緑間君と猫
先生はぎょっとしていたけど、私が経緯を説明した。
猫は大人しくしているし、今日一日だけならとの許可を取った。
しかし、猫が気になっている生徒も多くて、教室中の空気は微妙に浮ついたものとなってしまった感は否めない。
休み時間になったら、他のクラスから噂を聞きつけた生徒達も見に来た。
猫にしては落ち着かない場所になってしまった。
ホイスカーズは、人に囲まれた私から逃げ出して、緑間君の足下で丸くなった。
猫って、「可愛い〜!!」って追っかけられるのが苦手な子が多いんだよね。
実は猫嫌いの(でも危害は加えない)人の傍に、そうと分って寄っていく傾向があったりする。
さすがに緑間君には、猫好きも人だかりする訳にはいかないらしい。
ホイスカーズも上手いこと防波堤を見付けたものだ。
高尾君は、そんな緑間君をニヤニヤしながら、からかっている。
「真ちゃーん、足下に猫いるよー。動いたら踏んじゃうよー」
「黙れ高尾」
緑間君は、手元の本を見ている…様に見えるけど、僅かに手が震えて、硬直している。
そんなにダメか。ダメなのか?
緑間君には気の毒だけど、私が拾い上げたら、また人に囲まれてしまう。
『ごめんね緑間君。その子、そこが良いらしくて…授業が始まる時間には回収するから』
「…早く回収して欲しいのだよ」
しかしホイスカーズは、私達の困惑を余所に、すっかり緑間君の足下が気に入った様子で、ゆったり寛いでいる。
授業始まる直前に、私が回収したら、緑間君は明らかにほっとした様子だった。
休み時間は、それでも席を立たずに、猫の防波堤となってくれていた。
「一応、ラッキーアイテムだからな」とか言っていたけど、やっぱり根は優しい人なんだよね。
※※※
昼休みには、屋上に連れて行き、水で薄めた牛乳をあげた。
人間のご飯は、塩分が多くてダメなんだよね。チーズは大丈夫かな?
後で子猫用のミルクを買わなくちゃ。
「あー!苗字ちゃんめっけ!!」
高尾君に見付かった。緑間君もいる。
『…なんで!?』
食事中に毛が飛ぶし…迷惑になるかと一人でここに来たのに。
「今日は一緒にいる様に、と言っただろう」
緑間君は、やや不機嫌そうに眼鏡を上げた。
結局、屋上で三人と一匹で、和やかにお昼ご飯を食べた。
「苗字ちゃんのお弁当、美味しそうだね!」
『ありがとう。これでも自分で作ったんだよ』
「えっ、マジ!?ちょっとこの卵焼き貰っていい?」
「高尾、行儀悪いのだよ!」
『いいよー。緑間君も良かったらどうぞ?』
「苗字……貰うのだよ」
「美味しいわー!苗字ちゃん、料理上手いね!」
「優しい味付けなのだよ」
『ありがとう。でも上手い程じゃないよ。凝った物までは作れないし…』
子猫は私の膝から降りると、緑間君の膝の上によじ登った。
『こら、ホイスカーズ!』
ああ…また緑間君が硬直している……
「真ちゃんの膝の上って、凄く居心地が良いんだろうな! ま、ラッキーアイテムに好かれたと思えばwww」
「……黙れ高尾!」
「真ちゃん、声震えてるぜ?」
高尾君は楽しくって仕方ないみたい。
そんな和やかで賑やかな昼の時間は過ぎていった。
※※※
そして放課後。
私は一応、美術部に属している。
けど今日は、男子バスケ部に行かなくてはならない。
私は、ホイスカーズを抱えて、緑間君と高尾君と一緒に体育館に向かった。
中庭歩いている途中、ホイスカーズは私の腕から飛び降りて、先頭を行く緑間君のズボンの裾を咥えて、後ろに引っ張った。
「こら!何をするのだよ!?」
『ホイスカーズ、やめなさい!』
その時、緑間君の頭を掠めて、ガラスの鉢が落ちて砕けた。
「真ちゃん!!!?」
高尾君の切羽詰まった声。
上を見上げた。窓際に置いてあった物を、誤って落としてしまったらしい。
「…………」
緑間君は絶句して立ち尽くした。
「た…助かったのだよ……」
緑間君はしゃがみ込んで、恐る恐るホイスカーズに右手を差し伸べた。
ぺろり。
ホイスカーズは、指の匂いを嗅ぐと、ゆっくりと一舐めした。
緑間君は、安心した様に微笑んだ。指先で子猫の頭を撫でる。
ホイスカーズは、目を細めて気持ち良さそうにしている。
「苦手だなんて言って、悪かったのだよ…」
※※※
バスケ部では、監督に今日の我儘一回分の許可を貰った。
さすがに先輩達は、ラッキーアイテムが猫で、部外者の私ごと持って来たのには、びっくりしていたみたい。
大坪さんや、宮地さん、木村さん…先輩達が合間に猫を構ったり、練習を見ていた私にも色々と話しかけてくれた。
「緑間と高尾と同じクラスなんだってな?」
「あいつらどうよ? 緑間は特に我儘だから、巻き込まれて大変だろ? パイナップル貸すぞ?それとも軽トラで轢くか?」
『はい。(パイナップル…?…軽トラ…??)楽しいですよ。この猫に関しては、私の方が巻き込んだ口ですけど』
緑間君の3Pのシューティング練習、あまりの美しさに見ていて飽きない。
それどころか、食い入るように見入ってしまう。
バスケ、意外と楽しいわ。見ているだけだけど。
※※※
無事に練習が済んで。
三人+一匹と一緒に帰り道。
「名前ちゃん、バスケ部どうだった?」
『見ていて、とても面白かった! 先輩達も優しいし… 緑間君も高尾君も、練習している姿は格好良かったし!!』
「ホント!?嬉しいわ!」
高尾君にぎゅっと抱き付かれる。
『わっっ!?高尾君!?』
「高尾!!何しているのだよ!?離すのだよ!」
「和成って呼んで? 呼ばないと離してあげない!!」
『分かったから!!…和成君…離して?』
高尾君は、やっと離してくれた。
…は〜びっくりした。顔が熱い。
緑間君は、むっとしている。
「真ちゃん、男のやきもちはみっともないぜ?」
「やきもちなど誰が妬くか!!」
『高尾君、あまりからかっちゃダメだよ?』
「名前ちゃん…また抱きついて欲しい?」ちょっと意地悪そうな瞳で覗き込まれる。
『……!!和成君っっ!!!』往来では恥ずかしいからやめてください!
いきなり、後ろからぐいっと肩を掴まれた。
緑間君が私を引き寄せていた。
「真ちゃん、独占するのは無しだぜ?」
「お前が往来で破廉恥な真似をするからだ」
「全く、素直じゃないんだからなぁ。これだからツンデレはwww」
二人と一緒だと、とても賑やかだ。
途中、猫用製品諸々を購入するべくお店に立ち寄って。
緑間君の家まで、猫を持ってついて行こうか?と提案したんだけど、却下された。
順位が10位なのは、私も同じなのだからって。
本当に二人とも、紳士なんだよな。