幻のホワイトデー
体育館に行くと、紫原と他のメンバーが何かを食べている所に出くわした。
「…?何を食べているのだよ?」
「あーミドチン〜。更衣室に置いてあったのー。ミドチンも食べる〜?」
俺は、衝撃を受けて頭の中が真っ白になった。
「紫原っっ!!それは俺の紅白饅頭っっ…!!返すのだよ!!!」
「もう食べちゃったしー? 4/1個くらいなら、まだ残ってるけど〜?」
「白い方の饅頭は全部食べたのか!?四分の一の紅饅頭になってしまったら、それはもう、紅白饅頭とは言わないのだよ!!」
俺は激怒し、周りに宥められた。
紫原もヤツなりに悪いと思ったらしい。
「ごめーん、ミドチン。これあげるから〜」
紫原は、まいう棒のクリームシチュー味一袋を寄越した。
…これはヤツなりの謝罪なのだろう。…ラッキーアイテムを彼女にやると言うプランはご破算になってしまったが、
俺は、気持ちを受け取る意味で、まいう棒一袋を受け取る事にした。
俺は、苗字の教室に行った。
確か桃井と同じクラスだったはず。
しかし、彼女はいなかった。
もしかしたら、部活に出ているのかもしれない。
俺は美術室と調理室に行ったが、苗字の姿は見当たらなかった。
再び教室に行ってみたが、やはり彼女はいなかった。
まだ教室に残っているヤツに彼女の席を聞き出し、席を調べた。…鞄が残っている。まだ帰ってはいない様だ。
では、まだこの学校のどこかにいるのか…?
そろそろ部活に出る時間が迫っていた。時間切れだ。
俺は仕方なく、苗字の机の上に、まいう棒の袋を置いて立ち去った。
※※※
-名前side-
私は、美術室に向かう途中で、赤司君に捕まった。
「苗字さん、丁度いい所に。…ちょっと付き合って欲しいんだ」
その言葉に、周りにいた友人達は叫び声を上げ、私は顔を引きつらせた。
付き合うって…そんな意味ではないだろう。この場合、顔を貸せ、って言ってる様なもんだ。
赤司君と並んで歩きながら、私は自分が何かやらかしたのか、頭の中で自問自答を繰り返していた。
…思い当たるのは…やっぱりアレかな?
一か月前、私がうっかりバレンタインデーにチョコケーキをあげた序でに、緑間君にも渡すように託けたせいで、可笑しな噂が流れてしまっている。
乃ち…赤司君と緑間君の仲が…デキているのではないかと。
…恐らく、どちらにも確かめた猛者はいないだろう。
でも、赤司様なら、どこからかそんな不穏な噂を聞き付けても不思議ではない。
私は、そんな噂は、すぐに立ち消えになるかと思っていた。
しかし、その設定(?)は以外にも支持率が高く、一部の帝光生に、まだ根強く残っていた。
BL設定疑惑の原因になってごめんなさい、と謝ったり否定するのもおかしな話だし、私は、それに関しては知らぬ存ぜぬを貫き通していた。
私は内心の冷や汗を押し隠して、何食わぬ顔でついて行った。
着いた先は、誰もいない生徒会室。
赤司君は、生徒会室も自由に使う権限があるらしい。
赤司君と私は、向かい合ってソファに腰かけた。
「苗字さん、忙しいのにわざわざご足労願ってすまなかったね」
『…いいえ。大丈夫です』
「先月のバレンタインデーの件だが、以前にも伝えた様に、紫原と青峰には後遺症は無かった様だ。病院の精密検査でも大丈夫だったよ」
私はホッと息を吐いた。
『…犠牲者が出なくて、何よりです』
「そう。…それで先日のバレンタインデーのお返しだが、受け取って欲しい」
赤司君が差し出したのは、綺麗にラッピングされた高級なフランスのメーカーのクッキーの詰め合わせだった。
『えっ…!?こんな高級なものを?』
いくら何でも、私の手作りのケーキとじゃ釣り合わないんじゃないかなぁ?
「高級とか、値段の事を言うのは野暮と言うものだ。僕は苗字さんがくれたケーキは、それ以上に美味しかったと評価しているから」
作ったケーキを褒められるのは素直に嬉しい。
『ありがとう!』
私が義理でもお返しを貰えるとは思ってはいなかった。
もし人前で渡されたら豪い騒ぎになってしまうから、配慮してくれたんだろうな。
そして、私が生徒会室を辞する時、赤司君がオッドアイを煌めかせ、耳元でそっと囁いた。
「例の噂に関しては、気にしなくていいよ。僕も緑間も、余計な連中に纏わり付かれなくて良い牽制になる」
うっ…!!!
私は、何故かもう速攻で謝っていた。解せぬ。
部活が終わって、帰り支度をするべく教室に戻った。
そうしたら、何故か私の机の上に、まいう棒クリームシチュー味が一袋置いてあった。
『…何で?まいう棒???』
まいう棒と言ったら、紫原敦だけど…私は別にバレンタインデーには何もあげてない…いや、桃井さん作のケーキを奪われたけど、あげてないし。
普通、いくら何でもホワイトデーに貰う物だとは思えないよなー…?
心当たりが無さ過ぎる。
もう、ここまで来ると、いっそ怪奇現象と言っても過言では無い様な気がして来た。
そして、その謎が解けるには、およそ二年の月日が必要になるのだった。
※※※
-秀徳高校・一年冬-
「へぇー…そんな事があったんだー?」
『ねー和成君、おかしいでしょ?』
「…別におかしな事ではないのだよ」
『え…?』
「真ちゃん…それって…もしかして……?」
真太郎は、黙って眼鏡のブリッジを上げて、そっぽを向いた。耳が赤い。
『あんたの仕業かーーーーーい!!!???』
「仕方なかったのだよっ!紅白饅頭が紫原に食べられたから、代りに貰ったのだよ!!」
『意味分かんないし!!!??ホワイトデーに紅白饅頭のセンスって!!!』
「ラッキーアイテムだったのだよ!!」
『それって、私が蟹座って知ってたって事だよね? なのに初対面で、わざわざ聞いたのは何で?』
「〜〜〜///!知らんっっ!!!……わ、忘れてたのだよ!!」
そこで狼狽えながら言っても説得力が無いわ!!!
高尾君は腹を抱えて笑い転げている。
「名前ちゃん、そこ突っ込んでやるなよwww真ちゃんがツンデレだって分かってるんだろー!?」
二年越しの謎が解けた後に残ったのは、ホワイトデーのお返しの紅白饅頭がまいう棒に変わったと言う、シュールな事実だけだった。