帝光編


Secret mission


帝光中学の初めての文化祭は、6月にあった。
入学してから、やっと色々と慣れ始めた時期。

私のクラスの出し物は[お化け屋敷]に決まった。

前日までは準備が大変だった。
私は、紙粘土製の生首に仕上げに絵具で血の色を付けながら、棺桶作っている黒子君に言う。

『黒子君は、幽霊役やるんでしょ?いきなり出て脅かすとか得意だよね!』
「…酷いです、苗字さん…でも、苗字さんも般若役ぴったりですね」
『…どう言う意味だコラ』
そのままその棺桶に突っ込んだろか?
「苗字さん…血だらけの生首持って睨まないでください。殺気が怖いです」

※※※

-文化祭当日-

私は、般若面を被って鬘を付けて着物を着ていた。
下からライトを照らすと、中々の迫力だ。

一方、黒子君は、シーツを被って脅かしている。
ただシーツを被っているだけなのに、気配がない所から出て行くから、かなり効果的に驚かせる事が出来る。

…何だか外が騒がしいな。

私は、戸を外して覆った暗幕をそっと退けて廊下を覗く。
そのまま出て、廊下の角から曲がり角の先を見る。

そして視界に飛び込んで来たのは、金髪のシャララ正統派美少年が、全速力でこちらに走って来ている光景だった。
あれは、モデルで最近デビューして大人気の黄瀬涼太だ。

後からは、女の子の集団が黄色い声を上げて、彼に追いすがる。
「黄瀬くーん!!」
「私と一緒に周るのよねー!!」
「何言ってるの、私と約束したのよ!」
「私だって約束したんだから!!」

「えっ…皆一緒じゃダメっすか?」
「ダメに決まってんでしょ!!誰を選ぶの!?」

…良く見ると、他校生も社会人も交じっているじゃん…
仕事が人気商売と言え、八方美人過ぎるだろ。

私は溜息を吐いて、そのまま回れ右して教室に戻ろうとしたら、角を曲がって来た黄瀬君に、いきなり後から両肩を掴まれた。
私は思わず振り向いた。

黄瀬君は、私のお面を見て一瞬ぎょっとしたが、それ以上に必死だったらしい。
「すみません、匿ってくださいっス!!」
『……』
「…あの…?わっっ!!」
私は無言で黄瀬君の腕を掴み、有無を言わさず暗幕の中に放り込んだ。

外では、黄瀬君を見失った女の子達が狼狽えている。
「キセリョ、どこに行ったの!?」

私は、般若面を外して暗幕の中から外に向かって叫んだ。
『あっちの階段よ!上に行ったわ!!』
「階段ね!!」
「私が先よ!」「私よ!!!」

争う様な女の子達の足音が遠ざかって行った。

私は再び仮面を装着した。

「ありがとっス…助かった〜」
『いえ…では』
私は軽く会釈して、再び担当場所に戻ろうとした。
が、黄瀬君はそんな私の手を掴んだ。

『何ですか?もう、女の子達は行きましたよ』
「名前教えて欲しいっス!…いや、そのお面取って顔を見せてくださいっス!!!」
…また厄介な事になってしまった。

『はぁ!?私が誰だっていいじゃないですか。助かったんだから、それでいいでしょ?』
「良くないっス!恩人くらいは覚えておきたいっス!!」

ただ仲良くなるだけならいいけど、それで黄瀬ファンに絡まれるのは避けたい。
『離してください』
私は手を掴まれたまま身を引いた。
「それは聞けないっス!」
黄瀬君は、逆に私の手首を自らの後ろに思いっきり引いた。

私は勢いによろけて、黄瀬君にぶつかった。
彼はそのまま腕を回して私を抱きしめる。
『………!!!』
いきなりの抱擁に、私は心臓が跳ね上がった。

『あのっ!!』体温が布越しに伝わって来る。

「…名前、教えてくれたら離してあげるっス」
『そんな…!』
初対面の般若面の女を抱きしめるとか、物好きにも程があるだろ…!?
「教えてくれないのなら、この仮面を外すっスよ?」
黄瀬君は悪戯っぽく微笑み、私をがっちりと抱きしめたまま、般若面をずらそうとした。

うわ止めろ! 仮面を取った女戦士の顔を見た男を、殺すか愛するかの二択…なんて某少年漫画のネタが頭の片隅を走って行く。
こいつマジで「愛する方で宜しくっス!」とか言いそうwww…コロス!

そんな時、不意に目の前にふわりと白い影が浮かんだ。
「般若さん」
「うわぁっ!!!」
黄瀬君は、驚いて腕を緩めた。
私は、その隙に彼の腕から抜け出た。

「お取込み中にすみませんが、般若さんはまだ当番中なので、こちらに返してください」
シーツ被った姿の黒子君だ。助かった…

私は受け持ちの場所に戻ったが、後で黄瀬君が探しているとの情報を聞き、別の役の男子と交替した。
それにしても、一体何だったんた? あれは…?

※※※

-三年後-

私は、マジバで黒子君と偶然に会って同席していた。
黒子君は、相変わらずバニラシェイクがお気に入りだ。

「あ、黒子っち!!名前っちも!?」
店内に黄瀬君が入って来た。
「何か用ですか?黄瀬君」
「黒子っちは冷たいっス〜用が無かったら来ちゃいけないんスか?」
「僕は苗字さんと旧交を温めているんです。邪魔しないでいただけますか?」
「そう言えば、名前っちも帝光中なんスよね…」

黄瀬君は、何か思いついた様な表情をした。
「黒子っちは一年の時、文化祭でお化け屋敷をやったクラスだったんスよね?」
「…そうですね」
「その時、般若をした子を覚えていないっスか!?」
私はどきりとした。

「…般若…ですか?その人が何か?」
「……俺の初恋なんス」
黄瀬君は恥ずかしそうに俯いた。

は…初恋…だと!?
私はむせて咳き込んだ。

『ぶほごほっっ!!…般若って!?…変わった趣味ですね?』
「姿形は般若で怖かったっスけど、何の見返りも無く助けてくれて…一瞬だけ仮面を取った後ろ姿が凛としてて、とても恰好良かったんス。
……可憐で小さい身体だったっスけど、その背中が安心感があるって言うか…守りたくなるって言うか…」

成程得心した。…あれはそれでか。
つかマジか。あんなんで惚れられたのか。

黒子君はしれっと言った。
「…残念ですけど、三年も前の事なので、誰が何をやったかまでは覚えていません」
「…そう…っスよね…」
黄瀬君は、しょんぼりと肩を落とした。

それからも、三人で暫く帝光時代の思い出話をしていたが、黄瀬君はモデルの仕事が入ってるとの事で、先に抜けて行った。

黄瀬君の姿が見えなくなってから、黒子君はぼそりと呟いた。
「…あれって、苗字さんの事ですよね」
『黒子君…やっぱり覚えていたのね?』
「勿論覚えていますよ。持ち場に戻って来ないので探しに行ったら、黄瀬君に抱きしめられていて吃驚したので」

あまり吃驚した様には見えなかったけどね。
やはりこの子は表情が読み辛い。
『…忘れてよ…』
今思い出しても恥ずかしいんだから。

「黄瀬君に告げなくてもいいんですか?」
『…初恋ったって、三年も昔の事だよ?黄瀬君は思い出を美化しているだけだよ』
「…そう…ですかね?」
(今でも苗字さんの事を好きだと思いますけどねー…僕も同じなので、気持ちはよく分かるのですよ…)

黒子君の呟きは、あまりにも微かだったので、私の耳に届く事はなかった。


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