調理実習の時間です
今日の家庭科は調理実習をやるらしい。
出席番号順でグループ分けするのかと思っていたんだけど、なんか一組だけ違うんだよね…
私は、緑間君と高尾君と一緒のグループにいた。
他には男子一人と女子二人。
私達以外は、割と大人しそうなメンバーだな。
今日のメニューは[スパゲッティーミートソースとサラダと南瓜のスープ]
高尾君が深刻そうな表情で、こそっと耳打ちして来た。
「名前ちゃん、真ちゃんの事は任せていい? 俺もフォローするからさ…」
『緑間君がどうかしたの?』
「…俺は料理が苦手なのだよ…」
緑間君は、いつになく打ち沈んでいる。
苦手な人って、他にもいそうだけどね?
『まぁ、何とかなるでしょ』
私のそんな気楽な考えを、ものの見事に緑間君は砕け散らかしてくれた。
緑間君は、包丁を逆手で持って、玉ねぎの上に振り下ろした!!!
玉ねぎは滑って吹っ飛び、ホワイトボードを直撃して倒し、まな板の上には突き刺さった包丁がそびえ立っていた。
しーーーん
調理室中が静まり返った。
…そうか…苦手のレベルも人それぞれだけど、これは中々教え甲斐がありそうなwww
「…す、すまないのだよ…」
『あはは。あー大丈夫、大丈夫だよ』と、軽く背中を叩き、落ち込んだ緑間君を宥める。
幸いにも、倒したホワイトボードの下敷きになった被害者とかはいなかったし。
包丁を引き抜くのは、ちょっと力がいったけど。
『そんな持ち方じゃ怪我するよ?こうね。』
持ち方を丁寧に教え、もう片方の手の先を丸める事も教える。
高尾君と女子一人はスープを。
他女子と男子一人はサラダ作りを頼んで、私達はスパゲッティーソースを作る事にする。
出来ないからってやらないと、いつまでたっても出来る様にはならないし、刃物は扱い方を知らないと、反って怪我するリスクが高くなる。
私は、玉ねぎを持って皮を剥く。
「それは俺がやろう」
『目に染みるよ?』
「何でもやってみるのだよ」
『うん!頑張ろうね!』
玉ねぎを緊張しながらゆっくり切っていく緑間君。
『そうそう、上手いね!』見ながら、横で私はニンニクと人参とセロリをみじん切りにする。
やはり、目に染みたのだろう。
緑間君は、手を止めて一旦眼鏡を外した。
『大丈夫? 少しかがんで?』
ハンカチを水に濡らして瞼に当ててやる。
「…少し楽になったのだよ。ありがとう」
どきりとする。
至近距離の裸眼で微笑まれるのは心臓に悪い。
フライパンを温めて、油を引いて。
緑間君は、おっかなびっくりみじん切りにした野菜を炒める。
『火加減は…少しだけ弱くした方がいいね。そうそう、それからひき肉を入れて一緒に炒める。よくほぐしてね』
私は、計っておいた赤ワインを渡し、それからトマト缶を開けて渡した。
更にローリエとブイヨンを投入して、弱火にして暫く煮る。
『味付けは最後ね』
「何故だ?」
『浸透圧の問題でね、最初に濃い味を付けると材料が水分を吸わないから、逆に水分を出して固くなっちゃうの。
柔らかく煮えないのよ。だから最後にコーティングする感じでいいの』
その間に、スパゲッティーの用意をしよう。
『スパゲッティーはタイミングが命だから、ソースと同時に仕上がる時間、食べる時間を逆算して茹でるのよ。
袋には茹でる時間が書いてあるから、確認してね。太さによって変わってくるから』
寸胴鍋に目一杯の水を入れて沸騰させて、塩を投入した後にパスタを放り込む。
「こっちは塩を先に入れるのか? しかも、そんなに沢山…」
『塩析の理屈で、パスタの蛋白質が溶解して、グルテンが出てコシが強くなるのと、お湯の沸点が高くなるのと、味付けの問題らしいよ』
「苗字の説明は分かりやすいのだよ」
スープを作りながら横で私達の会話を聞いてた高尾君は、
「…俺、調理実習しているのか、化学の実験をしているのか、分からなくなってきたわw」
とかぼやいていた。
最後に、味付けしたソースを味見する。
緑間君にも味見してもらう。
「…美味しいのだよ!」
『でしょ? やったね!!…最初の味付けは、薄めなくらいにしておいて。味は後から濃くする事が出来るからね』
携帯のキッチンタイマー機能で、完璧なタイミングでパスタを引き上げて、出来立てのソースに絡める。
※※※
実食の時間
『いただきまーす!』
サラダ、スープと食べていく。うん、とても美味しい!
『和成君、スープ美味しいよ!』
「俺、頑張ったっしょ?」
さて、スパゲッティーは…
「……これは俺が作ったのか…?」
『そうだよ! 大成功だね!』
ソースの味も、パスタの茹で具合も申し分なし。
「人事を尽くす事が出来たのは、お前のおかげなのだよ」
緑間君は、とても嬉しそうだった。