それから


夏の波紋


HRを終えた時、私と真太郎は担任の先生に呼ばれた。

担任は神妙な面持ちで私達に告げた。
「苗字と緑間は、後で職員室まで来る様に」

私達は顔を見合わせた。
『…これって、やっぱりアレかな?』
「……多分、そうだろうな」

「そりゃなぁ。あれだけ派手にやらかしたんだ。当然先生方も黙ってはいないっしょw」
行ってらっしゃーい、とヒラヒラ手を振る高尾君を後にして、私達は職員室に向かった。

職員室では、担任の先生が難しい顔をして待っていた。
「…緑間、苗字、この秀徳高校では、特に男女交際を禁じてはいないが、その…テレビに出て、あの様な行為をするのは如何なものか。
特に君達は、成績優秀な模範生徒だし、学校としてもこのまま放置しておけないのだよ」

真太郎は動じなかった。
「あの事の責任は、全部俺にあります。元々、テレビには俺が苗字さんを強引に誘いました。ラッキーアイテムを手に入れる為です。
あそこまでテレビに映っていたとは想定外でした。軽率だと言われるのは覚悟していますが、俺は後悔はしていません」

真太郎…

私は真太郎の横顔を見上げた。
確かに私を引っ張って行ったのは真太郎だが、アレが映り込んでしまったのは私の失態だ。
彼ばかり咎められるのは避けたかった。

『あのっ…!映ってしまったのは、私が周りを確認もしないでやってしまった事です!軽率だったのは私の方です。緑間君には責任はありません!』

担任は顔を顰めた。
「特に緑間は成績優秀なスポーツ特待生だ。苗字も特待生ではないが、成績優秀で…中学の時には三科展に入賞もしたそうだね。
我が校としては、双方とも得難い生徒だ。交際には反対しないが、他の生徒達への模範になってもらわないと困るんだよ」
『…はい』
「……これから気を付ける様にします」

「バスケ部監督の中谷先生からも取り成していただいたが、高校生として相応しい交際をしなさい。私からは以上だ」


今日は始業式なので、部活は無い。
大騒ぎの一日を終えて、真太郎と私は一緒に帰路に着いた。

「昨日の一件が、ここまで波紋を広げるとは思っては無かったのだよ」
『やっぱりテレビって、情報拡散力が凄いんだねぇ』
私はしみじみと同意した。

『私は家族と一緒におは朝を観てたから、全員にアレ見られてしまったけど…そちらはどうだったの?』
「こっちも…俺がいつも観てるから、朝のチャンネルは合わせて貰ってるのだよ。当然家族は驚いていたな」
『あはは…w』
「笑い事ではないのだよ。母はお前を連れて来い、と大騒ぎだったんだからな」
『…真太郎は昨日私を送ってくれたから、私の家族は当然交際を知ってるし…
テレビには驚いたけど、納得した風だったね。真太郎が誠実そうだから許すって言われたもん』

真太郎は優しく笑みを閃かせた。
「それなら安心したのだよ。…足労をかけるが、今度の休日は、俺の家に来て欲しいのだよ」
『分かった。ご挨拶しに行くね』
「よろしく、なのだよ」

…別に交際してるだけで、婚約してる訳ではないけど…
それに近い気分だ。
真太郎は真面目な性分だから、もしかしたら…そこまで考えているのかもしれないのだけど。

※※※

次の日

昼休み、教室で、真太郎と高尾君との三人でお弁当を広げた。
高尾君は、真太郎のお弁当を何気なく覗き込んだ。

「ぶふぉっっ!!!」
高尾君は盛大に吹き出し、真太郎は呆然と開けた自分のお弁当を見つめて固まった。

真太郎のお弁当は、華やかだった。
いつもは普通のお弁当なのに…何なんだ?…これは??

ハート型に模ったお赤飯、塗された錦糸卵、栗の甘露煮、結び昆布、"寿"の字の入った紅白の蒲鉾、
そして…極め付けは鯛の塩焼きのお頭付きw

「凄っげえ!…まるで正月みてぇw!真ちゃんのお弁当、どーなってんの??」
高尾君の問いに、真太郎はやや困惑したようにため息を吐いた。
「…昨日の夜も、赤飯だったのだよ…」

……赤飯って。お祝い感満載だな。

「それって…もしかして…真ちゃんに彼女が出来たお祝い、とかだったりする訳?」
「そうだ。母が浮かれて大変だったのだよ」

浮かれていた分、私を見て失望とかしなければいいのだけど。
『…責任重大だよね、私』

真太郎は微かに笑って、私の頬を一撫でした。
「心配はいらない。名前には、俺が付いているのだよ」

真太郎の触れた頬が熱い。
私は、恥ずかしくなって俯いた。

「あのー…真ちゃん、俺もいるんだけど?」
「安心しろ。お前にはこんな事はしない」
「したら怖えよ!!そーゆーこっちゃねーっての!!!…ったく、いちゃつくなら二人きりの時にしてくれよな!」
「高尾が消えれば二人きりになれるのだよ」
「酷っでえ!!!名前ちゃん、真ちゃんが俺をイジメる!!!」

高尾君は泣き真似をして私にしがみ付き、真太郎はそんな高尾君を「高尾!名前に抱き付くのではないのだよ!!」
と言いながら、引き剥がしにかかった。
私は、高尾君を笑いながら慰め、真太郎を宥めた。

そんな風に大騒ぎをしながら、穏やかな昼休みは過ぎて行った。

※※※

そして約束の日
私は姿見の前で、服装と身だしなみをチェックしていた。

初めてご挨拶に行くんだ。
念には念を入れなきゃ。
私はクルリと一回りして最終チェックすると、気合いを入れて家を出た。

しかし。
私は、どうも自分の方向音痴っぷりを甘く見ていた様だ。
真太郎から前もって地図を渡され、迎えに行く、と言った気遣いを断ってしまった、先日の自分を殴りたい気分だ。

私はものの見事に道に迷っていた。
時間には余裕を持って出た筈だが、刻々と約束の時間は迫っている。
真太郎は真面目な分、時間に厳しいし…って事は、家族も恐らく同様だろう。初対面で遅刻なんてしたら最悪だ。

『こんなことになるのなら、前もってルート確認をしとけば良かった…』
後悔先に立たずだ。
私は観念して、真太郎に連絡を取ろうと携帯電話を取り出した。

しかし、いざ開いたら、電波の入りが悪い。
もう少し通信状況の良い場所を探して、私は歩き出した。


…やだなぁ。

道の先に柄の悪そうな若い男達が、行方を遮るかの様に屯っていた。

そのまま引き返そうか、と思ったけどここでUターンしたらあからさま過ぎる。
私は知らん振りして、突っ切ろうとした。

不意に、男達の一人が私の前に足を突き出した。
ガッ!
私は避け切れず、自らの足をぶつけてしまう。

『あっ…!』
「痛ってぇー!!」
足を出した男が大袈裟に痛がっている。

一人が私の腕を掴んだ。
「おい、お前。人の足を蹴っといて、謝りもしないのかよ!?」
『先に足を出したのは、そちらでしょ!?』
「へえ…見かけの割には気が強いな。でも、どーすんの?コレ」
男が足を出した男を指し示す。

「痛えよう、痛えよう」
男は足を押さえてわざとらしく呻いている。
「折れたかもしれねぇな…」
私は、電波状況を確認すると、そのまま先へと歩いた。
「てめぇ!! このままシカトする気か!?」
『何言ってんの。折れたなら、救急車を呼ばなきゃならないでしょ?』
「救急車だと!?」
『ついでにパトカーも呼ぶ?』
「てめぇ!!!」

奴らは、私を捕まえて、携帯電話を取り上げようとする。
私は、そうさせまいと身を翻して走り出した。
「捕まえろ!!!」

ああ、もうどうしよう!?
ただでさえ時間が無いのに、こんな連中に絡まれるなんてついてない。

私は慣れないヒールに足を縺れさせ、転んでしまった。携帯が手を離れて転がって行く。
しまった!!

携帯を掴もうとした私の手は空を切った。
連中の一人が、私の携帯を蹴飛ばして手の届かない場所まで転がす。

私は連中に抑え込まれてしまった。
複数の男達に掴まれて身動きが出来ない。

私は抱えられて引き摺られた。
「オラ、行くぞ」
『イヤッ!!離してよ!!!』
「大人しくしろっ!!」

その時、聞き覚えのある低い声がした。
「…てめぇら…何をやってやがる?」

そこに立っていたのは色黒の背の高い少年だった。
『大輝君!!?』

連中は気色ばんだ。「何だお前…?邪魔すんなよな!!」

青峰君は、すうと目を細めた。
「てめー等…こいつに何しちゃってんの?」
「この女が、こいつの足を蹴飛ばして謝りもしねーから、落とし前着けて貰うのよ」
「へえ…?落とし前、ねえ?」

青峰君は、ゆっくりと歩み寄って来た。
私は彼等の言い種に、腹を立てて反論する。
『何言ってんのよ!先に足を突き出して、私を転ばそうとしたくせに!』
彼等は、私を脅す様に、掴んだ手に力を込めた。
『…くっ!!』
私は痛みに顔を顰めた。

「こいつに蹴飛ばされて、俺は大怪我したんだぜ」
青峰君は、興味無さ気に鼻を鳴らした。「…ふうん」

そして彼等の一歩手前まで近付き…
「なら、ちゃんと大怪我してもらわないと、なっ!!!」

青峰君はその長い足を大きく払って、痛がっていた男を一気になぎ倒した。
「ぐわっっ!!!」
そして、私を彼等から易々と引き剥がし、腕を掴んで引き寄せた。
「嘘言ってんじゃねーよ!!!こいつをこんなにしやがって!
…てめーら、覚悟は出来てんだろうな?」
青峰君は、私を庇って前に出ながら、拳の関節を鳴らして恫喝した。

男共は一瞬怯んだが、多勢に無勢で勝てると思ったらしい。
私と青峰君を取り囲んだ。


勝負はすぐに決した。
青峰君は、私に「じっとしてろ。お前は動くな」と言い、
私を中心に、円を描くように動いて続け様に周りを薙ぎ倒した。

青峰君の緩急を付けた変幻自在の動きに、彼等は全く歯が立たなかった。

全員を地に這わしたのを見下ろしながら、首をこきこきと鳴らし、「何だ…もう終わりか?…口程にもねえ…」とつまらなそうに鼻を鳴らした。
そして、彼等に止めを刺すかの如くにゆっくりと足を進める。

男共は、青ざめながら「お…覚えていやがれ!!!」と、手垢の付いた負け犬の捨て台詞を投げつけて、動けない仲間を抱えて逃げ出した。


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