帝光編


灰色と危険な昼休み


(*灰崎、酷い目に遭います。あと、名前呼びが少ないです)

※※※

…あれ?
廊下にハート型の小銭入れが落ちている。
拾って中を開けてみたら、666円入っていた。
『誰のだろ?』
666とかオーメンかよ。…なんか、猟奇じみてんな。
まぁいいや。後で職員室に届けてやろうっと。
それよりも、今はご飯だ、ご飯♪

今日の昼休み、私はお弁当を持って屋上に向かった。

いつもは友人達と食堂や教室で一緒に食べるし、一人で屋上で食べるとかしないけど、今日はちょっとした訳がある。
『食後のデザートも作ったからなー♪』

あの、お菓子好きの巨人に察知されない為に、いつも昼休みは閑散としている屋上に一人で来たのだ。

私は階段室の上に上った。
ここなら、風も良く通って気持ちがいい。
『あー…気持ちいい〜。…いただきまーす!』
私は横にペットボトルを置き、弁当箱の包みを開けて、食べだした。

食べだして暫くしてから、また誰かが屋上に出て来た。
男女生徒が二人。

私は下の二人に構う事なく、自作のお弁当に舌鼓を打っていた。
うん、良く出来ている。
筍ご飯も、鮭のパン粉包み焼きも、豚肉のインゲン巻きもとても美味しい。

下にいる二人は、何やら不穏な様子で口論している。

「別れるって、どーゆー事よ!?祥吾君!!」
「うるせーなぁ。もう、お前の身体に飽きたんだよ」
「飽きたって…!? 酷くない!?アンタ、私の身体だけが目当てだったの!?」
「たりめーじゃんwwお前なんか、他にどんな取り柄があるってんだよwww
…ま、お前のお陰で、涼太のヤツに一泡吹かせてやったのは痛快だったけどなーwwwww」
「最っ低…!!!涼太君より、アンタを選んだ私の立場はどうなるの!?」
「最低なのは、お前の方だろ?負け犬のリョータ君フッて、好きで俺を選んだんじゃんw
身体だけの関係ったって、お前も十分楽しんだだろ? そんなお前の立場とか知るかよwww」
「このっっ!」

女生徒はかっとして、男子生徒に手を上げたが、余裕で手首を掴まれてしまった。
「痛っっ!離しなさいよ!」
「お前なんか、最初からお呼びじゃねーんだよ!いつもくだらねぇ自慢話ばかり。身体に飽きたら、もう取るとこねーだろ?」
言いながら、彼女の腕を捻り上げる。
力加減をしているのだろうか?…そのまま力を入れれば、女の細腕は折れてしまう。

食べ終わった私は、辺りを片付けつつ、上からちらりと覗いた。
…が、ついうっかり、端に置いているペットボトルを、引っかけて落してしまう。

バシャー

『…あ』

しまった!
ペットボトルの蓋の閉めが甘かった…と言うより、蓋を乗せただけの状態だったのをコロッと忘れていた。

「…てめぇ。…何しやがる」
思いっきり下から睨まれた。

こいつ…灰崎祥吾だ。
バスケ部のスタメンだが、色々と悪い噂で有名な。
よりによって、こんなヤツにかかるなんて。

ペットボトル内の水の残りは、全て彼の頭にかかっていた。

私は慌てて荷物抱えて下に降りる。
『…ご、ゴメンね!?つい、腕に引っかけちゃったんで!』
横で彼女の方は腹を抱えて笑っている。
「やっだーww祥吾びしょ濡れwwwダッサーい〜!」

灰崎君は、彼女を殴ろうと手を上げたが、もう彼女の方は逃げ出していた。
そして彼は足を止めると、私の顔をまじまじと見た。
「お前…案外、可愛い顔をしてんな。…名前はなんてーんだ?」

私はその言葉に危険を感じて引きつり、誤魔化し笑いをしてじりっと下がる。
『えっ…いやー、別に名乗る程の者ではありませんよ』
入口のドアが開けっ放しなのを横目で確認すると、一気にドアまでダッシュする。

「待てコラ!!」

水も滴る悪い男こと灰崎君は、即座に追いかけようとした。
彼も帝光のバスケ部のスタメン、逃げた私を捕まえる事など、造作もない事だ…本来なら。

しかし、足下が些か不注意になっていたらしい。
私が引っかけて落としたペットボトルを踏んづけて、思いっきり後ろに転んだ。
「どわっ!!!」

私は後ろに構う事なく、飛ぶように階段を駆け下りた。

それでも、彼は追って来た。
『ううっ…どーしよー!?やばいやばい!!』

所詮非運動部の私と、バスケ部の灰崎君。
いつかは捕まるのは目に見えている。
さっきの女生徒とのやり取りでも分かる様に、あんな男に捕まったら何されるか分からない。
今までは関わる事もなかったのに。

※※※

しかし、私は何だかんだで逃げる事が出来ていた。
何故なら、私が捕まりそうになる度、不思議と邪魔が入って来るのだ。
大荷物持った生徒とぶつかったり、灰崎君がパン袋踏んで足を滑らせたり。

今日は私の運が良い日なのか…?
でも、真に運が良いなら、そもそも灰崎とは出会う事はない…のでは?
おは朝とか、特にチェックして来なかったし。

食堂の近くを通りがかった。
まだ昼休みだから、生徒達でごった返している。
私は、そろそろ息が切れかけていた。

『わ!また来た!!しつこい男は嫌われるぞー!!!』
「人に水かけておきながら、その言いぐさは何だ!?」
『だから謝ったじゃん!』
「誠意が足りねえって言ってんだよ!!」
『被ったのただの水だし、走っているうちにもう乾いて来てるじゃん!どーすりゃいいのよ!?』
「俺の女になれ!」
『誠意を持って、お断りしまーすっっ!!!』
「そんな所で誠意使うんじゃねー!」

周りの生徒達は、そんな私達のやり取りしながらの追っかけっこを呆然として見ている。…誰か助けろよ!!!

贅沢は言わない。
白馬に乗った王子様とか、見目麗しい男子が颯爽と現れて、こんな不良を叩きのめして私を救ってください!!!

また彼が背後に迫る。もう…捕まるかも?と思ったその時、

がこっ!
ドシャーン!!!

灰崎君が、入り口の段差に足を引っ掛けて、飲み物の自販機に顔から突っ込んでいた。
衝撃で口が開いて、お汁粉の缶が一缶、転がり落ちる。
いいなー…お汁粉、只でゲット出来て。ちょっぴりだけ羨ましいと思わない事もない。

………どうやら、私にとっての「白馬の王子様」は、ここの段差と自販機らしいw
イケメン男子じゃなくて少し残念だけど、感謝はしておこう。ありがとう段差!

それでも、めげずに灰崎君復活!…ぶつけた額が痛そうだけど、恐るべき回復力だ。

私は食堂の中を駆け抜け、配膳室の横を通り過ぎた。
私を追って来た灰崎君の前に、突如ドアが開き、給食用カートを押して出て来た人とぶつかった。
「キャー!!」「うおっ!?」ガシャーン!! 後ろで悲鳴と破砕音が交錯する。
チラリと後ろを確認したら、スパゲッティ・ペペロンチーノを頭から被ってドロドロになってた灰崎君が目に入った。

ニンニク臭っさ!!…水被ったどころの騒ぎではないぞ!?…あれは。唐辛子や胡椒が目に入ったら、痛くて暫く目が明けられないぞ?
でも、ぶつかった相手は、ごついオバちゃんだから心配はしなくても大丈夫か。灰崎君、走るなって叱られてるし。

しかし、彼が転んだりぶつかったりする程に、明らかに私への怒りが増してきているのが困る。
彼が早々に私を追うのを諦めていれば、こんな事態にはならなかったものを。

※※※

私は、図書室で息を潜めていた。
いい加減、走り続ける体力が尽きていたから、ここで休もうと思った。
隠れんぼで休み時間中に見付からなかったら、彼も諦めるだろう。

誰もいないと思っていた図書室。

誰かの話し声がぼそぼと聞こえてきた。
「…ずっと探しているのだが、見付からなくて困っているのだよ」
「確か…小銭入れでしたね」
「そう。今日の蟹座のラッキーナンバーは6。なので、666円分の硬貨を入れておいたのだよ。
今日の蟹座はトラブルに巻き込まれやすい運勢だと、おは朝が…」

うん?
666円???

何だろう?…どこかで覚えがある…様な??
何か引っかかる。が、どうしても思い出せない。

私が息を整えていると、すぐ横から声がかかった。
「苗字さん。どうしたんですか?」
『うわっ!?黒子君!!』

すぐ横に黒子君が立っていて、書架の間の床に座り込んだ私を覗き込んでいた。
「汗だくですね。ランニングでもしていたんですか?」
『ああ…うん。似たようなもんだよ』

私は、手短に訳を話した。
「…そうでしたか。灰崎君にも困ったもんですね」
彼は溜息を吐いた。
「虹村先輩か赤司君でもいれば、彼を掣肘出来るのですけどね。…どっちかに相談してきますね」
『ありがとう黒子君!…ゴメンね!』

黒子君は、私のいる場所から外れて、カウンターの方へ歩いて行った。
私は安堵の息を吐いた。

暫く休んでいる内に、昼休みの終わりを告げるチャイム音が鳴り響いた。
私はトイレに寄って洗面台で顔を洗ってから、教室に向かって歩き、無事に教室に着いた時に、やっと安堵の息を吐いた。


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