美術部の事情
身体の傷も癒えた秋のある日、私は美術部に復帰する事になった。
とは言え、バスケ部のマネは辞めた訳では無い。
週二日、美術部に出る日以外は、バスケ部のマネに出る。
私は夏休み期間中は、バスケ部に忙殺されていたので、美術部の合宿には出られなかった。
だからその代わりに、夏休み明けに一枚の絵を課題として提出する様に求められた。
私は、以前家族旅行で撮った風景写真を元に、水彩画を描いて提出した。
しかし本来、文化祭で美術室を飾る筈のその絵は、いつの間にかエントランスホールの一角に掛けられていた。
私は今、その絵を前にして、頭を悩ませていた。
『これって、どう見ても私が美術部に出した絵…だよなぁ?
…何でこんな所に掛けられているの???』
「よぉ名前ちゃん♪何してんのー?」
陽気な声と同時に、肩に重みがのしかかる。
振り返らなくても、高尾君だって分かってる。
それと続いて、緑間真太郎…不機嫌な彼の声も聞こえた。
「高尾!!名前は俺の彼女なのだよ。気安く触れるな!」
『真太郎…』
真太郎は、私の前に飾ってある絵に目を止める。
「…む…それは、お前の描いた絵だな。…透明感のある、美しい色彩なのだよ」
よく一目で分かったなー。
『ありがとー。でも、これって、文化祭展示用に描いた絵なんだよねぇ。
ここで展示されちゃている経緯は分からないけど、まさかまた一枚別に描け、とか言われたらどうしようかと。
…バスケ部の方でもウィンターカップあって忙しいのに…』
私の零した言葉を聞いて、真太郎は片眉を上げた。
「名前は、確か…今日は美術部に出る日だったな」
「真ちゃんさぁ、名前ちゃんがバスケ部に出ない日は、機嫌が悪くて大変なんだよなぁ」
「黙れ高尾!…俺の我儘の権利を使って、美術部の先輩に交渉してもらうのだよ」
いやいや…それは流石に悪いだろ。
『ううん。後で私が先輩に確認してみる。どうしても、って事になるなら、真太郎にもお願いするかもしれないけど』
「何かあったら、すぐ俺を頼るのだよ」
『うん。ありがとうね、真太郎!』
その後、私が美術部の部長に問い質した所によると。
どうやら理事長が、私が中学の時に三科展に入賞した事を知り、興味を持ったらしい。
その私の描いた絵を見て、気に入られた結果、エントランスに掛けろ、と言う事になったとか。
当事者の承諾を取らないって、どーゆー事よ?
幸いにも、私のノルマは増やされず、そのままカウントされる事になった。
それも、先に大坪先輩が手を回してくれたらしい。感謝!
※※※
今日はバスケ部に出る日。
真太郎と私は一緒に教室を出る。
真太郎は、私の手をキュッと握った。そのまま指を絡める。
『真太郎…?』
真太郎は低く囁く様に言う。
「名前…体育館に着くまで…こうしているのだよ」
『う、うん』
どうしたんだろ?…最近、スキンシップが多いな。
手から伝わる真太郎の熱に、私もドキドキする。
互いの体温が溶け合って、気持ちいい。
体育館に着いた。
名残惜しく互いの手を離した時、木村先輩から声をかけられた。
「よう緑間!今日は早いな。苗字も一緒か」
今日は早い…?
真太郎は、いつも同じ時間位には教室を出ている筈だけど…?
私が不思議に思っていると、高尾君も会話に加わる。
「あーそれは、今日は名前ちゃんがこっちに出るからっしょw」
からかう様な口調に、真太郎が咎める。「高尾っ!!」
『どう言う事…?』
「最近、真ちゃんは、名前ちゃんが出ない時は、エントランスホールの絵を暫く眺めてから行くんすよ」
高尾君の言葉に思わず真太郎を見上げると、真太郎はついと顔を逸らした。…耳が赤い。
「エントランスホールの絵って何だ?」
宮地先輩の疑問に高尾君が答える。
「その絵は名前ちゃんの力作で…」
「それで最近ギリギリで重役出勤なのか。轢くぞ」
宮地先輩が真太郎を睨んだ。
「苗字、お前も美術部なんかに出てんじゃねーよ。お前がいないと緑間が面倒なんだよ。
せめて、ウィンターカップが終わるまではバスケ部優先で行け」
『そんな…!文化祭も11月頭なんですよ。終わってしまいますよ!』
「美術部ごと轢くぞ!?」
『そんなご無体なっ!』
「まぁ、そう言ってやるな」
苦笑気味の大坪先輩が宥めた。
「元々、無理を言って頼んだのはこっちだ。こっちからも美術部部長に話は通してある」
『お陰で、便宜を図って貰えました。ありがとうございました』
「おお、少しでも負担が減ったなら良かった」
優しいな…大坪先輩は男前だ。
そう言えば、と私は思い出した疑問を真太郎に出してみる。
『真太郎、あれ、一目でよく私の絵って分かったね?』
それに真太郎は当然だと答える。
「名前の絵は、中学の時から見ているからな」
『ああ…中学の時、新着図書のポスターを譲った事があったよね』
「……あれは、大切に取ってあるのだよ。三科展にも行ったしな」
『えっ!?行ったの!!??』赤司君だけじゃなくて、真太郎も行ったのか。
それに高尾君が説明を加える。
「真ちゃんは、名前ちゃんの絵の大ファンなんだぜ♪
名前ちゃんのポスター、飾りたいけど色褪せるからって、大切にファイルに入れてあるんだよな。
時々出して眺めているの、知ってんぞw」
「高尾!余計な事言うな!!」
そのやり取りに私は顔を赤らめた。
どうしよう。凄く嬉しい。
真っ赤になって、互いに顔を背けた私と真太郎を見た宮地先輩は舌打ちした。
「ちっ!リア充が!!木村、軽トラ貸してくれ!!」
「おう!すぐに持って来れんぞwwおまけに出血破格大サービスで、ドリアンもつけてやる!!」
『ちょっ!?…ドリアンはイヤです!せめてドラゴンフルーツで!!?』
つか、ドリアンあるのか?木村青果店!??
「ドラゴンフルーツなんてマニアックな物はうちには無い!!」
『ドリアンがマニアックな物じゃないとでもっ!?』
「ぶっは!!ドリアンwww!?腹痛えwww先輩も名前ちゃん来ない時は、俺達に当りキツイのに、来たら来たでこれだもんなwwww」
高尾君は爆笑している。
私は賑やかなやり取りに混ざりながら、ウィンターカップの原作の件を思い出していた。
今度も誠凛と当たる。…そして、洛山にも。
…洛山の結果までは、途中までしか読んでないので分からないや。
私が美術部の時には、バスケ部には行けない。
でも、せめて…少しでも真太郎にエールが送れればいいな。
練習を始めた彼等を見ながら、私もマネージャーの仕事を始める。
いる時位は、少しでも役に立たないと。
そして、美術部の絵のテーマも自然と固まっていた。