


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