帝光編


乙女達の宴


「苗字さん!!」
突然、私の前にずいっと乗り出して来たのは、[和泉やよい]と言う女子生徒。

時々、気楽に話すクラスメイトだ。
桃井さつきの親友でもある。
『何?和泉ちゃん』

何だか今日の声かけは、気合が入っているな。
と、思ったら…彼女は桃井さんを伴っている。
…何だか…そこはかとなく…いや、壮絶に嫌な予感がする…

「苗字さんって、今は料理部の部長をやっているよね?」
『うん。3年の先輩達が引退したから、今は私が引き継いでいるよ』
「それで、折り入っての相談があるんだけど…」

これは、ますます嫌な予感が濃厚になって来た。確か今の時期って…

「さつきに、バレンタインの手作りチョコレートを指南して欲しいんだけどっっ!?」
うっわーーー!やっぱりぃーー!?嫌な予感が的中したーーー!!

『ゴメン、無理っ!!!』
「うわ速攻で断られたー!!」
「えーーーっっっ!!!???」
桃井さん、涙目だ。ゴメンね、私は犠牲者を出す手伝いは、料理部長の名に懸けて出来ないの。
こっそり心の中で謝る。

「さつき…無理だって…」
「仕方無いよね…」
桃井さん、俯いて悲しそうに呟く。
心は痛むが、これで手作りを諦めてくれれば…

「こうなったら、自力でやるしかないわ!!だって、何が何でもテツ君にあげたいんだもの!!!

ちょーーーっと待てーーーーぃぃぃぃぃっっっっ!!!!
彼女に自力でやらせたら、屍の山が出来るわっっっ!!!!つかテツ君って黒子だろ!?

…私がここで断ったら、黒子君の命が危ない!!
黒子のバスケの主人公が…!!話が始まる前に終わってしまうっっ!!!

『待って!』
私は去りかけた桃井さんの腕を掴む。
「…え!?」
『……やるわ。バレンタインチョコの作り方、教えようじゃないの!!』
「えっっ!?いいの?」
『女に二言はないわ』たった今、ひっくり返したけどっ!!
「ありがとうっっ!!!」

桃井さんに抱き付かれた。…くっそー…胸、でかいなー…少し寄越せ。

※※※

料理部の企画と言う事で、希望者の女子を他にも募って、特別に臨時教室を開く事になった。
桃井さんは、バスケ部に休みの許可を取っている。

バレンタインの手作りお菓子を作りたい女子は沢山いるので、かなりの盛況ぶりだ。

他の人は纏めて教えるけど、桃井さんには特別に私が専任講師となって、付きっきりで教える事になった。
だってこの人、目を離すと何をやらかすか分からないんだもの。
和泉ちゃんにも釘を刺されたしね。

今だって、ほら。

計量もせずに、いきなり小麦粉…
『ってーーー!?待ったあああああああ!!!!』
私は、慌てて桃井さんから、今しがたボウルにぶちまけようとした小麦粉を救出した。
『はぁはぁはぁ…』
「あれ?苗字さん、どうしたの?」

桃井さんは可愛いエプロン姿で小首を傾げて聞いてくる。
そして、何故か片手には着火マンw
…そのままぶちまけて火を点けるの?
粉塵爆発でも起こす気か?…良い子はくれぐれも真似をしない様に!

姿だけなら、そこらの男子をノックアウトしてしまう程可愛いのだが、やってる事は自覚がない分、破壊力抜群である。
しかもこれって、小麦粉でも強力粉じゃんw
グルテン多過ぎ! パン作るんじゃねーんだよ!菓子用なら、大体薄力粉だろ。誰だよ?出したの…

『先ずは手順の確認!レシピを頭に叩き込んでから始めてね』
「あ、そうだったね!最初はチョコレートだっけ?」
『…そうだけど。…そう言いながら何故、生のクロレラを握っている…?』
「だってー、クロレラって身体に良いでしょ?テツ君に強くなって欲しいから…」
『チョコレートに投入したら、分離するからヤメテ』

彼女につられて私まで可笑しくなってる。
分離の問題以前だろ!つかどこから手に入れた?生クロレラなんて!?

『…何を作る筈だったのか、忘れそう…』私は頭を抱えた。
「いやだわ、苗字さん、ブラウニーを薦めてくれたのを忘れたの?」
『そうだった…ブラウニーよね!』そこは、ちゃんと覚えてはいたんだな…

「先ずはヨーグルトを100gっと♪」
桃井さんは計量する。計量は良いけど、それが何故ヨーグルト?しかも100gてw
乳酸菌シロタ株入りのチョコ菓子ヘルシー♪♪…じゃねーよ。
『はいっ!ヨーグルトは危険だから、冷蔵庫に仕舞っておこうね!』
私はすかさず桃井さんからヨーグルト生乳100%を取り上げ、冷蔵庫に仕舞った。危ない危ない…ww

トントントン…
そうそう、その調子!チョコレートを刻んで湯煎にかけ…って。
『桃井さん』
「なーに?苗字さん?」
『…その…今刻んでいるのは何かなー?』
「うふっ♪プ・ロ・テ・イ・ン!」
私はにっこり笑って『はいっ、撤収〜♪』
誠凛の監督か。

「えーっ…折角テツ君に筋骨逞しく成長してもらおうと思ったのにー」
『黒子君は、そのままでも十分魅力的だと思わない?』
「苗字さん?…もしかして…苗字さんもテツ君を…!?」
『いやいや〜黒子君は、私の友達なだけですよ』
友達を見殺しには出来んわ。ここで主人公死んだら、ストーリー成り立たないし。

良いから、早くまともに取り掛からせて欲しいだけ。…いつになったら、チョコレートとバターを湯煎出来るんだ?
普通に作るって…こんなに難しい事だったんだっけ??

※※※

『ぜえぜえぜえ…』
「苗字さん、大丈夫?」

い、一応生地を作った所まで行った私を、誰か褒めて欲しい。
それでも、セーフティに、自分の分のブラウニーを一緒に作ってはいる。
普段なら、そんなに難しいお菓子じゃないので、すぐに作れるんだけど、桃井さんから常に目を離す事が出来ないので、グランド10周疾走した位には疲弊している…と思う。

『後は型に入れて焼くだけ。…よく頑張ったね!桃井さん!』
「苗字さん…!ありがとう!貴女のお陰よ!」

私は、生地を予め温めていたオーブンに入れて、温度と時間を調整してスイッチを入れた。
これで、後は焼き上がるのを待つだけだ。

そして、ラッピングまで見届ければ、私の任務は完了!!

ふと、色々な物が散乱しているテーブルを見て、私の目がある一点に釘づけになった。
[卵黄にんにく・赤マムシ入り]

………いつの間に?

袋…口が開いてる。
手に取って、逆さにして振ってみた。

うふふふふふ…空っぽだー?

そして更なる危険物を発見。

髑髏のマークが付いているが、そのものは別に毒物じゃない。
…使い方さえ間違わなければのサドン・DEATHソースと、リコリスグミ一袋…www

ソースの瓶を振ってみた。
…中身は空の様だ。

…………。

カプサイシンは新陳代謝を上げるって…言いますけどね。朝鮮人参も入っているみたいだし?
…そう言えば、少しだけ彼女の生地が緩かった様な気がしたんだ……どれだけ入れたのか…気になる。

それにリコリスグミ…
リコリスとは、主に北欧で食されている甘草だが、大抵の日本人の舌には合わない。

それにしても、どこから手に入れてきたんだ?

『はぁ…』
私は脱力した。

………終わった……。
私は…負けた…orz

私は遠い目をして、黒子君の命を守るべく、最後のセーフティに賭ける覚悟を決めた。


正直言って…この手段だけは使いたくは無かった。
出来れば、桃井さんには自作のチョコブラウニーを黒子君に渡させてあげたかった。

心は痛むけど…犠牲者を出す位なら、私は手段は選んではいられない。

私は、自分のと桃井さんのブラウニーを何食わぬ顔してすり替えた。
桃井さんは、冷ました自分の(本当は私のだけど)をラッピングして、大喜びで持って帰った。

少なくとも、これで犠牲者は出ない筈だと、この時の私は思っていた。
それが甘過ぎる判断だった事を…じきに思い知らされる事になるのだが。


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