帰り道
緑間家へのご挨拶が何とか済んだ。
私は、真太郎に送られながら帰途に着いていた。
一回来る時に辿れたから大丈夫だと言ったけど、真太郎は聞かなかった。
…随分、心配をかけてしまったみたい。…要反省だな。
「名前、そんな顔をするな」
『…ごめんね、真太郎。初めての訪問なのに、遅刻した上に心配までかけてしまって…』
「名前が無事ならそれでいいのだよ。
最も名前が遅かったから、母は俺の彼女が実は、俺の妄想で架空の存在ではないかと随分気を揉んでたみたいだがな。
実在していると証明出来て何よりなのだよ」
『えええ〜…本当にごめんね!』って緑間家では、まさか私は珍獣扱いじゃなかろうな…?
『失礼してしまったのに、真太郎のご家族は皆優しくしてくれて…とても有難かった。お礼、伝えといてね』
「勿論だ。皆名前が気に入ったみたいなのだよ。俺もこれで母にせっつかれないで済む」
『…?』
「母からは、俺が勉強とバスケばかりで浮いた話に興味を持たなかったから、色々と言われていたのだよ。
『……不束者ですが、よろしくお願いします』
真太郎は柔らかく微笑んで、私の頭を撫ぜた。
真太郎の手には、今日の蟹座のラッキーアイテムの素焼きの埴輪がちょこんと乗せられている。
…何とも言えないポーズだよね、これ。
『…真太郎、その埴輪は本物?』
「勿論レプリカだ。流石に埴輪の本物は、そうそう売ってないのだよ」
『…随分精巧なレプリカよね。ちゃんと素焼きだし』
レプリカの埴輪も、そうそう売ってるとは思えないけどなぁ。
「可愛いだろう。埴輪だからハニーと言うのだよ」
『は、ハニー!??』
真太郎は、眼鏡を上げながら得意気に埴輪を掲げて見せた。
…真太郎のネーミングセンス、私やっぱり分からないや…w
「本当は、今日名前が来るから二つ用意するつもりだったんだが、生憎一つしか無くてな…土偶はあるが」
『い、いや…気持ちだけで十分だよ!』やっぱり土偶もあるのか…
埴輪持ったカップルの片割れになるまでは、私の覚悟はまだ固まってない。
いや、真太郎の事は大好きだけど!
途中、ストバスコートのある公園に差し掛かった。
突如、ゴン!!と鈍い音が響いたかと思うと、「火神君っ!!!」悲鳴の様な叫び声が聞こえた。
※※※
-火神side-
俺は、黒子とストバスコートで練習していた。
体育館だけでは、到底まだまだ練習が足りない。
青峰…絶対倒す!!!
ウィンターカップでは、今度こそ負ける訳にはいかないぜ!!!
俺は、夏休みの海合宿で緑間に悟らされた課題…空中戦で自在に動ける様に、左のハンドリングとゴールポスト前での練習に明け暮れた。
勿論、体力もまだまだ付けなきゃな!
今日は、黒子も付き合ってくれている。
俺は、いつもの様に、ゴールにダンクを叩き付けようと思い切り踏み切って跳んだ。
その時─俺の視界に入った緑色の髪…
(緑間!?)
あろう事か、俺の意識は一瞬だけ逸れた。
ゴン!!!
鈍い音と火花の散る様な衝撃と痛覚に全身を支配され─
俺の意識は瞬時に闇に沈んだ。
※※※
-名前side-
真太郎は、叫び声を聞いて立ち止まった。
「…黒子…?」
真太郎の頭上に落ちかかるのは、傾いたゴールポスト。
真太郎は叫び声の方に気を取られたのか、気付くのが少しだけ遅れた。
『真太郎!!危ないっっ!!!』
私は咄嗟に真太郎を全身の力で突き飛ばすと同時に、彼に身を投げる。
「名前っっ!!?」
真太郎は、慌てて私を引き寄せる。
けたたましい音を立てて、ゴールポストが倒れて来た。
ゴールポストは、たったさっきまで私達のいた場所を抉っていた。
幸いに、私達に怪我はなかった。
『真太郎、大丈夫?』
「名前こそ…俺を庇って…!無茶をするのではないのだよ!!怪我は無いか?」
『私は大丈夫…』
とは言ったものの、あまりの事態にまだ心臓がバクバクしている。
真太郎は、震える私を強く抱きしめた。
「俺を庇ってくれるのは有難いが、名前がその為に怪我でもしたら、俺は耐えられないのだよ。
…頼むから、もっと自分を大切にするのだよ」
『ありがとう、真太郎。でもね、私も真太郎が大切なんだよ』
「名前…」
しかし…今のは、一体どうしてゴールポストが倒れて来たんだろう?
私は、ストバスコートに目を向けた。
…誰か倒れているみたいだ。
「緑間君、苗字さん、すみません。お怪我はありませんか?」
気が付いたら、傍に黒子君が立っていた。
『黒子君!?』「黒子っ!!」
うわぁ。相変わらず気配がないなぁ。
「すみません。火神君とバスケしてて、火神君がダンクしようとして…思いっ切りぶつかった拍子にゴール倒してしまったみたいです」
『じゃあ、ひょっとして…あそこで倒れているのは…?』
「はい、火神君です」
ゴールポストに頭突きして倒すって…どれだけの強さで当たったんだよ?
『火神君は…倒すほど強く当たって頭大丈夫なの?』
「…さあ?どうでしょう?」
さあ?って…救急車呼ばなくて大丈夫なのかな。
黒子君は、火神君の容体を見ている。
「見た感じは、たん瘤が出来たくらいですね」
真太郎は火神君を睨んだ。
「全く…どんな当たりをしたら、ゴールポストが倒れるのだよ!?
そのせいで、ラッキーアイテムのハニーが粉々になってしまったのだよ!!!」
黒子君は、小首を傾げた。
「ハニー…ですか?」
『埴輪のハニーちゃんね。まぁ、真太郎も許してあげてよ。埴輪は古来から人の身代わりとして作られていたんだから。
今回の事故で、私達の身代わりに壊れたんだよ、きっと』
「そう…だな。それなら仕方ないのだよ。後で欠片を集めて、墓を作って祭ってやろう」
私は、膝の上に火神君の頭を置き、濡らしたタオルを絞って、火神君の頭に当てた。
『後でちゃんと病院で検査して貰った方がいいよ。中が無事なのか分からないから』
「そうします。…苗字さん、緑間君と仲直り出来て良かったですね。
あれからどうなったのか…気になっていたのですが、テレビで一緒に映っていましたね」
『あー…あれね。あれは忘れて欲しいな。恥ずかしいから』
真太郎が不機嫌に割り込んだ。
「名前、俺と一緒で何が恥ずかしいのだよ!?」
「苗字さんが恥ずかしいと言ってるのは、二人のラブシーンが全国放送された事でしょう?」
『わーやめて〜それ言わないでっっ!!』
改めて他人の口から聞くと、目茶目茶恥ずかしいよ!
黒子君がぼそりと呟いた。「…残念です」
『…?何が?」
「いえ、何でもありません」
黒子君は儚げに微笑んだ。