Rhapsody in Green


真夏の夜の夢・三夜目-2-


夕食後、片付けは火神君と小金井さんが手伝ってくれた。

「…よう。さっきはみっともねーとこ見せちまったな」
『火神君、ううん。全然みっともなくなんかないよ?』
「俺さ…さっきの1on1で色々気付かされてよ…緑間にって所がムカつくけど…やっぱ強えな、キセキの世代は」

『火神君?』
「…苗字…お前さ…緑間のことが好きなの?」
『…え…?』
なんで…火神君がそんなこと…?

火神君は、真直ぐな強い瞳で私を見つめている。
私の心臓がトクン…と音を立てた。


不意にその時、小金井さんの声が響いた。
「わっ!?やべっ!!」
不用意に重ねた鍋がバランスを崩し、私の頭上に落ちてきた。

「苗字っっ!!!」
火神君は咄嗟に私を庇って、上から覆い被さる。
私は、火神君に押し倒された衝撃で、背中を打ち付けて呼吸が一瞬止まった。
同時に派手な金属音が辺りに響き渡る。

『うっ…!』
「苗字、大丈夫かっ!?」
火神君は、私の上に被さったまま聞く。
『だ、大丈夫…っ、火神君は?』
だけど背中が痛くて、すぐには身体が起こせない。
「俺は大丈夫だけどよ…お…おい、苗字!?」

そこに立ちふさがる影があった。
「……何をやっているのだよ、火神!?」

小金井さんは青ざめた。「げっ…緑間!?」

『し、真太郎君…っ』
私は身体の痛みの方に気を取られていたが、よくよく考えると、これは火神君に押し倒されたままの体勢だ。
かなりヤバい。

私は腕を突いて、痛む身体を起こそうともがいた。
でも、上に火神君の大きな身体があるので、上手く起こせない。
『あ…っ、く…っ!』

「火神、どけっっ!!!」
緑間君は、恐ろしい声で叫ぶと、私の身体を火神君の下から引きずり出した。
「おい、緑間!?女を手荒に扱うんじゃねーよ!!」
「お前に言われる筋合いはないのだよ!!」

緑間君は、私の手を痛い程の力で掴んで歩いて行く。
何だろう…酷く怒っている…?
私は初めて緑間君が怖い、と思った。

緑間君は、私を自室に連れ込むと、いきなり私を押し倒した。
大きな身体に組み敷かれたまま、私は身動きが出来ない。

緑間君の顔が、すぐ目の前にある。
彼の眼は、激しく射抜く様に私を見つめる。
彼に顎を掴まれたと同時に、唇に柔らかな感触を感じる。

『…んっ…!?』

これは…キス…されてるの?

私は茫然とした。
一体、何がどうなっているの?
私は混乱したまま、緑間君の剣幕に恐れをなした。

怖い。

『いやっっ!離して!!』私は抗った。

緑間君は、苛立った様に呟いた。
「火神には…抵抗しなかったのにな…!」
えっ…あれは『違う…!』

緑間君は、ため息を吐くと、私の手を離して身体を起こす。
私も身体を起こそうとしたが、背中の痛みに呻いた。
『痛っ…!』

身体を横に倒して背中を丸めた私を見て、緑間君は異変に気が付いた。
「名前…?どこか痛めたのか?」
『さっき…台所で鍋が落ちてきて…火神君が庇ってくれた時に…』

「診せるのだよ」
『ちょっと打っただけだから、大丈夫…!』
私はびくりと身体を震わせると、緑間君の手を払って後退った。

「名前…」
緑間君は、私の眼に怯えの色を見て取ると、哀しそうに目を伏せた。
そして、小さな声で「すまなかったのだよ…」と呟いた。

私は、何と言っていいのか分からなくて、混乱したまま蹲った。

そこへ高尾君が戻って来た。
「名前ちゃん?来てたの?…つか、何この重い空気?どうしちゃったんだよ?」

私は後も見ずに部屋から逃げ出した。
「名前ちゃんっ!?」

※※※

私は、お風呂で身体を洗いながら、緑間君の事が頭を離れないでいた。

真太郎君は、どんなつもりで私にキスしたんだろうか…?
さっきの唇の感触が生々しく甦る。
それに、あの哀しそうな瞳…

私の身体が熱くなっているのは、お湯のせいだけではない様な気がする。

暫くしたら、リコさんも入って来た。
一緒に湯船に浸かる。

「女子二人だけだから、貸し切りみたいで贅沢な気分よね!」
『…そうですね。これで温泉の外風呂とかあるといいのに』

「安い民宿だからねー…そう言えば、背中打ったんだって?…うちのバカガミが悪かったわね」
『いいえ。火神君は、庇ってくれただけです。背中は不可抗力ですよ』
「診せて。……軽い打ち身みたいね。後で湿布貼っておくといいと思うわ。部屋に戻ったら貼ってあげるわね」
『ありがとうございます』

「…それにしても、苗字さんは肌の色が白くて綺麗ね。羨ましいわ」
『リコさんも、スレンダーでスタイル良くて羨ましいです』
「そーよ!胸なんて、大きけりゃいいってもんじゃないわよねー!!」
『誰のことを言ってるんですか…?』

※※※

部屋に戻って、布団の中に潜り込んで、今日の事を色々と考える。

緑間君の気持ちが分からない。
何もなくて、あんな事する人じゃないのに。
私はそんな彼が怖くなって、彼の行為を拒絶してしまった。

どうして…こんな事になったんだろう…?

…でも、キスされたのは…イヤじゃなかった。
あんな状態でさえなければ…
この世界ではファーストキスだったけど。

(真太郎君…私は、真太郎君を…)
彼の最後に見せた、哀しそうな表情が私の頭の中を占めていた。
私は、彼を傷つけてしまったのだろうか?

どうしていいのか分からない。
私は、この気持ちをしまっておくつもりだったのに。
気付かない振りが出来ると思ったのに…!

混乱した気持ちを抱えたまま、私は眠りについた。


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