White in 帝光
今日はホワイトデー。
バレンタインデーのお返しなんて、日本にしかない風習だけど、女の子達の一部ではそれなりに盛り上がっている。
-放課後-
「苗字さん!」
桃井さんと、和泉さんが私の席に来て、息せき切ってまくし立てる。
桃井さんからは、頭からお花が散っているみたいに幸せそうだ。
「ありがとうっっ!!苗字さんが手伝ってくれたお陰で、テツ君に無事に渡す事が出来て…
それでさっき、テツ君からお礼、貰ったの!」
桃井さんは、ピンクのマシュマロが入った、ラッピングされた可愛らしい袋をヒラヒラと振り、私に見せて来た。
「ああ…幸せ…今日は、これ抱き締めて寝ようっと!」
そんな桃井さんに、私は苦笑交じりに忠告する。
『桃井さん、気持ちは分かるけど…マシュマロはゼラチンで出来ているから、ずっと抱いていたりしたら体温で溶けちゃうよ?』
「…それに潰れちゃうんじゃない?」
和泉さんも続けて付け加えた。
「えー…」
桃井さんは残念そうに口を尖らした。
『マシュマロはそんなに保たないから、早めに食べてあげた方が、黒子君の気持ちに報いるにも良いと思うよ』
「そ…そうだね!!ありがとう!」
可愛らしく顔を紅潮させて笑顔で帰っていく桃井さんに、私は心底ホッとしていた。
「苗字さん、さつきの面倒を見てくれて、ありがとうね。…大変だったでしょ?ごめんね」
それに、私は乾いた笑いで返した。
いや、大変なんてもんじゃなかった。
次もあんな調子ならマジ無理。勘弁して。
そして、私はそろそろ部活に行こうと支度をして教室を出た所で、ひっそりと呼び止められた。
「苗字さん」
『うわ!びっくりした!!!』
私を呼び止めたのは、黒子君。相も変わらず気配がない子だなぁ。
「…すみません。あの…これ」
黒子君が出したのは、透明の小袋に、可愛らしい模様が入っている…桃井さんが見せてくれたのと色違いの袋。
中には、白いマシュマロが入っている。
『何これ可愛い。…もしかして、くれるの?』
私の問いに、黒子君はコクリと頷いた。
『ありがとう。でも何で?…私は黒子君にはあげていないのに』
「…あの、バレンタインデーの時に、僕の命を救ってくれたと赤司君から聞きました。そのお礼です」
じゃあ、黒子君は、あれが桃井さん作ではないって事は知っていたのね…いいのかな?バラしちゃって。
…しかし今サラリと凄い事言ったよね、この子。
その時に、チラリと緑色の頭が見えたが、私が視線をやると、緑間君はふいと視線を逸らし、通り過ぎて行った。
…何だろ?この教室に用があったのかな?
私は小首を傾げた。
※※※
-緑間side-
俺には全く関係がない話だが、世間ではバレンタインデーとやらの一か月後には、ホワイトデーとやらがあるらしい。
キリスト教徒でもないのに、クリスマスと同じく世間は浮ついている。…全く馬鹿馬鹿しいのだよ。
しかもホワイトデーときたら、キリスト教とすら何の関係もない、お菓子業界が商業主義ででっち上げた日でしかないのだからな。
それで、バレンタインデーが女性からの告白される日なら、今日のホワイトデーが貰った男が返事をする日、らしい。
俺は、バレンタインデーには、それなりにチョコレートを貰っていた。
勝手に寄越した物に、特に返す必要性を感じないので、俺は先日まで無視を決め込む事にしていたのだが…
しかしバレンタインデーに、赤司を通じて菓子をくれた苗字には、恋愛に関係無く何か返したいものだと思っていた。
3/13、ホワイトデー前日の体育館で、引退した虹村先輩が久しぶりに顔を出した。
「おー、お前等!久し振りだな!」
「お久し振りです。先輩」
赤司が先輩に応対している。
その時に出席していた、黒子と桃井、偶々出ていた紫原が集まった。
「おう、紫原は身体はもう平気か?青峰は出てないみたいだが、あいつも大丈夫だろうな?」
「もう大丈夫です。その節は、お世話をおかけしました」
「俺は別に良いけどよ。赤司、苗字だったか? あいつにはちゃんとお礼しとけよ?」
「…そうですね。そう言えば、バレンタインデーにお菓子まで貰っていたのでしたね」
赤司の言葉に、紫原が膨れた。
「いいなー、赤ちんとミドチンは、綽名ちんから手作りのお菓子貰えて…」
そんな紫原を赤司が軽く睨むと、紫原は大人しくなった。
「敦、そうなったのは、そもそも誰のせいだと思っているんだい?」
赤司の口調は柔らかだったが、有無を言わせないものだった。紫原が巨体を縮こまらせてしゅんとする。「…ごめんなさい…」
赤司は、紫原に料理部部長の許可なく、調理室に立ち入る事を禁じていた。
あれだけの騒ぎを起こしたから当然なのだよ。
…しかし、ここにいる桃井と黒子は、同じクラス・元同クラスだから良いとして。
…赤司、紫原、学年まで違う虹村先輩までもが苗字と知り合っているとは…何だか微妙に面白くないのだよ。
別に今まで知り合う機会も必要もないから、俺は特に声をかけたりはしていない。
それでも、成績は俺と張り合う位には良いし、彼女の描いたポスターはファイルに入れて大切にしている。
彼女の描く絵は、俺の好みに合っているし、そう言った意味では非常に興味がある相手なので、一度位はじっくりと話してみたいと思っている。
赤司にでも言えば紹介してくれるのだろうが…それも少し躊躇するのだよ。
でも、ホワイトデーか…
確かに、紫原が固執するのが分かる位に、苗字の作ったチョコレートケーキは美味しかった。
それのお礼を口実に、話しかける機会を持つのも良いかもしれない。
彼女の好みの菓子やデータは、桃井にでも聞くのが良いかもな…勿論、口止めは必須だがな。
俺は、ホワイトデーのプランを一人頭の中で練り始めた。
商業主義に乗るのは気に入らないが、こう言う時には便利なものだ、と思いながら。
桃井に苗字の誕生日を聞いて、俺のプランは固まった。
同じ星座なら、ついでに次の日の蟹座のラッキーアイテムである紅白饅頭をあげればいいのだよ。
キャンディーやマシュマロ、クッキー等が定番と言うから、和菓子をあげても別に問題は無いだろう。
俺は放課後、苗字の教室に行ったら先客がいた。
黒子と苗字は、何やら楽しそうに話していて、俺は声をかけるのを憚られた。
そして、ふと手元を見ると、持って来た筈の紅白饅頭が無くなっている事に気が付いた。
どこに落としたのだろう?
俺は慌てて饅頭を探し回った。