それから


Happy endは終わらない


夏合宿で色々と波乱があったが、お互いの思いが通じ合い、緑間真太郎と付き合う事になった。

…と言っても。
WCで打倒誠凛+優勝に燃えている秀徳バスケ部は、相変わらず厳しい練習を毎日している。
エースである真太郎は、それ以上に毎日ストイックで地道な練習をしている。

私も臨時マネージャーとは言え、その厳しい練習に毎日付き合っていたから、それだけでへとへと。
学生だから、夏休みの課題もあるし、勉強だって疎かには出来ない。
特に真太郎は真面目な努力家だ。
とてもお互いに、恋人としての付き合いなど考える事も出来なかった。

時々自分でも、あの夜の海の時間が夢だったんじゃないかとすら思ってしまう。

あー…そう言えば、真太郎とは一回もデートして無かったんじゃないか…?
青峰君とはデートしたっつーのに。解せぬ。

夏休みにデートくらいはしたいなー…
でも、真剣にやってる彼の邪魔にはなりたくない。

※※※

『はぁ〜』
休憩中の高尾君が絡んでくる。
「なーにリア充が溜息なんかついちゃってんのー?名前ちゃん?」
「和成君…いや…別に…」
頑張っている人を前に我儘なんか言えないよ。

「ふーん…」
彼は、私の顔をまじまじと見ている。
私はスポーツドリンクを口に含んだ。
「…もしかして…欲求不満??」
『ぶっっっ!!!げほごほっっ!!!』
「わりーわりーwwww」
高尾君は、むせた私の背をさすっている。

「二人とも、何をやっている」
真太郎が歩み寄って来た。
「何ってー、名前ちゃんが欲っー…ふがっ!」
私は高尾君の口にタオルを押し付ける。

『なっ…!何でもないからっっ!!』
「…名前、高尾には言えても、俺には言えない事なのか?」
言える訳ないじゃん!欲求不満だからデートして…なんて!!
『ホラ、休憩時間終わったよ!』
私は納得してない風の真太郎を追い立てる。

…何だか、以前とどこが変わったのか…よく分からないな。
真太郎とはキスまでした仲だって言うのに…

大きなものを手に入れたというのに、次が欲しい、なんて。
どんどん欲張りに我儘になってしまうなんて…
心が通じ合ってるのに、寂しくなって…証しが欲しい、なんて。

…言えないよ……

※※※

練習が終わって、帰る支度をして部室を出たら、真太郎が声をかけて来た。
「名前…一緒に帰るのだよ」
『うん…』

帰り道、一緒に歩いているだけなのに、何故か緊張する…
ドキドキで胸が一杯になって、上手く言葉が出て来ない。

「………」
『………』
無言が続くなぁ。何か…話したいけど何を話せばいいのか…

「…名前」
『何?真太郎…?』
「あーその……デ…」
『???』

「デー…DOMS…は大丈夫なのか?」
『ディー…は!?』
DOMS=[delayed onset muscle soreness]→遅発性筋肉痛
だから普通に日本語で言えって!w

「…名前は元々運動部ではないから、連日のマネージャーの仕事で身体が辛いのではないかと思ってな…」
と、言いながら彼は眼鏡のブリッジを上げる。
『うーん…始めは少し辛かったけど、最近は慣れてきたかな…選手ほど大変な事してる訳じゃないからね!』
「それなら良かったのだよ。辛くなったら言うのだよ」
『うん、気を使ってくれてありがとう!』
「俺はお前の彼氏だからな。当然の事なのだよ」

彼氏…
この言葉だけで舞い上がりそうになってしまう。…なんて安いんだ自分!!

気が付いたら分かれ道に来ていた。

『じゃあ真太郎、また明日ね!』
「ああ…」

次の日もまた次の日も、秀徳バスケ部では、相変わらず厳しい練習が続いた。
私は、毎日真太郎と帰っている。
高尾君は、空気を読んで遠慮してくれてるみたい…何だか…悪いな…

しかし、最近その帰途で気になる事が。
大した会話は、相変わらずお互いに出来てはいない。
でも、真太郎が何か言いたそうなのに、言いあぐねているみたいなのだ。

何だろう…?
何か…私への要望か不満なんだろうか?
…まさか、別れ話じゃないよね!?
バスケで大変だから、それどころじゃないとか!?
それともやっぱり合わないとか!?

やだ…考えただけでも涙が出てしまう。
いくら何でも、まだせいぜい一週間程度で別れ話とか早過ぎっしょ!!?

※※※

「なんかさぁー…名前ちゃん、元気なくね?」
高尾君が心配そうに私の顔を覗き込む。
「…名前、具合でも悪いのか?」
『…ううん。大丈夫』

真太郎が私の頭をくしゃりと撫でた。
「…あまり大丈夫には見えないのだよ…疲れたら無理をするな」

真太郎はやっぱり優しい。


「真ちゃんさぁ…名前ちゃんと最近どう?」
「何がなのだよ?」
「あれは、身体の問題じゃない様な気がするんだよねー…いっその事、二人でどこかへ遊びに行ったらいいんじゃね?」
「毎日の部活で大変なのに、これ以上名前に負担かけられる訳がないだろう」
「でもさー、名前ちゃん青峰とはデートしているのに、真ちゃんとは一回もしてなくね?」
「さっ…誘える様なら、こんなに苦労はしてないのだよ!!」
「…真ちゃんのヘタレ」
「なっ…何だとー!!!?」

…何だか真太郎と高尾君がごちゃごちゃ言い合いしてて、宮路さんに怒鳴られてる…
(↑よく聞こえてない名前)

あ、蟹座のラッキーアイテム、メガホンで叩かれてら。痛そ。

そー言えば、今日のおは朝、蟹座は何だっけ? 恋愛運は良かった様な。
[言いたい事は溜めないで!]だっけ?…アレ?彼も私も同じ蟹座なんだったよね。なら、それは言った方がいいのかな?
真太郎も私に言いたくて、言えない事がある…のかな…?

※※※

練習が終わってから、私はやはり真太郎と一緒に帰った。
分かれ道に来て、いつもの様に別れの挨拶をする…こともなく、真太郎は押し黙ったままだった。

『………?』
様子がおかしいので、私は暫く無言で待った。
真太郎は、暫く躊躇った後に、やっと口を開いた。
「名前…折り入って話があるのだよ」

折り入っての話だって…!?
これは、やっぱり別れ話か!?
私は一歩後退った。
「俺は名前、お前と…」

やだ!!それ以上聞きたくないっっ!!!
私は耳を塞いだ。
「何で耳を塞ぐのだよ!?」
『別れ話なんか聞きたくないもんっっ!!!』
「別れ…!?違う!俺の話を聞け!!!」

真太郎は、私の耳に当てた腕を掴み、メガホンを口に当てるとスイッチを入れた。
《名前!お、俺とデッ…デートをするのだよー!!!》

キーーーーン

へっ…!?
私はきょとんとした。
《全く、名前は早とちりし過ぎなのだよ!!!俺は絶対にお前とは別れん!!!》

私は真っ赤になった。
だって夜だけど、そこそこ賑やかな通りで、周り中に響いちゃってますよこれ!?
私達、超注目されちゃってるし!!??
通行人達の中には、真太郎に声援を送る人までいる。
「兄ちゃーん、頑張れーーー!!」「ぃよっ!漢(おとこ)だねぇっっ!!!」

『ちょっ…!!スイッチ切ってよ!!!恥ずかしい!…近所迷惑だし!!』
「む…?お前が聞かないからだろう」
『聞こえたからっ!!』

………? 真太郎はまだ仏頂面だ。
『…なに?真太郎?』
「なに?ではないのだよ!…返事は?」
えっ?……ああっっ!!!?そうだよ、私、返事してなかった!!!
…あまりにも、嬉しい言葉がびっくりな形で伝えられたから、諸々吹っ飛んでしまった。

私は真太郎に抱き付いた。
『嬉しい!!ありがとう、真太郎!!』
途端に、どっと沸く周りの人達。
口笛や拍手の音まで聞こえる。
「若いもんはいいねぇー」「リア充爆発しろー!」「おめでとー!上手くやれよー!!」

真太郎は私を抱きしめ、頭を撫でてくれた。
彼の顔を見上げたら、真太郎の顔も真っ赤になっていた。

「…今日は名前を家まで送るのだよ」

離れ難いのは私も同じ。
ぽつぽつと、今までの不安も二人で話しながら歩いて行く。
些細に見える小さな事でも、積み重なると大きくなる。
不安も悲しみも喜びも、二人で分け合って行けたら良いと思う。

そう、これから。
告って告られてのハッピーエンドだけでは終わらないのだから。


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