紫の旋風
☆ネタバレ注意!!公式小説[Welcome to 帝光祭]より引用あり(*〜*)
※※※
私は少し低くした作り声で応対した。
『…分かりました。では、何を占いますか?』
「えー…どーしよっかなぁ?…やっぱり恋占いがいいなー♪ミドリンには無理だしね!!」
「何っ!?聞き捨てならないのだよ!!俺に見通せない事があるなど!!」
私は、二人のやり取りは聞き流し、カードを切って古代ケルト式と言われる方式で並べていく。
実際には、タロットカードを並べる事は、そう難しいものではない。
ただ、解釈が難解なのである。
並べた位置によって鑑みなければならないし、カードは大体逆さだと意味がまるで変ってしまうし、
小アルカナまで含めると、カードの意味を覚えるのも一苦労する。
それに、カードの絵に含まれる隠喩的な意味も読み取らなければならない。
けど、桃井さんの恋については、私の知りうる限りの事をオブラートに包んで表現をすれば良い。
カードを並べて見せたのは、早い話がはったりである。
『…貴女には好きな人がいますね…優しくて…控え目で…気配りの出来る努力家の男性…同い年ですね』
「そうなの!!貴女には分かるのねっ!?彼の方はどう思っているのかなぁ…?」
『そう…ですね。今は良いお友達…で、かけがえのない仲間…』
「そう…か。そうだよね…」
彼女は寂しそうに俯く。
『…でも、近いうちに、彼と更に近づけるチャンスが来るとの暗示があります。…努力次第ですね』
「えっ!?…そう言えば…!」
彼女には思い当たる節があったらしく、顔をぱっと輝かせた。
「凄い!当たってる!!…貴女の名前は何て言うの!?」
『えっ…(今は本名は名乗れない…)えと、マ…マーリン』
私は、咄嗟に頭に浮かんだ、有名な魔法使いの名前を出した。
「マーリンね!ありがとう!!私、頑張るね!」
桃井さんは満足そうに、スキップしながら出て行った。
そんな桃井さんを見送りながら、緑間君は私に尋ねる。
「マーリンは、星座は何なのだよ?」
『……蟹座、です』
「…お前もか。今日は、蟹座は牡牛座に関わると碌な事にならないのだよ。お前も[おは朝]を見るといいのだよ」
緑間君の忠告は本当になった。
桃井さんが「占い研究会のマーリンの占いは凄く当たる!」と言い触らしたせいで、私の前だけに、沢山の人が列を作る事になった。
『はぁ…』
やっと行列が途切れて私は机に突っ伏した。
「だから言わん事ではないのだよ」
緑間君は、法螺貝を弄びながら、そんな私を横目で見やる。
…今度から[おは朝]をちゃんと見よう…
でも法螺貝は持って行かないけどな!!!
緑間君は法螺貝をテーブルの上に置いた。
「…で、マーリンの本名は何て言うのだよ?」
『あ、やっぱりバレていたか…』
「当然なのだよ。最近は変わった名前は数多いが、マーリンと言えば、まずはアーサー王伝説に出て来る魔法使いの名前なのだよ。
場所柄で付けた偽名の可能性が高い」
どーしよーかなぁ…
紫原君の依頼に対しては、口止めしておけるかな?
キセキの中でも、緑間君は頭は良いけど、とびきりの変人だ。
それだけに、近付いたらどうなるのか…ちょっと想像がつかない。
赤司君と紫原君だけでもアレなのに…
私が少し躊躇っていると、桃井さんと黒子君が入って来た。
緑間君の意識が逸れる。
*「黒子と桃井か。何か用があるのか」
「ミドリン、あのね…」
桃井さんは緑間君に近付いて来る。
緑間君は露骨に顔を顰めた。
「なんだ?今日はお前には関わりたくないのだが」
「うん、そうだよね……」
桃井さんはちらりと後ろを見た。その視線の先には黒子君が立っている。
「ミドリン、ごめん!」
と言うなり、桃井さんは緑間君の法螺貝を奪って、黒子君にパスをした。
「な、何をするのだよ!?桃井、返せ、黒子!!!」
「緑間君、これはいただいて行きます。返してほしかったら力ずくで取り返してください」
「黒子ーーーっっ!?」
緑間君は、黒子君を追って教室の外に走り出る。*
私は、緑間君の後ろ姿を見送って、息を吐いた。
『…助かったー…』と言いつつ、私は苦笑いした。
うわぁ黒子君ってば極悪w…緑間君、可哀想〜www
桃井さんと黒子君の事だ。
彼等が何の考えも無しに、緑間君のラッキーアイテムを奪うとか有り得ない。
あれには、きっと、何がしかの意味があるんだろうな…緑間君が納得するかは分からないけど。
取りあえず、私にとっては緑間君の追求を逃れる事が出来てラッキーだった。
照明は暗いし、フードを深く被っていて、声も作っていたから、彼には私が誰だか分からないに違いない。
私はコートを脱いで、清水君に返して教室から出た。
もう紫原君も撒いたし、緑間君が戻って来る前に、とっととここから離れてしまおう。
※※※
私は校舎を出て、教室のある棟まで歩いて行った。
第二体育館の近くの廊下を曲がったら、何か柔らかい大きな物体に正面からぶつかった。
『!?』
足下を見ると…そこには豪奢なドレスの裾が目に入った。
ま、まさか…これって。
私はいや〜な予感を抱えながら、ゆっくりと顔を上に向けて行く。
「綽名ちん、いた〜!」
『ひっ!!』
私は身体を離そうとしたが、紫の巨人に肩を掴まれてしまった。
「掴まえたー。ね、綽名ちん、クレープ焼いて〜引換券貰ったから〜」
『わ、分かったから離して!』私はもがいた。
「やだー。綽名ちん、逃げるからー」
と、言うなり、紫原君は、私をがっちりと小脇に抱えた。
そして、クリーミィ☆クレープを目指して疾走を開始した。
途中出くわした連中が、ぎょっとした顔で見ている。
ドレス姿の巨人が、小柄な女子生徒を小脇に抱えて学校内を爆走しているのだ。
異様にも程がある。
でも、その足を止めさせた存在がいた。
「何をしているんだい?紫原…そんな恰好で苗字さん抱えて…」
赤司君だった。
扇やら本やらDVDやら馬を模ったグッズやら…色々な物を抱えている。
「あれ〜赤ちんだー」
『…赤司君、それ何?』
赤司君はフッと笑みを零すと、何でもない事の様に言った。
「ああこれは、将棋部と囲碁部とチェス部とオセロ部で勝負した戦利品だよ」
『全制覇…』私は引きつりながら呟いた。
「当然の事だ。俺が負けるなんて、ありえない…で、君は紫原に何故抱えられてるのかな?…とうとうバスケ部に入る気になったのかい?」
『違います!…これは、紫原君にクレープを作る様に言われて…!』
「…へえ…?君は、紫原がここまで執着する程のお菓子が作れるのかい?…是非俺も、ご相伴に預かりたいものだね」
しまった!
かくして、私の逃走への希望は完全に絶たれた。
※※※
私は、仕方なく赤司君と紫原君を連れて、クレープ店に戻った。
周りの女生徒達は、二人の到着に歓声を上げて出迎えてくれた。
が、私はクレープ焼くところから給仕までさせられた。
赤司君は、優雅に食べながら「中々の腕だ。俺の家でお菓子を作る仕事をしてみる気はないかい?」と冗談交じりに褒められた。
…そして紫原君は、ドレス姿でクレープの皿をタワーの様に積み上げてた。
「ご飯が無ければ、クレープを食べればいいじゃな〜い!」と、言いながら。
クリーミィ☆クレープの周りには、彼等を一目見ようとギャラリーが押し寄せた。
そして結局、私はクレープ種が無くなるまで、クレープを彼の為に焼き続けた。
※※※
『ふー…』
二年の帝光祭は、何だか色々疲れた…
私は、新校舎の屋上から一人、ぼんやりと夕暮れに染まる空を眺めていた。
「はい、綽名ちん。あげるー」
横から差し出された物を見て、目を丸くする。
そこには、ドレスからやっと制服に着替えた紫原君の姿があった。
それは、[まいう棒・キャビアチーズ味]一袋。
新作で、口コミにより売り切れ続出、お目にかかれるのはツチノコ並に珍しい一品だ。
『…ありがとう…紫原君。つか、これ一袋も貰っていいの?』
「俺の分は、20袋買ったからー」
20袋…すげーwww
『…そっか。ありがとう』
私は、まいう棒の包みを開けて、一口頬張る。…これは中々癖になる味だ。
私は紫原君にも一本渡して、空の移り往く色を飽きもせずに眺めていた。
…今年の文化祭は、まいう棒の新作の味で終わるのも悪くないな、と思った。